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「佐藤敏夫」イヤ違う「砂糖と塩」

ちょっと前のことだが質問箱に、こんな質問をいただいた。

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私の答えはこうだった。少し長くなるが引用する。

これはすごくいい質問ですね。すごくいい。めっちゃトンチがきいてる。頭の体操的でもある。ありがとうございます。世の中に多数のレシピあれど「佐藤敏夫」イヤ違う「砂糖と塩」の両方を同時に使う料理は意外と少ないように思います。砂糖と醤油、砂糖と味噌なら日本ではよくあるのですが、塩とのコラボは難しい。
パッと思いついたのは2つです。
・ひとつは私が「白の大根漬け」と呼ぶ、漬物。拙著「餃子のおんがえし」や、こちらのnoteに作り方が詳しく載っています。
この漬物は「砂糖と塩」のコンボで漬けているのと、調味料を多く必要とするので、何度か作ればすぐなくなることでしょう。本当は「砂糖5:塩1」の割合がベストなので、さらに砂糖を足すとバッチリです。これから大根がうまい季節なので、ぜひ作ってみてください。
・もうひとつはベーコンやハムなどの肉加工品です。もし家にスモーカーがあるのなら、ベーコンを作りましょう。ピックル液の作成にも使えるし、私のようなドライラブ派であればそのまま肉塊になすりつけて塩蔵します。砂糖と塩の割合は凝ればキリがありませんが、せっかく同割になっているのでそこからやってみましょう。大丈夫、私も大体同割です。
スモーカーがなくても、塩豚にすればOK。バラ肉や肩ロースの塊にまぶしつけて、3日くらい冷蔵庫でほったらかしにするだけです。
塩だけで漬けると実はあとの塩抜きの加減が難しかったりするけれど、砂糖と塩なら難易度が下がります。多少のしょっぱさは煮ればなんとかなります。大根やジャガイモなど、味を吸いやすい野菜が合います。豆と煮てプティサレを気取るのも良し。
水だけで煮て、煮汁ごと鍋にするのも好きです。白菜やキャベツなどの葉物野菜に豚の脂がからんで、めちゃくちゃ美味しいです。

すると先日、質問者の方からお礼が届いた。それがこちらだ。

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さすが私の質問者さまである。ちゃんと全部試してくれ、ちゃんと成功し、ちゃんと失敗もし、次回への課題を作り、しかも「最大のポイントは調味料をたくさん使うこと」だなんて、ちゃんとポイントもわかってくれている。完璧な質問すぎて、オットのいたずらを疑うレベルである。感動した。

感動ついでに、砂糖と塩ミックスを使うレシピをもうひとつご紹介したいと思う。正直この料理のことは10年単位レベルで忘れていた。昨日たまたま普段触らない収納ボックスを開けたら昔の料理ノートが出てきて、それで思い出したのだ。15~20年前の私の「好き」と「得意」があふれている自作ノートから「なんで忘れてたんだろガッデム時間を返してレシピ」をどうぞ。

【グラブラックス】

完成

聞き慣れない名前は、北欧の言葉である。「スウェーデン語:gravlax / gravad lax、デンマーク語・ノルウェー語:gravlaks / gravet laks、フィンランド語:graavilohi、エストニア語:graavilõhe、アイスランド語:graflax」と辞書にあり、北欧全体で同じような綴りをすることがわかる。味はスモークサーモンの「スモークしてないバージョン」みたいなもの。

・刺身用サーモンのサク
・砂糖、塩 それぞれ同量
・ディル 好きなだけ

刺身

作り方はめちゃくちゃ簡単である。砂糖と塩を同量用意する。今回はサーモンが小さな塊しか手に入らず、なんと123グラムしかなかった。なので砂糖も塩も小さじ1ずつである。自作するときはサーモンのグラム数によって増やすといい。1キロなら大さじ3強くらい。

砂糖と塩

ディルは私が大好きなのと、今日はフレッシュが手に入らなかったので、特に大サービスで多めにしているが、割と香りの強い物なので慣れないうちは控えめに。ここでは砂糖と塩と同量の、小さじ1にしている。ディル以外に、好みで胡椒やジュニパーベリーなどの香辛料や、お酒などを足してもいい。

まず砂糖と塩を混ぜる。

ミックス

それをサーモンの表面にまんべんなくまぶす。

まぶす

上にディルを散らす。

ディル

この状態でラップをかけ、冷蔵庫へ。1日置く。サーモンが大きければ(半身とかで買える幸せがあったなら)2~3日かけてじっくり味を染み込ませる。

ラップ

寝かせてる間にサーモンからけっこう水気が出るので、冷蔵庫の中ではこんなふうに、下に何かカマせて斜めにしておくといい。東京ばな奈のように見えるのはサーモンである。サーモンである。心のキレイな人にしか見えないサーモンである。

傾け

次の日、スライスして食べる。味がしっかりついているので、パンやじゃがいもに乗せたり、サワークリームやチーズ(フレッシュでしょっぱくないもの)と一緒に食べたりする。

サンドイッチ


かつて私にはボブという外国人の友達がいた。正確にいうと「彼氏の友達」なのだが、みんなで遊ぶときや、ライブ会場などではよく会ったし、会えば「はーいボブ!ロングタイムノーシー」などと親しげに近寄っていった。私の英語といっても「わたし、食べる、好き」程度のブロークンだったが、それなりに仲良く話をしていたものだ。

あるときボブが「冷蔵庫が壊れて困っている」と言ってきた。私はちょうど結婚を機に引っ越すタイミングで、それまでの一人用冷蔵庫から大きな冷蔵庫へと買い替えを考えていたところだった。おお、ちょうどいいじゃないか。それなら私の冷蔵庫をキミに譲るよ。ただ買ったばかりの新品同様だから、1万円くらいでどうかな。

渡りに船の申し出に、ボブも大喜びだった。OK、OK、もらってあげるよ(笑)と大笑いし、とんとん拍子に話が進み、ボブの家の場所を教えてもらい、次の週末にはもうボブの家にいくことになった。何もかも最高だった。

彼氏の車で冷蔵庫を運びボブ家におろすと、ボブが「サンドイッチ作ったから食べてって」と素敵な提案をしてくる。遠慮なくいただこうじゃないか。でも、まあ、まずはお金の話をしちゃおう。とりあえず代金を先にいただいていいかな。すると驚きの答えが返ってきた。

「1万円はこちらが払うんじゃない。もらうんだ」

何とボブは「私から冷蔵庫を1万円で買う」のではなく「1万円もらって、不要な冷蔵庫を引き受けてあげる」つもりでいたのだ。いやいやいや、無理無理無理。何で買ったばかりの冷蔵庫を、1万円のおまけつけて差し上げなくちゃいけないの。ここまで運んであげたのは私だよ!?

しかしボブもひかない。カナダではこれが当たり前だ。自分は親切な気持ちでもらってあげるんだ、という。このあたりでもう私には英語力がついていけなくなったので、彼氏にすべて通訳してもらっている。ボブ粘る。彼氏も粘る。ボブ大声出す。彼氏も大声出す。

コール&レスポンスがしばらく続いたのち、ボブと彼氏がハグをした。どうやら決着がついた。私は1万円をあきらめ、ボブも1万円はあきらめ、無料で冷蔵庫は置いてくることになった。ボブは今お金を持ってないというし、運んであげた労力とガソリン代といってもそれは彼氏の物だし、また持ち帰るのもアレだという判断だ。まあ仕方ない。まだ怒ってるけど理解はした。

ニューヨーカー好みのロックスオンベーグル

怒ってるけど、サンドイッチはとてもおいしかった。中にはさまっていたのはスモークサーモンではなく、グラブラックスという食べ物だという。ボブいわく「カナダの伝統的な食べ物で、ママの得意料理」だという。そのときはママが出かけていたからレシピを聞けなかったけど、のちにネットで調べて作り方を知った。カナダじゃなくて北欧の物じゃないか、ということも知った。

まあボブも若かったし、そこは不問にしてやろう。食べ物に興味がなかったらルーツまでは知らなくても不思議ではない。きれいな金髪碧眼だったから、もしかするとボブ家のルーツが北欧かもしれない。おいしかったから許す。グラブラックスを知ることができたから、大いに許すことにした。

◆ ◆ ◆

しばらくして共通の友達と飲んでいる時「こないだボブに冷蔵庫あげたんだ」という話になった。ついでにサンドイッチがおいしかったこと、カナダの伝統的な食べ物がはさまっていたことも話した。すると友達が

「あ、カナダボブの方なんだね」

という。

「え? 何のこと」

「え? ボブって2人いるじゃん。カナダボブとアメリカボブ。外見もよく似てるし、年齢も服装も似てるからみんな出身地をつけて呼んでるんだよ」

え? え? えー!? 

ボブは2人いるの!?

いやいやいや、まったく気づいていなかった。だって本当によく似ているのである。2人とも金髪碧眼、背が高く、同じような黒地のロックTシャツを好み、どちらもシカゴカブスのキャップをかぶり、コンバースを履いている。完全に1人のボブだと思っていた。こないだどちらかのボブにした話の続きを、どちらかのボブにしたりしてた。あーあ。私のこと、さぞかしアレな人だと思っていただろうな、ボブ。

どっちのボブ? どちらもだ。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。