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書籍紹介 権藤悠『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』
私たちは毎日、同じ景色や物事を見ているようでいて、人それぞれに異なる「解像度」で見ています。権藤悠著『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』SB Creative(2024)から、私たちが何を見ていて、どこまで見えているか、その「解像度」の違いが、結果の差になっていることが理解できます。以下にまとめます。
1.解像度について
『解像度が高い人』は、思考が鮮明で、細部まできれいに明確に見えています。
書き出しのとおり、同じ情報を前にしても、「解像度が高い人」はその背景、意味、繋がりまでを事細かに捉え、それを「次の行動」に転換することができます。
「解像度が高い人」は、思考が鮮明で、細部まできれいに明確に見えています。
例えば、営業などであれば、「解像度が高い人」は顧客のことを事細かに捉えています。お客さんは何歳くらいで、普段はどんな生活を送っていて、どんな服を着ているのか。どんな場面で、どんな困りごとを持っていて、そのために普段はどんな競合の製品・サービスを利用しているのか。特定の一人が浮かび上がってくるほどに、「物事が細かく見えている」のが特徴です。
著者は「解像度が高い人」が持つ三つの資質を挙げています。
① 具体化思考──「物事を細かく見えている」
② 抽象化思考──「ユニークで鋭い洞察を得ている」
③ 具体⇌抽象思考──「物事をわかりやすく伝えられる」
この三つが、単なる優れた思考法ではなく、仕事における「成果の質」(仕事ができる人かどうか)を決めていきます。
それが「解像度の高さ」による違いです。同じものを見ていても、解像度が違えば“見ている世界”もまるで違ってきます。つまり、「仕事ができる人」とそうでない人””見ている世界“は、「解像度の高さ」によって決まってくるのです。
柔軟な発想をもつ管理職は先々の展開を見通しつつも、シーンに応じて参加者にわかりやすい言葉や見通しを示すことができれば、結果として参加者の解像度も高まる切っ掛けを与えることになります。その結果、チーム全体が目指す成果に向けてスムーズに進み、質の高いアプトプットが期待できるでしょう。
2.「解像度」が仕事の成果を分ける
上記引用のとおり、「仕事ができる人」の本質は、「見え方の違い」にあります。問題解決の場面でも、戦略を立てる局面でも、「どこまで見えているか」が、質の差を生みます。
「具体」と「抽象」を適切に行き来し、相手の理解度に合わせて伝える。それは単なるコミュニケーションスキルではなく、「思考の調整力」として鍛え上げられるべきものとされています。
「解像度が高い人」がなぜ「物事をわかりやすく伝えられる」かというと、ただ「具体化思考」や「抽象化思考」ができるだけではなく、「具体的」と「抽象的」を自由に行き来しながら、相手が一番理解しやすい塩梅で話すことができる思考の調整力があるからです。
ただ、ここで一つ強調しておきたいのは、「『具体的』がよくて、『抽象的』がダメ」という単純な話ではないという点です。
これまでもお伝えしてきたように、「具体化」も「抽象化」も等しく重要です。 両者は役割が違うというだけで、「解像度が高い人」になるには両方が欠かせません。
あくまで、ここでの問題は「相手に合わせていない」という点です。
例えば、経営層には抽象度を上げて要点を伝え、現場の担当者には具体的なアクションプランを提示する、こうした「調整力」が、仕事ができる人の共通点と言えるでしょう。
3.「解像度」を高める方法──問いが思考を深める
「解像度が高い人」は、表面的な事象だけを見て判断せず、「なぜ?」と問い続けることで、その背後にある本質を見抜こうとしています。
何か一つのものだけ、あるいは表面的な見やすい所だけを見て「安易な結論」を言うのではなく、物事の背景に隠れた「本質」を見抜く。
こういった、思わず周りが「ハッ」としてしまうような「鋭い洞察」を持ち合わせているのが、「解像度が高い人」です。
「この問題の本質は何か?」「共通点はどこにあるのか?」「この状況を最適に説明する言葉は何か?」という問いかけを繰り返すことで、思考の「輪郭」がくっきりと浮かび上がり、解像度が高まります。具体的に、顧客との商談や社内の会議において、「本当の課題は何か?」と問い続けることが、より具体的で効果的な解決策を導けることでしょう。
4.具体化思考と抽象化思考
(1)「具体化思考」──違いを見つけ、細部を掴む
「具体化思考」は、物事を細部に分解し、違いや意味を明確にしていく作業です。
「具体化」とはその名の通り、「具体的にすること」ですが、もう少し具体的に言うと、「一つの事柄や概念を、違うもので分ける」ことになります。
例えば、営業戦略を立案するとき、「顧客層」という大きな括りではなく、「年齢層」「購買行動」「背景」といった細部に切り分けていきます。その中で違いが見えれば、対策も浮かびあがって来ます。
(2)「抽象化思考」──共通点を見つけ、本質を掴む
「抽象化思考」は、分解された要素から共通点や法則性を見出し、全体像を整理する力といえます。
共通点を見つけることで上へ上へと思考レベルが上がっていく。
こうして、ピラミッドの頂点までを形成していく営みが、抽象化ということになります。
・なぜ抽象化すると、「鋭い洞察を得られる」のか?
では、なぜ抽象化すると「鋭い洞察」を得られるのでしょうか。
言い換えれば、「共通点を見つけること」が、なぜ「鋭い洞察」と結びつくのでしょうか。それは、「鋭い洞察」というものは、「成功例の共通点」から導き出されるからです。
多くの人は細部に囚われすぎますが、「解像度が高い人」は、その先の「成功例の共通点」を見出します。そして、その共通点を応用して、別の状況にも適応させることができます。。
5.具体⇌抽象思考──思考の調整力を養う
最も難しいが、重要となるのが「具体⇌抽象思考」です。これは、相手や状況に応じて「どの解像度で伝えるか」を瞬時に調整する力となります。
「具体⇌抽象思考」がうまくできない人というのは、“最具体“と”最抽象“しか描けないのです。
しかし、(略)“最具体”と“最抽象”の「中間」にはたくさんの言葉があります。
相手はどの具体度 (抽象度)が最もわかりやすいのか。 「中間」のうちのどの言葉を使ってあげたら、一番理解しやすいのか。
相手の反応を見ながら、それを判断できるようになるためには、ピラミッドのうち、“最具体”と“最抽象"の「中間」を描けるようになる必要があります。
そのためのトレーニングこそが、本章の「具体⇌抽象トレーニング」なのです。
多くの打合せや報告の場で生じる「すれ違い」は、解像度の不一致に起因していそうです。「解像度が高い人」は、その不一致を瞬時に調整し、全員が捉えることのできる最適な解像度で物事を捉えられるように橋渡しをしています。
6.AI時代における「人間の解像度」の価値
AIでデータを解析し、パターンを抽出できる時代です。しかしながら、そこから「次の一手」を導き出し、適切に伝えるのは、現時点では人間に役割という認識はまだある、と私も思います。ただし近い将来は、意思決定さえもAIに任せておいた方が、仕事がいく可能性はあるとは思っています。
とはいえ、AIが進化していくなかでも、「解像度の高い人」はAIとうまく付き合いながら仕事を円滑に進めていけることになるというのが、今の私の捉え方でもあり、AIに置き換わりそうな領域が増えるからといって、思考の調整力を養うことを止めては思考の退化を促進してしまいます。解像度を高めることは、個人の成長だけでなく、組織全体の成果を最大化する鍵となるという観点でご興味ありましたら一読されてみてください。