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地域経済の先行きに影響を及ぼしうる地域金融機関の役割と責任
インフレや人手不足による経営環境の複雑化を含むさまざまな環境変化が重なり合い、これまでの融資モデルを見直す必要性が高まっていると言われて久しいですが、いよいよ現実的な問題が企業に突き付けられています。その中で、地域金融機関としての危機感の強さによって「変革期」に対する認識度合いが異なり、その認識の差がより顕著に表れてきます。ここにきて、金利上昇、関税引き上げも現実味を帯び始めてきています。なお一層にこれまでのスタンスでの「貸し付ける」ということだけでは地域企業の潤滑を支えきれなくなります。
今回、一般社団法人中小企業診断士協会城西支部、一般社団法人城西コンサルタントグループ(JCG)の新春セミナーに参加させていただきました。地域金融機関と地域中小企業の近況を整理する機会を得ましたので、まとめておきます。
1.貸し付けるだけでは通用しなくっている
地域金融機関には、どうやって伴走するか(経営支援やアフターフォロー)が問われています。書面に表れないリスクやビジネスチャンスをいち早く捉えられるかどうかで、地域経済の活性化と金融機関自身の持続的な成長を左右してきます。
以下、リスク管理と期中管理のあり方、事業者との対話や経営支援のプロセスの強化等の地域金融の課題をまとめます。
2.リスク管理の再考と期中管理の強化
リスク管理は新たな局面に入ります。長期にわたる低金利下では、不動産担保に頼る融資姿勢がなんだかんだで続けてこれました。しかし、これからの金利が上昇局面に入るとすれば、返済負担の増大や担保価値の調整といった状況からの債権評価の修正リスクが広く顕在化してきます。
今、金融機関に求められているのは、取引先企業が抱える雇用確保や販路拡大に関する課題などを踏まえ、ビジネスモデルや収益構造の将来展望を見据えた経営戦略の有無までを評価していくスタンスです。融資実行時後の期中管理でのきめ細かなフォローが一層求められます。変化の兆しを捉え迅速に経営改善支援や事業再生に着手できるかどうか――重たいですが地域金融機関に課せられている役割です。
3.経営改善・事業再生支援とコンサルティング機能
行政方針としても頻出する「伴走型支援」や「コンサルティング機能の強化」ついて、コロナ禍での緊急融資や保証制度によって資金繰りを乗り切った事業者の中には、販路拡大や経営再編へと踏み出そうとしている企業もある一方、倒産リスクがさらに高まった企業も存在しており、二極化がさらに顕著になります。
こうした中で、繰り返しになりますが、金融機関にとっては、「貸し手」にとどまらずに事業性評価を通じたアドバイスや専門家とのネットワークを生かして広範なサポートを行うこと待ったなしです。
4.M&A支援と企業価値担保の可能性
事業承継においては、M&Aが有力な選択肢として注目されていますが、成約後の組織統合や従業員の雇用の維持・確保、円滑な技術移転・承継などの課題を解決できないと、せっかくのM&Aが上手く機能しません。地域金融機関が成約時点で離脱せず、PMIまで伴走できれば、取引先に対して高い付加価値を提供できる可能性が広がります。
また、新たに創設が検討されている「企業価値担保権」は、無形資産やブランド力を担保として活用しやすくなる仕組みが実現すればスタートアップや事業承継局面における資金調達の選択肢が広がります。とは言っても、実際に運用するには企業価値の査定やリスク管理など金融機関にとっても重たい課題が待っています。
これまでにない柔軟さや自己改革が金融機関に求められます。その先にこそ「目利き力」の発揮があります。
5.経営者保証改革と現場のノウハウ断絶
「経営者保証のガイドライン」も企業の円滑な引継ぎ、地域経済活力とも関連する重要な論点です。経営者個人の保証の存在は経営者の高齢化の一因でもあり、ひいては、事業承継の足かせになってきた一面があります。同ガイドラインの改革プログラムでは「保証を一律に外す」ことを目指すということではなく、保証徴求の過程での説明、事業内容の実態把握といった点をどこまで実施できているかがポイントとなっております。
融資現場では、担当者が世代交代をしていきますが、不良債権処理や粉飾決算対応などの対応経験を持ったシニア層が退職しており、ノウハウの断絶が懸念から現実のものとなっています。経営者保証の取り扱いを含む融資現場には、リスク感覚とコミュニケーションの両面での経験値が求められ、組織内での経験の蓄積を含む、人事評価制度の見直し、外部専門機関の有効活用が不可欠な状況にあります。
6.事業者とのコミュニケーションと“現場力”
前述とも関連して、事業者とのコミュニケーション不足がリスクを増幅する点を述べます。例を挙げますとコロナ禍での特別融資はスピード重視が最優先となりました。当時を振り返ると財務状況や事業計画の精査が十分とはいえない資金を行わざるを得ない状況であったことも否めません。コロナ禍があけて債務返済が本格化した時点で、いざ細部までを把握しきれずに後手に回ったという状況もあるでしょう。
また、中小企業の経営者自身には財務に関する苦手意識も手伝って、難しい言葉を並べる金融機関担当者や外部専門家とのやり取りを後回しにしてしまう場面もあろうかと思います。金融機関の融資担当者におかれましては、地道に傾聴と対話を重ねる現場力を発揮いただいて、表向きの数値では捉えきれない経営者個人のビジョンや社内体制の実態を把握するための努力の積み重ねが必要となるでしょう。そのような地道な取り組みに対する評価制度も必要です。
7.人材評価と組織の在り方
前述のコミュニケーション能力の向上、現場力の向上、目利き力の発揮を実現するためには、組織全体の人材評価や風土を見直すことも必要です。事業再生や経営コンサルティングなど中長期的な伴走支援を正当に評価する仕組みづくりには乗り越えるハードルが沢山あるでしょうが、シニアやミドル層の経験を若手に伝える仕組みづくり、そして「企業支援で成果を出した担当者」をどのように処遇・評価するかが、組織改革の大きな課題です。業界内でのベンチマークを重ねながら、、、と言いながらも時間との勝負は避けられません。
8.最後に
今回改めて感じたことは、地域金融機関に課せられた「地域企業の経営をともに支える伴走者」への変革です。それに伴い経営陣におけるリスクテイクとリスク管理の両立に改革には多くの模索が伴うことでしょう。また、融資現場を担う担当者による中小企業経営者との地道なコミュニケーションから如何にして、真の課題をつかみとれるか。そこに遣り甲斐を持ち続けられるような風土形成も鍵となります。
最後となりますが、地域金融機関の転換期への向き合い方次第で地域経済の持続可能性をも左右してしまうといっても言い過ぎではない状況にあります。私はコンサルタントという立ち位置ですが、地域金融機関を取り巻く環境を上記のように認識し、日々の中小企業のサポートにあたっていきます。
9.ご参考
◆「地域銀行による顧客の課題解決支援の現状と課題」について
令和6年6月28日に金融庁が公表した報告書では、地域銀行が創業期から 衰退期に至るまで各段階で提供する支援の現状と課題が整理されています。
◆「DX 支援ガイダンス 別冊事例集」
地域金融機関のデジタル支援事例も含まれており、DX推進に向けた具体的
な取り組みが紹介されています。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dxshienguidance_SeparateCasestudies.pdf
◆「地域密着型金融の取り組み」
全国地方銀行協会のホームページ上で、各地方銀行が地域経済支援のために実施している取り組み状況がまとめられています。地域金融機関がどのように地域密着型の支援体制を構築しているかを知る上で参考になります。
https://www.chiginkyo.or.jp/regional_banks/initiative/community_based/assets/miccyaku2023.pdf
◆「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」
金融庁が発信しているプログレスレポートは、今後の政策動向や金融機関の課題把握に役立ちます。