「金は嘘をつかない」3人の女を服従させ詐欺と殺人に狂った白衣の女王様|久留米看護師保険金殺人事件・吉田純子
吉田純子を中心とした看護師4人組による連続保険金殺人事件。1998年、池上和子の夫・平田栄治さんに睡眠薬入りのビールを飲ませ、静脈に空気を注射し殺害。翌1999年には石井ヒト美の夫・久門剛さんも殺害した。2001年、石井ヒト美の自首により事件が発覚。詐欺の余罪は計2億円にも上る。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。
「恐ろしか女ですよ」
「福岡県警・看護師4人を保険金殺人で逮捕」
2002年4月29日の新聞各紙朝刊は、衝撃的な見出しが並んだ。5月4日、わたしは福岡空港に降り立った。半月前、福岡で北九州連続監禁殺人事件の松永太死刑囚の取材を終えたばかりだった。1人のボスが奴隷のように支配し殺人を強要。この2つの事件の構造はよく似ていた。この年、福岡県に37日間滞在した。
「親思いのいい姉でした。逮捕直前まで高齢の父母の世話をしていました。『世話好きだから向いている』と先生や友人から薦められて看護師の道に進んだ、と姉は言っていたのです。信じられません」
主犯の吉田純子(42)の実弟はショックを隠しきれなかった。吉田と共に逮捕された堤美由紀(42)、池上和子(41)、石井ヒト美(43)は久留米市内の同じ看護学校に通っていた。「白衣の天使」4人の最初の犯行は98年1月、池上の夫(39)の殺害だった。県警担当記者の話。
「カレーやビールに睡眠剤を入れ眠らせ、ひじの内側から注射器で血管に空気を入れて殺害。夫に掛けていた保険金3500万円を詐取した」
99年3月には石井の別居中だった夫(44)を「子供のことで相談がある」と自宅に呼び出し睡眠剤で眠らせ、医療用のチューブで鼻からウイスキーを流し込み、急性アルコール中毒で死亡させた。司法担当記者が語る。
「瀕死状態の石井さんの顔面を吉田は足で蹴り『あんたも蹴らんね』とヒト美に命じたのです。ヒト美は1回蹴ったあと更に平手うちをしているのです」
そして、2人は互いに顔を見合わせ高笑いした。鬼畜にも劣る所行である。この殺害で保険金3300万円を手にしている。2000年5月には、あろうことか堤の実母から預金通帳を奪うことを計画。しかし、殺害は未遂に終わっている。司法担当記者が続ける。
「詐取した金のほとんどが吉田に渡っていてマンション購入や海外旅行、高級エステで散財しています」
吉田純子の実弟が語るまったく別人格の姿が取材でも浮かび上がった。女子校の同級生が語る。
「『あの子が妊娠したから中絶費用をカンパして』とお金を集めていました。被害者は十数人います」
犯行当時別居していた夫の母親が言う。
「純子は泥棒たい。うちの座布団も持っていきよったし、葬式の受付をしとって香典まで持っていきよった。恐ろしか女ですよ」
吉田純子の実像は公判で詳らかにされた。初公判は8月27日午後2時、福岡地裁第一刑事部301号法廷で開かれた。吉田純子は茶色のツーピースにフリルのついたスカート姿。隣の堤美由紀は純子に目もくれずジッと裁判長を見つめていた。白のシャツにパンツを穿いた池上和子は髪を後ろに束ねていた。赤いシャツに白のジャージ姿の石井ヒト美が泣きじゃくりながら最後に入廷。純子の場違いな格好と他の3人のみすぼらしい姿が彼女らの関係を物語っていた。
「金は嘘をつかない。金さえあれば夢を実現できる」
検察の冒頭陳述は、吉田純子の異常な金への執着と4人の特殊な関係を明らかにした。
「幼い頃から自分の家の貧しさを惨めに思い、金を得るために平気で嘘をつく術を身につけた。堤と吉田は悩みを打ち明け合う中で愛情が生まれ『一心同体』になった」
吉田純子は3人の弱みを助ける「先生」という架空の人物を作り上げ精神的に服従させた。池上と石井は、吉田から「夫が浮気をしている」「夫の借金トラブルで自殺者が何人も出た」などと作り話を繰り返し聞かされ、夫を憎むようになり殺害計画に従ったという。
4人は同じマンションに暮らし、吉田は最上階に君臨、池上や石井はゴミ出しや買い物など女中扱い。吉田の部屋に出入りできたのはベッドを共にしていた堤だけだった。不信感を募らせた石井の告白がなければ迷宮入りになっていたかも知れない保険金殺害事件。
池上和子は一審公判中に病死。2010年3月、吉田純子の死刑が確定。2016年3月、死刑が執行された。
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