書籍紹介 小早祥一郎『“そうじ”をすると、なぜ会社がよくなるのか』
小早祥一郎さんの著書『“そうじ”をすると、なぜ会社がよくなるのか』セルバ出版(2019)は、単なる清掃活動を超えた意味を持つ「そうじ」というものを紹介し、企業の組織変革や活性化において「そうじ」の果たす役割、その実践方法、効果について解説しています。本書は、現場の社員個人のみならず、企業の持続的な発展を考える経営者にとっても、非常に有益な内容になっています。以下に詳しい紹介を記します。
1.はじめに
著者は、「そうじ」を「本質を明らかにし、究めること」と定義しています。「例えば、床を拭くことでゴミやホコリが取り除かれ、本来の地肌が現れ」るように、「そうじ」は本質を明らかにする行為です。また、磨きこむことで新品以上に輝くようになることが「究める」ことであり、この行為を企業の組織活動全般に適用することが「そうじ」とされています。この考え方は、物理的な清掃だけでなく、組織内の問題や障害を洗い出し、解決するためのプロセスとしても機能します。
2.なぜ“そうじ”は組織変革や活性化の契機になるのか
「そうじ」の実践は、組織における意識改革の契機となります。例えば、汚くて臭いトイレを放置する環境は心を荒ませ、さらなる悪循環を生みます。一方、清潔なトイレは利用者の心を改め、公共の場でも綺麗に使おうという意識を育てます。このように、清潔な環境を自らの手で作り上げることが、社員の意識改革につながるのです。
著者は、必要最小限のものが使いやすい場所に置かれ、どこに何があるのか一目瞭然の状態が、組織内の約束を守り、人が見ていなくても手を抜かない、物を大事に使う、お互いに気を遣うという意識を育てると述べています。こうした環境を自分たちの手で作り上げることが、組織全体の意識改革につながるとも述べています。
3.組織変革・活性化する“そうじ”のポイント~技術編
組織における「そうじ」の進め方として、著者は、「整理」「整頓」「清掃」の順序を重視しています。以下がそれぞれに対する筆者の考え方です。
「整理」とは不要なものを徹底的に処分すること(捨てる、減らす)、「整頓」は必要なものを使いやすいように配置すること(置き場を決め、明記する)、そして「清掃」は周囲をきれいにすること(掃く、拭く、磨く)です。この順序を守ることが、効果的な「そうじ」の実践には不可欠です。
「整理」は、過去12か月に使用していないものを捨てることから始まめることを提唱されています。著者は、「整理=捨てる、減らす」と定義し、不要なものを徹底的に排除することを提唱します。他の例では、デスク上に山積みされた書類の7~8割は捨てられるものであり、これを処分することで必要な書類を収納するスペースが確保できるとしています。
「整頓」は、「置き場を決め、明記する」ことです。具体的なアクションとしては、定位置、定量、定報告、表示、標識、直線、直角、水平、垂直、等間隔、物の上に物を置かない、書類は横積みにせず立てる、よく使うものほど手前に、床に直置きしないなどのコツが挙げられます。
「清掃」は、「掃く、拭く、磨く」と単純明快に定義されており、組織内の見えない所から始めることが推奨されています。見えない所には問題が詰まっており、これを整理・整頓することで問題を解決する力が養われます。
4.組織変革・活性化する“そうじ”のポイント~組織編
「そうじ」は組織のルールや仕組みを明確にする活動ともなります。曖昧なルールを明確にし、組織全体で共有することが、「そうじ」の一環として重要です。また、「そうじ」は組織のリーダーシップの訓練の場ともなります。将来の幹部候補を発掘・育成する機会となっている事例を紹介しています。
このように著者は、「そうじ」の大切な要素として「ルールをつくり、守る」ことを挙げています。多くの企業ではルールが曖昧であり、これを明確にすることで組織全体の効率が向上します。
また、組織風土改革の具体的な事例として、「そうじ」によって物理環境を整えるだけでなく、表面化してきたさまざまな問題を真正面から取り上げ、その解決のための方策を打っていくことが紹介されています。その結果、組織内のコミュニケーションが改善され、働きやすい環境が作られたことが紹介されています。
5.組織変革・活性化のためのユニークな視点と仕掛け
「そうじ」の進行を評価するために、給与や賞与とは独立した表彰制度を設けることが推奨されています。これは、創意工夫やリーダーシップを発揮している社員を認め、モチベーションを高めるための手法です。また、「そうじ」は改善活動と同義であり、「そうじ」を通じて組織のロスを減らし、経費削減に寄与します。
一方、「そうじ」を進める際に向き合わざるを得ない抵抗勢力に対しては、無理に説得するのではなく、前向きに取り組む人を支援することが重要であると述べています。
6.永続的な組織変革・活性化のために大切なこと
「そうじ」の目的は単に見た目をきれいにすることではなく、「自立的な風土」かつ「互いに協力し合う風土」をつくることです。この取り組みを通じて、各人が本来の持てる力を発揮し、気持ちよく仕事ができる環境を整えることが目指されます。問題が表面化することを喜び、改善のネタとして取り組む姿勢が求められます。
著者は、「そうじ」の取り組みを通じて、組織内の環境が目に見えて改善されることを強調しています。モノが減り、スペースが拡がり、見通しがよくなることで、ストレスが減り、気持ちの良い環境が作られます。また、表面化した問題を解決することで、組織全体の改善が進むことを示しています。
また、見えない所を整えることで、「裏表のない心」を養うことができると述べています。見える所だけをきれいにするのではなく、見えない所も徹底して整えることで、組織全体の風土が改善されます。これにより、見える所の変化や異常にもすぐに気づく感性が養われます。
加えて、著者は、「徹底する」ことと「楽しくやる」ことの両立を提唱しています。徹底することで、より良い環境が作られ、それが楽しくなると述べています。また、社長の姿勢が重要であり、社長自身が率先して「そうじ」に参加することが、組織全体の意識と風土を変える鍵であるとしています。
8.さいごに
以上、本書は、単なる清掃活動を超えた「そうじ」の意義とその実践方法を通じて、組織の変革と活性化を目指す企業にとって、大変有益な一冊です。本書内の具体的な事例やコツは、即実践に役立つ内容となっています。組織の意識改革や風土改革を考えている企業の経営者の方々は、お手に取られてみてください。