【地に足をつけて飛べ】安達茉莉子
作家の安達茉莉子さんが書く文章は、まるで生姜のよく効いたチキンスープのように心に染み渡り、日常の細やかな幸福の大切さを思い出させてくれる。
私が安達さんに企画への参加をぜひお願いしたいと思ったのは、日々の仕事にあまりにも忙殺されて、半ばパニック状態のようになっていたときだった。
そんな折、noteの彼女の文章に触れて「人間としての素直な日々の幸福」に改めて気づかされたような気持ちになった。
効率主義的で情報過多な現代生活のなかで、「何が本来の自分にとって素直に大切なものなのか」を見つめ直すきっかけを与えてくれる、小さいけどキラキラ光る川辺の小石のような、温かくて美しい文章だと思った。そしてなにより私はそこに、その一連の文章の中に彼女なりの「妄想」の足跡を感じ取った。その「妄想」は、わたしたち編集部がこの企画でなんとか掴もうとしているような、人間の希望としての「妄想」に近しいものだと思った。
今回は、そんな安達さんが『妄想講義』でどんな妄想を語っているのか、少しばかり紹介しよう。
「妄想」でしか得られない栄養がある
『妄想講義』の中で安達さんは、横浜の妙蓮寺のアパートから鎌倉の一軒家へと引越しをしたエピソードにまつわる妄想=青写真を赤裸々に公開している。「妄想ノート」と名付けられたそれには、引越し先の家について、どんな条件の家かというだけでなく、そこに住むことで自分の生活やキャリア、心にどんな好影響があるかまでを見据えた自由なブレストが綴られている。
実にこれが、読んでいるだけで、安達さんのワクワクが憑依してきて楽しい気分になるのだ。
安達さんの凄いところは、一見して個人的な生活の雑記といった文章の中に、疲れた心を浄化してくれるようなヒーリング効果が溢れているところだ。「そうそう、こういうことが大切だったよな」と無理なく気づかせてくれるのだ。
そしてもっと凄いのは、単に癒しを与えてくれるだけでなく、思わず深く頷いたり、ううむと唸ってしまうようなキラーフレーズを隠しているところだ(これが、安達さんの文章が単なるチキンスープではなく「生姜の効いた」チキンスープである所以である)。
実態のない栄養価……。
これを読んだ時、「この一文こそ、編集部がこの企画を通して伝えたかったことを最もシンプルに表現した言葉かもしれない」と唸ってしまった。
自分の中で自由に繰り広げられる妄想。現実にならなくても、いや現実から遠いからこそそれは豊かさを増し、現実の制約や重圧ですり減ってしまった心にみずみずしさを取り戻してくれる。
妄想でしか得られない栄養素が、たしかに存在するのだ。
そしてその栄養は、現実を進んでいく自分にとっても確かに糧になる。
そんなことを、安達さんの文章が気づかせてくれる。
起こり得ない未来は、きっと起きる
文章の後半で安達さんは、叶うはずのない理想だと思っていたこともいつのまにか実現することもあるという、ひとつの希望を示してくれている。
詳しくはぜひ本編を読んでほしいが、本当に大切にすべき「青写真」さえ失くさずに生きていれば、いつかそれが(青写真とは絶妙に違う形になっているにせよ)現実になっていることもあるのだと。
「こともある」と譲歩をつけるのが、安っぽい自己啓発に止まらない安達さん独特のリアリティである。
人間の弱さや、現実のままならなさを無視せずに、それでも強かに、細やかな幸福を忘れずに生きていく。そんな道行きへの、追い風のように爽やかな応援をしてくれる。
あなたもぜひ、書籍で全編を読んでみて欲しい。
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9月30日発売!
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