【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】名古屋市中村区の骨仏『中村観音』
愛知県名古屋市中村区にある中村観音(瑞龍山白王寺)に、コンクリートや漆喰に火葬場から出た廃骨を混ぜて練造された骨仏が奉安されている。
この骨仏を発願したのは、白王寺の初代住職。寺の近くにあった米野火葬場から出た廃骨を供養することと、地域の発展守護を願って、昭和8年に高さ8メートルあまりの十一面観世音菩薩像を練造した。
名古屋市中村区は、日本3大遊郭のひとつである中村遊郭のあった場所だ。そのようなことから、骨仏が練造されると中村遊郭で働いていた遊女の遺骨がその『胎内』に納められるようになった。
蓮台には、直径15センチほどの穴が開けられており、そこから納骨することができるようになっている。故郷を遠く離れて遊郭で働いていた遊女の遺骨は、店の女将さんが持ち込んでいたという。
「お骨仏を作られたのは、彫刻家の故・花井探嶺(たんれい)先生です。先生は、信仰心の強い彫刻家でした。お骨仏を作るときは、白装束を着て、右手にコテ、左手に数珠を持ちながら製作にあたっていたそうです。遊郭で働いていた遊女さんの遺骨を預かっていたのは、先々代の住職になります。ご本尊の観世音菩薩像が乗られている蓮台の中には、遊女さんの毛髪が納められていると聞いております。その昔、市内には百合ヶ池という池があり、そこに遊女さんが身投げをされたという話も伝えられています。遊女さんたちは、辛い思いをされたことでしょう」
現在、白王寺は『願いごとが叶う観音様』として数多くの信者を集めている。地元の人たちは、買い物に行くときなどに立ち寄って手を合わせているという。病気などで命を落とし、故郷に帰ることのできなかった遊女の霊もきっと成仏していることだろう。
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