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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】岐阜県加茂郡川辺町・下麻生縣神社の『〝こじき祭り〟』

 ボロボロの服をまとい、ボサボサ頭をした〝乞食〟が、湯飲みにつがれた酒をグビグビと飲んでいる。かと思いきや、弁当が差し出されると、それをガツガツと食べ始める。

 で、おなかが一杯になったら大イビキをかいて寝る(!!)。それなのに、小銭を握った人が近づいて来ると「パッ」と起き上がり、金属製の鍋を差し出す(!!)(!!)。

 まるでB級映画に出てくるようなシーンをクソ真面目にやっている祭りがある。

顔も指もまっ黒

 毎年、4月1日に岐阜県加茂郡川辺町の下麻生縣神社で行われている「桶川まつり(俗称:こじき祭り)」は、奇祭中の奇祭だ。

祭りが行われる下麻生縣神社。あいにくの雨ながら人手は多かった
神社内では神妙な神事が行われていた

 「主人公」は、この〝乞食〟さん。祭りが始まる頃、どこからともなくやって来ると、境内の片隅に敷かれているムシロに座り込む。どんなに雨が降っていてもカンケーない。どこからかやって来る…、のだ。この祭りの由来を区長さんが説明してくれた。

 「江戸時代に飢饉がありまして、こじきが神社の境内に住み着いたことがあります。食糧難だったにもかかわらず村人は施しを与えました。その後、村人が雨乞いを続けると、雨が降って農作物は生き返ったのですが、こじきの姿はありませんでした…。その後、村人の間で『あれは神の使いや!!』ということになり、特別に仕立てたこじきにおこわ(赤飯)を与えるようになったのです。こじき役は、毎年代わる代わるやることになっています。今年は、雨が降っているからさぞ寒いことでしょう(笑)」

 この祭りのクライマックスは、終盤にやってくる。おこわがたっぷりと入ったたらいを男衆がかついで、鳥居と乞食の間を何往復もする。そして、「エィヤー!!」というかけ声とともに〝乞食〟の前でブチ撒ける(!!)(!!)。おこわは、食べるものなのに…、だ。

おこわを恵んでもらう。あげる方も、もらう方も笑顔
タバコももらっていた。まさに「こじきは神様」

このときに繰り広げられるのが、集落の人たちによる激しい争奪戦。それはバトルさながら。何故ならば、「おこわを食べると安産などのご利益がある」と言われているからだ。さっきまで弁当を食べていた〝乞食〟もムシャムシャと食べている(苦笑!!)。

 筆者は、何ともこの光景が可笑しくてカメラに納めていたのだが、村の人から「そんなことしていないで、アンタも食べなさいよ!!」と言われてしまった(驚!!)。

 ホンワカとした雰囲気に包まれた「桶川まつり」は、郷土を愛する人たちによって支えられている。ちなみにブチ撒けられたおこわは、とても美味しかった。撮影しながら、口の中に放り込んでみたのだった(糞爆)。

子供たちにも大人気!



写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://x.com/toru_sakai

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