【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】小笠原の「首の無い二宮金次郎像」
汗をかく不思議な像
「東洋のガラパゴス」と呼ばれる小笠原諸島は、2011年にユネスコの世界自然遺産に登録されたことも手伝って、長年、大勢の観光客で賑わってきた。そんな小笠原だが、父島に不思議なスポットがある。
父島の中央の山間部を貫く夜明道路沿い、初寝浦展望台の近くにある二宮金次郎の像がそれだ。この像、良く見ると首の部分がない。島に伝わる「伝説」によると、元々は、小学校の校庭に置かれていたそうだが、戦時中に軍事施設のあった現在の場所に移されている。首の部分がないのは、日本の敗戦後、駐留米軍が帰国するときに〝ある者〟が、お土産として首を持ち帰ったからだという。それでも金次郎は、本を読み続けている。
この像については、身の毛もよだつような話がある。今から10年以上前、怖いもの見たさで行った30代前半の旅行者は、えも言われぬ体験をしている。
「二宮金次郎像のことを知ったのは、島に着いてからのことです。驚きましたね。真夏の夜なのにびっしりと汗をかいていたんです。あれは、ツユではなかったと思います。その日は、雨も降りませんでしたし。コンクリートでできていると思うのですが、着物も湿ったようになっていたんです。見たのは、自分たち3人です。宿にいた旅行者の人たちと行きました。その中の一人が『何かさ、子どもの声が聞こえるょ…』と言うので、慌ててその場を離れました。他の観光客の人たちは、怖がって来なかったですね。それにしても不思議な話です。夜中の1時頃のことでした」
小笠原諸島の玄関口である父島に行くには、東京港竹芝と父島二見港間を結ぶ「おがさわら丸」(小笠原海運株式会社)に乗らなければならない。小笠原には、飛行場がないので、船に乗って行くことになる。「おがさわら丸」は、およそ週一回の割合で運行されていて、片道約1000キロを約24時間かけて運行している。そのため、小笠原諸島は、東京都であるにもかかわらず、異国を思わせるような自然が残されている。
もしも、小笠原に行くことがあったら、二宮金次郎の像を見に行こう。ちょっとした体験が待っているかも知れない。