【インタビュー】フッドリッチトーキョーRAKO「安藤組“餓狼の血”を継ぐ男」の半生(前編)
祖父は「安藤昇の言うことを聞かなかった唯一の男」
まだ残暑がただよう秋の日のことだった。
「来たか」
渋谷の鰻屋の門をくぐると、その人はすでに待っていた。伝説の元ヤクザであり、異色の映画スター。歳は召していたが、目をまともに見れないほどのオーラがあった。
「楽にしていいぞ。で、今は何をやってるんだ」
「パクられて出てきて、今は抗争を繰り返しています。××組と揉めてます。○○組とはもっと揉めてます。自分は、今流行ってる振り込め詐欺とか許せなくて、薬をイジってる不良も、何が任侠だって思うんです。自分は侍で生きて、侍のまま死にたいんです」
言ってしまってからハッとした。雲の上のような存在を前に、若輩者が語っていい話ではない。
「本当に康之にそっくりだな」
だがその人は笑ってくれていた。
「血は争えねえんだなぁ。お前の祖父ちゃんだけだったんだよ。俺の言うことを全然聞かなかったのは」
10年以上前のその日、安藤昇に言われた言葉を、RAKOは昨日のことのように覚えている。説明不要の伝説の男、安藤昇。
「会ってもらえるだけで奇跡でした」
今はラップを歌っている。HOOD RICH TOKYOというグループを率いて、平成生まれの東京のアウトローのリアルを歌っている。だがその頃は音楽の道など頭の片隅にすらなかった。
「自分がなんでこんな暴れるのか、心にドス黒いものが溜まってるのか、自分でもよくわからなかったんです。でもあの時、安藤さんに『血は争えねえな』って言われてハッとしたんですよ。これが俺の血なんだって」
小さい頃に撮ったというサングラスをかけた祖父との写真がある。「瀬川康之」という名の他にもうひとつ稼業名を持っていた瀬川は、渋谷を舞台に戦後の激動期を駆け抜けた安藤組の「四天王」と呼ばれた大幹部だった。
「お前らケツモチどこだ!」
センター街に黒いセルシオを横付けし、カメラを睨みつける7人の若者たち。古い携帯から移したという写真を、RAKOはインタビューの場に持ってきてくれていた。
「2006、7年頃ですね。警棒持って渋谷を地回りっていうか、平成元年生まれの自分らが上に立って『渋谷連合』っていう愚連隊やってたんです」
渋谷で生まれ、幼い時に品川区に移った。湾岸の埋め立て地に面した古い住宅街だった。実家の近くの川にはその昔、罪人たちが家族と最後の別れをしたという涙橋がかかっていた。
「東大井って所なんですけど、今でも業の深いというか、自分のまわりも親が売春婦だったりポン中だったり、殺人で捕まってたりって家庭環境が最悪なやつばっかだったんですよ。でも不良っぽいのは自分と2、3人くらいで、みんな真面目なんです。自分も心臓の病気で苦しんでるのに親が死んじゃったやつとか、環境のせいにしないで頑張ってファミレスでバイトしてるような気持ちいいやつらで。なのに他の学校の不良ぶって馴れ合ってるだけのヤンキーが、そいつらを理不尽にイビってくる。こいつら全員ブッ殺してやるよって思った怒りが、ずっと自分の原動力になってました」
中学に入ると理不尽を感じる思いは強くなり、卒業してからは相手は暴走族になった。やる時は徹底的に、右手には包丁を持って「刺し魔」と呼ばれた。隣の大田区に、自分と同じような人間がいると知らされたのは17歳の時だった。
「自分とタイマン張りたいやつがいるって話で、それが『THE OUTSIDER』で有名になる平野海志でした。でも会ってみたら真っ直ぐで純粋な人間で、すぐ意気投合しました。海志が『俺、渋谷で暴走族やりたくてさぁ』って言うから、『じゃあ俺らで東京全部取っちゃおうよ』って、海志をアタマにして『渋谷連合』って愚連隊を作ったんです」
メンバーは品川や大田といった城南地区だけでなく、世田谷や新宿、川崎にいたるまで同世代の仲間を集めた。白の特攻服にニグロパンチ。そんなオールドスクールなスタイルでセンター街にたむろした。
「センターマック前に毎週土曜、夜8時から10時まで溜まりが規則。年上の人から『お前ら誰の許可で溜まってんだよ』と言われても、自分たちは引かなかったから、揉め事にもなりました。自分らは独立独歩だと思ってて、稼業の人とも関係なく喧嘩してました。末端ふくめたら4、50人はいたけど、でも正直、しっかりしてたのは自分らの代の10人くらいでした。しかも半分は10代で稼業の人間になってて、もう『渋谷連合』は名乗れなかったんで『マッドエンジェル』って別部隊作って、そっちは自分がアタマ張ってました」
毎週のように誰かしらが揉め事を持ってきた。東京の真ん中で突き抜けてやろうと、喧嘩ばかりの日々にピリオドが打たれたのは、10代の終わりのことだった。(つづく)
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