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仏のいえ #19(2024年10月)

今月は、出家してから初めての西日本。目的は、熊本県広福寺様へ、4年に一度しか公開されない道元禅師のお袈裟を拝見しに行きました。道中、広島でいつもお世話になっている知人宅で二泊させて頂きました。海なし県から瀬戸内海にいつも心を寄せているため、宮島弥山に登り海を一望。広島、熊本での出来事は、また改めて書きたいと思います。


信州ではいちじくの木をたまに見かけるものの、中の実が赤く熟することは聞いたことがありませんでした。実がなっても青いままで、それを砂糖などで煮た甘露煮を近所の方から頂いていました。しかし、今年は甘く熟した実を頂いたのです。蚊や蝿も10月末まで居間や境内で賑やかく、やはり、ここも暖かくなったのかな、そんな気がしました。

それでも四季を感じたいと、最近、頭に入れようと眺めている二四節気七二候のカレンダーがあります。10月中旬頃には「菊花開」の通り、境内の菊が開き始めました。段々と花が少なくなる秋、小さな菊が一年の最後を名残惜しそうに飾ってくれます。そして、22日を過ぎると「霜始降」に従って朝の気温が急に寒くなり、28日からは「霎(しぐれ)時施」小雨が降り、しっとりとした空気に変わっていきました。天気予報を確認してから洗濯をしなければならない、そんな季節になりました。

友禅菊


10月は七事式の一つ、「且座(さざ)」のお稽古が行われました。本来は表千家7代目、如心斎の命日8月13日(旧暦9月13日)に行われるとされています。
「且座」は必ず五人で行われ、それぞれが花・炭・聞香・濃茶・薄茶の役を頂き、順に行います。主客それぞれの役割、法則が前もって決められており、一度定まると位置や役目が変わることはありません。
このお稽古の時には、必ず青山老師が揮毫された「円相」と「是法住法位、老間相常住」のお軸が掛けられます。

この且座に寄せられた無学和尚の賛は「是法住法位 老間相常住」」ー是の法は法位に住し、老間相常住である、つまり且座というのは、それぞれいただいたお役に徹して徹して勤めあげることであり、またそれは人生の日常底でもあるというほどの意味といえようか。

「禅のことばに生き方を学ぶ」青山俊董著 春秋社
「円相」と「是法住法位、老間相常住」青山老師揮毫

老僧たちと暮らしていると、どうしても一番若い私が動くことになります。そしてどうしても愚痴をこぼしてしまう私ですが、いつも自分のことしか考えていないことを後から振り返るばかりです。住職と副住職は、花が枯れていないか、境内の掃除がどうか、季節外れのものを出しっぱなしにしていないかを常に点検し、お寺の中を整えています。身体が痛い副住職に「疲れているだろうから休んで下さい」とお伝えしても「できることが少ないから出来ることはさせて頂く」と、私が手を抜いたところを文句も言わず片付けてくれるのです。若い人は若い配役で、老僧は老僧の配役で、それぞれ出来ることをお互いに勤めることでお寺を維持されているのです。私が年老いた時に今の老僧のように勤めることが出来るかわからないものの、私に指し示してくださる道標と思うしかありません。
そして、私がかつて実家で暮らしていた時のことを思います。母は、私たちに文句を言わず、掃除洗濯炊事を努めていました。母は母の役に徹していたといえばそれまでですが、私たち三人の子どもがそれぞれ役割を持って手伝えていたら、家族の姿も違ったのだろうと。私が学校や塾へ出掛けていた間の母のことを思うと、感謝の気持ち以上に申し訳なさが込み上げ、多少辛くても今はその代償を償わねばとも思うのです。


10月25日には、フランス・ベルギーから18名の来客がありました。青山老師のお弟子さん、浄恵さんが「花有情(春秋社)」のフランス語翻訳版を出版したことをご報告に、サンガの皆さんを連れての日本旅行の一環として立ち寄ってくださったのでした。ご一緒にお経を読み、お茶を一服差し上げ、昼食を共にし、午後はお花やお茶のお稽古を見学していただきました。

10月25日記念写真

「花有情」の中でも紹介されている「花寄せ」。これも如心斎が生前お考えになられたもの。今でも如心斎の命日にお供えするため、お家元では毎年行われている一つだそうです。お寺ではなかなかする機会がなかったのですが、皆さんに活けていただきました。眠っていた掛け花用の花器も陽の目を浴びました。自国に帰られてもこの体験を思い出して、お花を生けていただきたいです。

「花寄せ」を指導する青山老師
「花寄せ」全員の作品
フランス語版「花有情」


先日、真弓貞夫さんの映画『蘇れ生命の力~小児科医 真弓定夫~』の一部を拝見しました。

1931年3月6日、東京都生まれ。東京医科歯科大学卒業後、佐々病院小児科医長を務めたあと1974年武蔵野市吉祥寺に真弓小児科医院を開設し、40年以上にわたって診療を続ける。“薬を出さない・注射をしない”自然流の子育てを提唱。2003年に社会文化功労賞受賞。2021年11月18日没、享年91才。

秋から冬にかけて、インフルエンザ予防ワクチンの話題が増えていきます。真弓先生は、病気に罹らないためにワクチンや薬を摂取しているけれど、そのことで逆に病気が増えている、と警笛を鳴らしています。発熱、下痢、嘔吐、咳、ゼイゼイ、鼻水、くしゃみ、目やに、発疹とか外へ出る症状は何も心配ない。熱が出せない低体温、便が出ない便秘など外に出ない方が問題なのだと言います。赤ちゃんは38度、37度あるのは当たり前なのだそうです。もちろん、時に薬は病気を治すために有効ではあるけれど、基本は「自分が自分の病気を治す」「家族の病気は家族全員で治す」のだと仰っていました。それでも、マイコプラズマ肺炎や手足口病など不安になる病名が多い今。出来るだけ免疫をつけて怖がらずに生きたいものです。

映画の中で語られていたことを、備忘録として記します。

・四里四方のものを食べる(16km以内の食べ物を食べる)
・四季にあった食べ物を食べる
・出来るだけ加工されていないものを食べる
・伝統的な和食を食べる
・加工されていない水を飲む(ジュースなどを飲まない)
・加工されていない空気を吸う(クーラ―、暖房を使わない)

映画『蘇れ生命の力~小児科医 真弓定夫~』

スーパーマーケットとインターネットでの買い物がなければ私たちの食事は賄えないのが現状です。それでも、畑から取れるものと隣近所で交換できるもの、長期保存できるものを出来るだけ摂るようにして、四季にあったものを頂ける日々にしたいと希っています。それぞれが、身近なものを中心に食事をしていたら、物流コストも下がり、夜中に運送するトラックの数も人手も少なくて済むのではないかとも思うのです。


信州では、空も空気も秋から冬へ衣替えをしています。北アルプスでは10月13日に槍ヶ岳で初冠雪が確認されました。富士山の初冠雪は例年では10月2日、しかし今年はまだ観測されておらず、1894年の統計開始以来、最も遅いのだそう。暖かいのは嬉しいけれど、やっぱり心配になります。
11月に入ると漬物、干柿や切り干し大根、そして味噌、保存食作りが楽しみな季節です。首、手首、足首を冷やさぬように、暖かくしてお過ごしください。

10月10日朝6時頃、境内から見える北アルプス

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慈正
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