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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】鹿児島県・諏訪瀬島の『幻の滑走路』

 鹿児島県の鹿児島港から南下すること約250キロ。人口70人あまり、世帯数30ほどの諏訪瀬島にリゾートホテルの廃墟と滑走路が残されている。

 諏訪瀬島にリゾートホテルの廃墟と滑走路があることを知ったのは、20年以上も前になる2001年1月のことだ。

 九州・鹿児島で取材をしていると、当時、駆け出しのライターをやっていたN君から連絡が入り、「島内にはヤマハリゾートが使っていたリゾートホテルの廃墟や滑走路跡がそのまま残されているんだ!!」と言った。

 また、1960年代後半には、ヒッピーが作ったコミューンがあり、そこで暮らしていた人たちが今でも生活していることも分かった。N君は、世界中を旅しているライターでもある。当初、諏訪瀬島に行く予定はなかったが、『高級リゾート』と『ヒッピー』という組み合わせに興味が沸いた。

 それから1週間後、現地でN君と合流してヤマハが使っていたというコテージに行ってみると、この島に相応しくないような光景に遭遇した。

ヤマハが使っていたというコテージ

 赤瓦が乗った平屋建てのコテージは、真冬だというのに人の背丈以上に伸びた雑草で覆われていたのだ。建物には6つの部屋があり、部屋の中には、外から伸びたツタが這っていた。

廃屋の中はビニール袋などが散乱
いまにも緑に包まれてしまいそうな外観

 ベッドの上には、マットレスが折り重なるように積み上げられていて、ソファーや椅子は黒カビだらけになっている。ブラウン管の周りが木目調の枠で縁取られているテレビや空っぽになったミニ冷蔵庫なども置かれたままだ。

 『旅荘 吐火羅』と書かれたパンフレットには、島内巡りや遊覧船(クルージング)、山のぼり、シュノーケリング、フィッシングといったアクティビティが紹介されていた。あまりにも寂しい光景だ…。

海崖は険しい断崖ばかりで、そもそもリゾートに向かなかった

 コテージを出てから向かったところは、島に取り残されているという滑走路になる。島の人から借りた軽4輪を走らせてエプロン(駐機場)を横切り、滑走路跡の突端部分まで行ってみると、『32』と書かれた大きな文字と矢印が見えてきた。

かつては島唯一の飛行場として稼働していたが、いまその面影はない

かつては島唯一の飛行場として稼働していたが、いまその面影はない これは飛行機の発着時に機内から良く見るものだ。そのまま反対側に行ってみると『14』という文字が記されていた。ヤマハリゾートがあった頃は、空港があったので、観光客がここを利用していたのだという。

寂しく立つライト。もう点くことはない

 アスファルトで舗装された長さ840メートルの滑走路は、雨に濡れて赤茶色に光っていた。フォトジェニックですらある。島の南西を中国大陸に向かってゆっくり進んでいる低気圧の影響で、滑走路跡の向こうにある海には、いくつもの白波が立っていた。

 潮風も気持ちいい。ずっと見ていても飽きないような光景だ。

 往時、観光地として数多くの人たちが訪れていた諏訪瀬島だったが、ハワイやグアムといった海外の観光地が注目されるようになっていくと潮目が変わった。

 東京や大阪からアクセスの悪い諏訪瀬島は、観光客に敬遠されるようになってしまったのだ。『南国』という意味では、ハワイやグアムに軍配が上がる。採算が取れなくなったリゾートホテルは、取り壊されることもなく放置されてしまった。

 長年、船でしか行くことができなかった諏訪瀬島だったが、2022年に新日本航空によって鹿児島~諏訪之瀬島を結ぶ航路が開設されている。料金は、片道60,000円と高いが、便利になったことは確かだ。島内には、民宿もある。気になる人は行ってみよう!

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://x.com/toru_sakai

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