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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】長崎県長崎市の奇祭『もっとも爺』

 新型コロナの影響によって中止されていた時期を除いて、毎年、2月2日から3日にかけて長崎県長崎市の手熊町と柿泊町で行われている節分行事『もっとも爺』は、驚くほど知られていない〝奇祭〟だ。

 『もっとも爺』は、「年男」、「福娘」、「もっとも爺」の3人一組で構成されている。

 先頭に立って歩く「年男」は、「鬼は~ソト~」と言いながら豆を撒き、その後に続く「福娘」は、「福は~ウチ~」と唱えながら歩いていく。

 そして、最後にいるのが子どもたちに恐れられている「もっとも爺」だ。どこの家も突然、「もっとも爺」が居間にあがりこんで来ると大パニックになる。

顔面黒塗りの男、もっとも爺

「もっとも~~~っ!!」(もっとも爺)

「いやだ、いやだよぉ~~~!! たすけてたすけて~~~」(子どもたち)

『もっとも爺」は目ん玉をひん剥いて大声を上げる。するとビックリした幼い子どもたちは、大粒の涙を流して逃げまどったり、母親に抱きついたりしている。

 〝長崎のなまはげ〟とも呼ばれている『もっとも爺』は、節分の目的通り、〝災厄を祓って福を招くもの〟に変わりはないのだが、他の地方の節分行事とは違い謎が多い。起源などがハッキリとしていないだけではなく、何故「もっとも~~っ!!」と叫ぶのかも良く分かっていない。

 衣装などや所作も2つの町によって少しずつ異なっている。手熊町の「もっとも爺」は、顔に赤や黒のドーランを塗って棕櫚蓑(しゅろみの)を着ているのだが、柿泊町のそれは、ドンキホーテなどでも買うことのできるような面を被っていて、手には独特の形をした杖が握られている。

「『もっとも爺』は、神さまの役割を担っているのだと思います。だから正装をして蓑の笠を被り、顔を黒く塗ったりしているのでしょう。神さまが農夫に化けたと思ってもいいのでしょうね。居間に入ってから床を踏みならすことで、鬼を外に追い出すのでしょう」(手熊町の長老)

 『もっとも爺』は、子どもが泣けば泣くほど、大きな幸せを呼び込むことができるとされている。この日のために、孫を実家に呼び寄せる家庭もあるという。毎年、春が近づくと、『もっとも爺』がやって来る。これらの町で暮らしている子どもたちは、春を数えながら成長していく。

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://x.com/toru_sakai

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