競艇選手いきつけの隠れ居酒屋でまさかの…(福井旅行 後編)┃ヤスデ丸の1万逃歩日記 #13
なかなか運動する機会もないため、毎日1万歩は歩くように心がけている編集部員ヤスデ丸(27歳・独身女性)。健康増進というだけでなく、散歩は日々の現実逃避にうってつけ。その道中で見たもの聞いたものは、こんなもの──
北陸地方唯一のストリップ「あらわミュージック館」で3人の踊り子たちと鼻の下を伸ばし脇を締めてチェキ撮影。空腹の腹を満たしに懐かしの花園をあとにする。駅前の観光エリアの店舗はどこも満席。まーハナからそんなとこ行く気もないけどね! と人気の少ない道を歩いていると「すみれ」と書かれた暖簾を発見。すでにチェックインしている"相場の半額の民宿”で通された我々の部屋の名も「すみれ」である。
「あら、はいはい、こんばんは。今片付けしてんねん。そこ座ってな」
おばちゃん女将が勧めるまま、テレビの見えやすいカウンターの席に座る。座敷には大量のお皿。さっきまで団体さんが来てたのかな? 時刻はまだ19時すぎ。いかにも早くから酒盛りを始めたい地元のおっちゃんたちが好きそうな店だ。
とりあえずビール、それから黒板のメニューを中心に注文した。いや、むしろ黒板にしかメニューはなかったかも? 記憶が不確かなのは、全部やたらと旨すぎること、そのせいで酒が進みすぎたことにある。
「女将さんは大阪の方なんですか?」
「昔はね。でもこっちに来て長いんよ」
パキパキ喋る姿はいかにも関東の人間が思い浮かべる関西人そのものものながらも、笑顔はどこか人懐っこい。テレビにはフィギュアスケートの大会が流れている。
「ま、昔は好きだったんやけどね。真央ちゃんとか羽生くんがいた時期。でも今はパッとしないやん。ほんで今はどっちかゆうたら、競艇やな。そのサイン、ほとんど競艇の選手やで」
そう言われて女将の指差す方に目をやると、なるほど、ズラッと並ぶ色紙の多くには、サインと共に"番号”が書かれている。
「◯◯くんて選手(かつて年間賞金王にもなった有名選手)がな、ある時たまたま来てくれてん。それ以来いろんな子連れてきはるようになってな」
その"選手”の話をしている女将の顔、もはや恋する乙女。これまでのエピソードを色々と聞かせてくれた。すると、乙女のスマホに一本の着信。
「え、ほんま! もしかしたら来てくれるかなと思っててんけど……言うてくれたらいいのに! んもぉ~」
聞くと、まさかの先程話していたその選手ご本人が店に来店するというのだ。かなり久しぶりの来店というから、乙女はそれはそれは浮足立っている。
「どうも、お久しぶりです」
しばらくすると現れた選手。おお~~~これまたスラッとしたダンディなお姿ではないか。そりゃ女将もホの字になるのも無理はない。
美味いアテと日本酒を3合、気づけば1時間経っていた。その頃には、隣に座った寡黙そうな"選手”とも、我々に競艇のアレコレを教えてくれるほどの仲に(主に同行者が)。我々が明日、三国競艇場へ行くと話すと、
「それなら◯レースの◯番選手、この人勝つからね! あと◯番と……」
とまあ、予想屋にいらずの見解を聞かせてくれた。最初に挙げたのは後輩の有力選手らしい。一応言っておくが、もちろん八百長ではない。
あっという間に22時すぎ。さてお勘定。
「いえいえ、ここは僕に払わせて。その代わり、明日はあいつに入れてあげてね」
と選手。マジかよ、いい男すぎやろ……。相当飲んだし食べたので、と断ったものの、なんだかんだでありがたくご馳走になってしまった。さすが日本トップ選手、スレンダーな体型ながらも太っ腹だ。袖振り合うも多生の縁、明日は選手の言った通りの舟券も買うぞ!
代行で民宿・ニュー越前に戻る。チェックインした夕方には我々の1台しか泊まっていなかった駐車場には、車がびっしり。そのほとんどは、クレーン車や大型トラックだ。
エントランスに向かうと男性が2人が灰皿を囲っている。聞くと、福井のとある名門ゴルフ場の整備のため京都からやってきた業者さんらしく、朝5時ごろには出るとのこと。どんな風に整備をするのかとか、他にどんな仕事を依頼されるのかなど、寒空の下で数分私の立ち話に付き合ってもらった。
喫煙エリアをあとにし、2階へ上がる。なんと! 夕方はガランとしていた客室がどこも満室になっているではないか!
オーナーのおっちゃん、嘘ついてなかったんだな……。大繁盛ですね、大変失礼いたしました。
部屋に戻り、ストリップ劇場で踊り子さんにいただいた手製のおにぎりを食べる。人の作るおにぎり、大好きなんだよな。パリパリ海苔より、しっとり海苔派。
寝支度をし、布団に入る。壁が薄いので、テレビの音やイビキがうっすらと聞こえる。いや、イビキはめちゃめちゃ聞こえた。ぐぅー。かぁぁあーー。ごーーーーー。
私は子供の頃、女5人で暮らしていたことがある。
隣室の伯母のイビキがめちゃくちゃうるさい時期があったのだが、そのイビキには不思議な魔力があり(実際、かなり変わった女で、ある意味魔女のようだった)当時暗所が苦手だった私もそのおかげですぐに入眠できるのだ。
そんな幼少期よろしく、気づいた頃には眠りについていた。まだ月の出ているであろう早朝に、ドタドタという足音とともに床板が揺れる。
昨日の人たち、もう現場入りか。偉いなぁー。
薄い床に寝返りを打ちながらもぐっすりと眠り(私は元から睡眠が浅い)朝を迎えた。
◆思ったより長くなっちゃったので完結編に続く◆