【前編】慰謝料踏み倒し上等?パチンコ帰りにバイクと衝突…裁判官も呆れた男の弁明【ヤスデ丸の裁判傍聴ファイル #5】
いつ被害者に、そして加害者になるかわからないのが自動車事故。みなさん、任意保険はしっかり入っていますよね? ちなみにバイクに乗る方は、自動車保険で賄える部分があるのはもちろん、医療保険と分けたほうが得だったりするので、保険屋さんに搾り取られないようにね。さて、今回は保険が切れた車で起きた事故の裁判ですが……
「直接会って謝罪したい」けど
慰謝料を払う目処はない
もう9月も最終日。すっかり秋めいてきた今日このごろだが、夏が始まったばかりの梅雨ごろに傍聴した、過失運転致死の裁判について記したい。
ジトジトとした、四方八方が室外機に囲まれているのではと思うほどの蒸し暑い日。早朝からジリジリと照りつける太陽の下、うちの近所のパチンコ屋には既に長蛇の列。ご苦労さまでございます。
霞が関には弾劾裁判を求めるプラカードや模造紙を掲げた還暦前後の男女の姿。地下鉄を降り、わずか数分歩いただけで背中をつたう汗に不快感を覚えながら裁判所に入り、法廷へ向かう。
開廷20分前だが、傍聴席には既に何名かが座っている。刑事裁判の場合、法廷の奥から手錠をかけられたスウェット姿の被告が刑務官に連れられてくることが多いが、今回は傍聴席側の扉からスーツ姿で髪を一本に結いた男性の被告人が現れた。過失運転致死傷罪の勾留率は、20%前後と低いため、自宅から出廷したためである。
27歳の被告人は、自身の勤める会社の車でパチンコ屋から帰宅途中、右折時に対向車線を直進していたバイクと衝突。バイクを運転していた男性は、病院へ搬送後、死亡が確認された。
筆者もバイク走行中、とんでもないタイミングで右折してくる対向車両に遭遇したことがあるが、バイクは車と比べて車体が小さいため、車の運転者は車間距離があると錯覚して曲がってしまうとのこと。
さて、事故というのはいつ誰に起きるかわからず、運悪く被害者に、運悪く加害者になってしまうものとも言える。しかし、今回の被害者は特に浮かばれない。
というのも、被告人の運転していた社用車の任意保険が期限が切れており(マジかよ)、当然、慰謝料は自賠責のみでどうこうできる額でもなく、被害者家族は「あまりにも無責任」と面会拒絶状態。
弁護人質問で「直接会って謝罪したい。自賠責で賄えないお金は働いて返す」と答える被告人。しかし、元職場は解雇され、家族や友人に当たったものの、現状新たな職は見つかっていないという。
示談金にせよ慰謝料にせよ、加害者というものは“せめてもの償い”として被害者側にお金を支払うわけだが、いくら金を積まれようとも、亡くなった家族が帰ってくることは二度とない。
被害者家族の暗雲が完全に晴れることはない。
そう思うと、「会って謝りたい」というのは、もはや加害者側のエゴかもしれない。せめて、本当に心の底から申し訳ないと思う気持ちを目に見える形で見せ続けるしかない。だのに職探しすらも放棄とは……。
「ハァ~……」
法廷に響く大きなため息。
正面に目を遣ると、裁判官が無造作に頭をポリポリとかいている。裁判官、
「ハァァア~……」
二度目のため息。これみよがしにめちゃめちゃ呆れてんじゃん! そして畳み掛けるように被告人に問い始める。
>>後編に続く