社会的共通資本とエネルギー:宇沢弘文没後10年フォーラム参加記録
9月27日に「宇沢弘文没後10年 社会的共通資本 いままでの30年 これからの30年」と題するフォーラムに参加しました。このフォーラムは、経済学者宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」の意義を再確認し、今後の社会にどのように活かしていくかを探る場として開催されました。
「社会的共通資本とエネルギー」という分科会に参加し、エネルギーを単なる資源ではなく、社会全体が共有し次世代に引き継ぐべき財産として捉えるという観点を学びました。パネリストたちは、それぞれの立場から技術革新、地域との共創、社会システム全体の再構築の必要性について話しました。以下に学びをまとめます。
モデレーターは占部まりさん(宇沢国際学館 代表取締役・内科医)です。占部さんは、各パネリストに質問を投げかけ、エネルギー問題の複雑さと社会的共通資本との関係性を深掘りする進行をしていました。
1. 文明衰退の歴史と森林伐採による人民の移動
古舘恒介さん(西日本カーボン貯留調査 代表取締役社長)は、エネルギー消費が過去の文明にどのような影響を与えたかを振り返り、エネルギーの過剰な消費が環境破壊を招き、文明社会が衰退した事例を紹介しました。古代メソポタミアやギリシャ文明の森林伐採が、地域の環境を悪化させ、文明が移動を余儀なくされたという歴史的事例から、現代社会も同じリスクを抱えていると警告しました。この視点は、エネルギーを自由に使う資源ではなく、社会全体で管理し次世代に引き継ぐべき「社会的共通資本」であるという考えに結びついています。
2.エネルギーを巡る現代の複雑な課題
竹内純子さん(国際環境経済研究所 理事・主席研究員、U3イノベーションズ合同会社 共同代表)は、現代のエネルギーシステムが直面している複雑な課題について言及しました。彼女は、脱炭素化、人口減少、そしてデジタル化が複雑に絡み合い、エネルギー供給に大きな影響を与えている現状を指摘しました。これにより、エネルギーの持続可能性が揺らいでいることを強調し、エネルギーシステムの転換が単なる技術的な進展に留まらず、社会全体の構造的な変革を伴うことを提言されました。エネルギー問題が技術だけでなく、社会システムの再設計を必要とすることを示しています。
3. 再生可能エネルギーの導入における地域社会との連携
磯野久美子さん(自然電力株式会社 取締役)は、再生可能エネルギーの導入において、地域社会との連携が重要であることを示しました。再エネの拡大は、地域の自然環境や住民に直接的な影響を与えるため、地域の理解と協力が不可欠となります。発電所の設置においても、地域社会との信頼関係を築き、社会的関係性を考慮して進める視点が重要です。エネルギーの導入プロセスにおいて、技術だけではなく、地域社会との共創が持続可能性の鍵となります。
4.エネルギーの安定供給と技術革新
濱田誠一郎さん(関西電力株式会社 執行役員、イノベーション推進本部 副本部長、データセンター事業推進室長)は、エネルギー供給の持続可能性を確保するための技術革新の重要性について述べました。火力発電の燃料転換やCO2貯蔵技術の進展は、脱炭素化への現実的な道筋となり得ます。技術の進歩がエネルギー供給の安定性を確保し、未来のエネルギーシステムを切り開くための鍵となりますが、その技術革新には社会全体の理解と協力が必要です。また、既存技術と新技術のバランスを取りながら持続可能な供給体制を構築することも重要です。
5. 社会的共通資本の再評価から考える持続可能なエネルギー供給システムの再構築
これらのパネリストたちの発言からは、「循環」と「共生」というエコシステム社会デザインの視点が感じられました。エネルギーを社会的共通資本として再評価し、持続可能な形で管理することが目指されているのではないでしょうか。自然や地域社会と共存しながら互いに補い合い、社会全体が持続可能に発展するためのエネルギー供給システムの再構築が必要であることを改めて感じます。
エネルギー問題は技術革新だけでは解決できず、地域社会、自治体、企業が一体となり、社会システム全体を再構築する必要性が示唆されています。エコシステム社会デザインの考え方は、社会システム全体の再構築にあたって、社会的共通資本としてのエネルギーを持続可能な形で循環させるために重要なアプローチとなるでしょう。
6. 最後に
エネルギー問題は急を要する課題であり、私たちは自然環境の変化に対して今こそ行動を起こさなければなりません。技術革新はもちろんのこと、それに伴う社会全体の行動変容が求められています。時間は限られていますが、「社会的共通資本」という概念を再評価し、エコシステム社会デザインを通じてエネルギーの循環を実現することが、持続可能な社会の未来を築く鍵となるでしょう。
この分科会を通じて、エネルギー問題を超えた社会全体の再構築が求められていることを改めて実感しました。エネルギーを「社会的共通資本」として捉え直し、その持続可能な利用と管理を行うためには、技術と共創、そして地域社会との協力が不可欠であると感じました。