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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】東京高円寺で開催された〝奇怪なイベント〟「みんなで生前葬」
〝扇風機評論家〟で〝愛と死をみつめニスト”でもある星野祐毅さんが奇怪なイベントを開催した。その名も『扇風機評論家・星野祐毅presents みんなで生前葬 ~あなたも棺桶に入れる!死んでもないのに弔ってもらえる!~』。
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生前葬というのは、存命している人物が自分自身の葬儀を行うことだ。これまで芸能人や落語家などがそれを執り行っていたことがあるが、それはちゃんとした儀式として行われていた。このイベントは、そのようなものではなく、高円寺パンディット(東京都杉並区)という会場で行われたものになる。プロのお坊さんも来てくれた。
開場・開演が13時ということなので、ちょっと早く行ってみると、すでにガヤガヤ…。棺桶の中に入れる生け花の準備をしている女性がいる。嬉しそうに白装束の試着をしている人や『遺影』の準備をしている女性もいる。どうやらみんな”元気なうちに死にたい”ようだ(!!)。
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そして、ある程度、お客さんも集まったところで『葬儀』が始まった。それも唐突に。トップバッターは、「気合を入れて死んで魅せます!!」と言っていたサラリーマンAさん。
読経が始まると、「仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空…」。いや、いや、これはホンモノの読経だ。会場は、しめやかな(?)雰囲気に包まれていく。参列者もホンモノの読経にビックリ。お坊さんは、死者をあの世に送るために一生懸命読経を続ける。真面目だ。しかし、なかなか終わる気配がない。やっと終わったのは、読経を始めて20分くらい経った頃だ。みんな“唖然”としていた。棺桶に入って、生前葬を行ってもらったサラリーマンAさんは語る。
「いやぁ~、もう本当にいい体験になりました。棺桶の中にいると読経が子守唄のように聞こえてくるんですね。とても気持ち良かったです。読経も長かったですね~。聞いているうちに眠くなってきましたよ(笑)。棺桶の入り心地も最高でした。大きくもなく小さくもなくといった感じです。これならいつ死んでも怖くないですね(笑)」
この記事を読んでいる人たちにとっては、「どうしてここに棺桶があるの?」となるだろう。タネを明かせば、ある日、星野さんが『エンディング産業展』(主催:エンディング産業展実行委員会)という見本市に行ったところ、入口でガラポン抽選会があり、そこで2等賞の棺桶が当たってしまったという。それを持って来た。
『エンディング産業展』というのは、「人の臨終をビジネスにしている会社が集まって開催している」(星野さん談)もので、「鼻がムズムズしていたので、ティッシュでも当たればうれしいな、くらいの気分で回したら……」棺桶が当たってしまったのだという。そんなことから、「死んでからでは体験できない!めくるめく神秘体験をしよう!」という触れ込みで、今回のイベントが開催された。
そしてそしてだ。サラリーマンAさんのための読経が終わる頃には、会場には、大勢のお客さんが詰めかけていた。「じゃ、今度オレ~」、「わたしも入りまーす」という具合でひとりふたりと棺桶に入っていく。その中には、ふたりで入棺しに来た夫婦もいた。
星野さんは、とてもユニークな方だ。途中、故人の経歴を読み上げるだけではなく、ドナルド・ジョン・トランプ大統領(当時)や安倍晋三内閣総理大臣(当時)からの弔電を読み上げた。さすがに幅広い人脈を持っているだけある(??)。さすがだ。驚かされたのは、写真館で遺影を撮ってきた女性が入棺する際に駄菓子が放り込まれたこと。棺桶に故人が大切にしていたものが入れられることはあるが、駄菓子が入るとは誰も思ってもいなかった。
「寝心地が良かったですね。お経を聞いているうちに寝てしまいました(笑)。始めての生前葬でしたがいい感じでしたよ。次に死ぬときは、お棺に入ってから死にたいと思いました。遺影は、写真館で作って来たんです。2万円くらいかかりました。本当にリフレッシュすることができましたよ!」(写真館で遺影を撮ってきた女性)
「無になりましたね。白装束は、自分のものです。読経も聞こえました。死に対する恐怖はありません。いつ死んでもいいと思っていますから。お花は自分で用意しました。埋れたかったんです。それにしても入棺後の寿司は美味しいですね~」(棺桶の中に入れる生け花の準備をしていた女性)
この日、棺桶に入った人は15名。星野さんの友人もいたが、その多くは、ツイッターを見て足を運んだ人たちだった。喪服で来ていた人もいたし、自身の経歴をA4の紙にびっしりと書いてきた人もいた。みんな真面目なのだ。喪服姿で来た人が全体の7割くらいを占めていたのも良かった。
ちなみに、星野さんが持って来た棺桶は、100万円くらいするものだという。全体が白い布で覆われた綺麗なものだ。最後の最後で会場にいた全員が入棺の体験が終わると、精進落としとして酒と寿司が振まわれた。ひょんなことがきっかけで行われた生前葬だったが、参列者全員、意外な体験ができたことを大変喜んでいた。“チ〜ン“。
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写真・文◎酒井透(サカイトオル)
東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。
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