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「お母さん、手を繋いでほしいの」差し出された小さな手に無視を決め込む妻…マルチに沼って人生詰んだ〜完璧にキマった妻の洗脳〜【後編】
魅力的な謳い文句で会員を勧誘し、その会員が新たな会員を集めてーーマルチ商法に巻き込まれ、家庭や人間関係が崩壊するといった事例は後を絶ちません。いったいどのような手口で、どのように取り込まれていくのか。妻がマルチにハマって家庭崩壊するまでの一部始終。
マルチの常套手段は「いかに相手のせいにするか」
「離婚しよう」と言われてからこれはただのよくある喧嘩だと思った。
お互いのちょっとしたすれ違いで口走ってしまったのだと思った。
「『念のために聞くけど、昨日の離婚したいって話冗談だよね?』と聞いたら『冗談じゃないよ』と言われて事態の深刻さを思い知りました。自分もある意味お花畑だったってことです。妻がここまでおかしくなったとは思わなかったんで。
本当に離婚したいなら子どものこと、ローンの最中の家のこと、色々考えるべきことがあります。その点どうしようとしているのか尋ねると『1か月待ってくれ』と言われました。そんなこと何にも考えていなかったんだと思います」
なぜ妻の明美さんは離婚を切り出したのか。
翔太さんにはまるで青天の霹靂だった。
現状、家事育児の8割を担っている自分を捨ててやっていけると思っているというのか。
「もちろん、なんで急にそんなこと言い出すの?って話になりますよね。そしたら妻は1年前に“バカ“って言われたから、って言うんです」
1年前。
彼女がまだマルチ商法に出会う前だった。
お正月に家族ぐるみで仲良くしている子持ちファミリー同士で遊んでいたときのことだ。
遠方に住む翔太さんの親戚が家からほど近い彼の実家に急遽来ることになり、子どもたちにお年玉を渡したいから来てくれないか、ということになった。
30分とか1時間とか親戚に会いに子どもを連れて抜けていいか、と明美さんと友人に相談したところ、彼女は「せっかく友達が来てるのに何を考えてるんだ」と主張した。
堅い頭に呆れていたら、
「友人の子どもも連れて行ってくれたらいいよ」
と言い始めた。
翔太さんと子どもたちが抜けたらアウェーな気持ちになると思ったか、それを差し引いても他人の子どもと実家に行くのはお門違いが過ぎる。
そこで放った言葉だった。交際期間も含めて12年、初めて「バカ」と言った。
「バカじゃないの、なんでそんな話になるわけ」
なぜそんなことが今さら離婚だなんだの騒ぎになるのか。意味がわからなかった。
きっかけは1週間前に伝えた「マルチをやめてくれないか」ということではないかと考えて考えた末に、仕込まれているのではと思い当たった。
「ただの予測ですけど、離婚の多いマルチのコミュニティに常套手段があるのではと思ったんです。マルチを否定されたから離婚、というのは社会的に見ても、マルチをやっている側の立場が弱くなるはずです。いかに離婚の理由を“相手のせい”に出来るかだと思うんです。
そこででっちあげられた理由が『バカって言われたから』なんじゃないかと今は思っています。そんなんだから、何を言っても話になりません」
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離婚の話は本音が隠されたまま進んでいく。
自分の人生にも、夫の人生にも、子どもたちの人生にも真摯に向き合わないその姿勢では離婚、親権、何の進展もしなかった。
2人の間に強いストレスがかかる。
「妻はマルチをやりたいがために必要以上に子どもたちを早く寝かせようとし始めました。19時ごろ保育園から帰ってきて、ごはん、入浴を済ませて20時半就寝。寄り添って寝かしつけるのではなく、『早く寝なさい』の一点張りでした。
両親と遊びたい、話したいと思っている子どもたちは『いつになったら21時に寝ていいの?』と尋ねると、『これからもずっと20時半に決まってるだろ!』と怒鳴り散らす始末。
それに、お母さんとの時間が少ないゆえに癇癪を起こしがちだった長女のことも無視され、仲直りしたい長女は『お母さん、手を握って』と手を差し出すも、妻は頭まで布団をかぶり勧誘のためのインスタを更新していました」
今まで良き母であった彼女は、もう変わってしまった。
こんな状態では子どもたちのことが心配で、すでに弁護士に相談していた。
十分、別居ができる状態だった。
明美さんには秘密で子どもたち2人を連れて近くにある実家に別居を決行することにする。
「タイミング悪く子どもたちの荷物を整理しているときに妻が帰宅しました。まだお迎えも行っていなかったので、お互いに譲り合わず口論に。
結局わたしが長女を、妻が長男を迎えに行くことになりそのまま別居ということになってしまいました。なので今もその形をとり続けざるを得ない状態です。
別居直後、わたしは子どもの監護権の裁判を始め、妻は離婚調停の申し立てをしているというわけです」
泥沼の離婚調停と監護権裁判
子どもを持つ夫婦が離婚するということになったとき、主な争点は親権と子供の養育費を含んだ婚姻費をどのようにするかということにある。
親権とは、文字通り“親子関係を維持する権利”ということを意味するが、厳密には「未成年の子どもに対し、子どもの財産を管理する権利と、子どもを監督・保護する義務」を有することを言う。
また、婚姻費とは夫婦が別居などの際にそれぞれの生活を維持するために必要な費用のことを言う。具体的には養育費のほか衣食住に必要な費用、出産費、医療費、教育費、交際費などが含まれる。
婚姻費の金額を夫婦の間で決めることができるのであれば、そこに制限や条件はない。しかし、夫婦間の話が決裂した場合、第三者が取り持って決定をすすめていくことになる。
そのときの費用分担はそれぞれの基礎収入(実際の収入から公的な税金や保険料、または別居しても変わらない住宅費などを控除した収入)や子どもの引き取り有無などによって計算される。
今回の翔太さんはその2つともが拗れている。
まずは親権。
離婚届には子どもの親権が夫婦のどちらにあるかを記入する欄がある。
まともな話し合いが出来ないまま別居に至っている今回のケースでは、親権を争う前にまず監護権を争っている。監護権とは、親権から子どもの財産を管理する権利を差し引いた、子どもを監督・保護する義務を有することを言う。
今回、2人の子どもがそれぞれ1人ずつ夫婦の下についているが、翔太さんも明美さんも子ども2人を自分の手で育てたいと思っているがゆえに平行線となり裁判で争っている。
原則、裁判に至るまでに和解を求める調停を挟むものであるが、もし虐待などがあった場合には急がねばならない背景から、監護権は調停を挟まずに裁判になることが多い。
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「妻がどんなに狂っていて収入がなくなろうと、女性であるというだけでかなり有利らしいのです。監護権を争うには、“生まれてから今まで子どもとどれくらいの時間を過ごしてきたか、食べ物を与え、生活に必要なものを与え、生かしてきたのか”が大事になります。
私は男だしもちろん母乳は出ません。産休もないし育休も時代柄取っていません。そうなると妻の方が圧倒的に子どもを育ててきたんです。
収入がゼロになろうと、婚姻費でまかなえばいい、という考え方なんです」
言葉に熱が帯びる。
この考え方の背景には一昔前の人々のライフスタイルがもとになっており、当時の感覚が引っ付いたまま更新されることなく令和にまでなった。
妻となった女性が専業主婦になり、子育てをするという“子どもは女が育てるもの“という思想が透けて見えるようである。
当時ならなおのこと、子どもは女性に育てられるべきというほぼ出来レースの状態である。
現代において、パパ育休など始まったはいいもののまだまだ育休男性取得率は低く、男女関係なく子育てをしましょう、という考え方からは逆行している。
「さらに妻は、急な別居が理由で妻と暮らしている長男がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったと訴えてきました。もちろん急な保育園の転園、父や姉に会えなくなったことなど環境の変化によるストレスはあったと思います。それらが理由だったら、普通は父や姉と面会交流させますよね。でも別居してから1年以上、6回しか私たちは会えていないんです」
別居や離婚によって離れて暮らす親子が面会することのできる面会交流。
1年以上もの間に6回という数字は面会を望む翔太さんとは裏腹に妻の明美さんは面会を拒絶してきた背景がある。
「6回って、これでも増やした方なんです。というのは、子どもが親との接する様子を調査官に見られる場面観察というのがあるんですが、そのためにあんまり久しぶりだと子どもが緊張したりしちゃうから、より自然な姿を見るためにその前に面会しておきましょう、というのがあって。それでまず妻は渋々面会交流を受け入れます。
そうすると一緒に暮らしている長女を見ていてもわかるんですが、面会交流のあとって1週間くらいは精神的に荒れることが多いんです。ようやく慣れてきた別居生活で久しぶりに家族が仲の良かった時代を思い起こさせることになり、とても不安定になるんですよね。恐らく妻といる長男も同じで、荒れる姿を見るのが嫌なのか、対応するのが嫌なのか、お父さんに会いたいと言われるのが嫌なのか。
どれかわからないし、全部かもしれませんが、そんな理由で面会拒絶をしているんだと思います。建前上は、子どもは父を嫌ってるからとか、面会での約束を破ったからとか言いますが。面会のときの長男のすごく楽しそうな姿を見ると……とてもやりきれません」
毎月10万円払ってよ!
離婚時のもう一つの争点に婚姻費用をあげた。
基礎収入や子どもの有無で金額は変動すると前述したが、翔太さんのように幼い子どもが一人ずつ夫婦のもとで養育されている場合、子どもにかかる費用の条件は同じと見なされ、夫婦の基礎収入の差を埋めることになる。
ざっと概算で計算すると、翔太さんの基礎収入は500万円で、明美さんは350万円。425万円ずつにすればその差は埋められるわけなので、年に75万円つまり月額6万円程度支払うことが基本の考え方になる。
明美さんの収入はマルチ商法では0円、パートに切り替えた幼稚園では350万円から激減している。
「自分が好き好んで収入下げて活動してるのに、向こうは10万よこせって言ってくるんです。ほんと、神経疑うんですが。それで決裂していて7万円が妥協案かなと弁護士とも話しているところです。
それでも長男のことを思うと少しは払う気持ちにもなりますが、金銭的にも精神的にも痛手です。むしろこっちが迷惑料として慰謝料欲しいくらいなのに。長男のことがとにかく心配です」
マルチ商法の活動の収入はゼロのままだ。
かつて良い保育士であり、幼稚園教諭であり、妻であり、母であった彼女はモンスターと化していた。
それは誰にも止められなかった。
取材から3週間経った今、幼稚園の仕事も完全にやめたようだと報告をもらった。
と同時に、2人の子どもがまだ扶養に入ったままである翔太さんのもとに、会社から医療費の支払い明細が届いた。
そこにはPTSDと診断されたと主張している長男の精神科受診は、診断されたときの1回のみという履歴がわかった。
そしてさらに、ひょんなことから彼女のインスタのアカウントもお知らせいただいた。
「メンタルサポーター♡AKEMI
ママやパパの笑顔が一番大事。最近笑うこと、できていますか?
ママ、パパ、こども、全員の笑顔を引き出すお手伝いをしています♡」
一番近しい人の笑顔を失っている今、この言葉の空虚に響く。
<著者プロフィール>
岡庭捺美(おかにわ・なつみ)
会社員兼ライター、30代ワーママ。専門は介護、社会保障などなど、インタビューが得意。最近はマルチ商法の実情などを取材・執筆している。
stand.fm「人のフリ見て我がフリ直せ」パーソナリティ。
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