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「作り置き」ではなく「作りかけ」

「そんなことしてたら将来お姑さんに笑われる」というのが母の口癖だった。キュウリの端っこを大きめに切ってしまったり、お茶が濃かったり薄かったり、お茶碗洗うのにお湯出しっ放しだったりした時に、このセリフは発動される。

四角い部屋を丸く掃除機かけたり、洗濯物をたたまずにタンスに突っ込んだり、お金を出しっぱなしにしている時などにも使われる。節約をきちんとして、ブレのない家事ができることが女の生きる道だと母が本気で思っていたのかどうかはわからぬが、とりあえず私を叱るときの立ち位置として「母は心配している。お前はちゃんと嫁に行けるのだろうか」があったのは間違いない。

朝ごはん

食事のマナーにも厳しかった。

箸で人を指すな、ねぶるな、突き刺すな。箸は高い位置で持て。茶碗は指を揃えて持て。皿もできるだけ持て。姿勢良く座れ。食卓に肘をつかない。足を組まない。口に物を入れたまま喋らない。

どれも当たり前のことで、しつけられてよかったかどうかと問われればまあ、できないよりはできた方がいいし、よかったですと言うしかない。ただ「私はできる」自負は、私を「食卓のマナー警察」にしてしまった。

彼氏や上司やバイトの先輩なんかのお茶碗や箸の持ち方にいちいち目くじらを立て、いちいちガッカリしていた。「あんなお茶碗の持ち方じゃ、誰かに笑われるよ」と、心の中で自分が嘲笑していた。イヤなやつだ。

今はクチャクチャ食べ以外は、かなり寛容な目で見ている。だって広告やドラマの中で食べる演技をしている人を見ても、指を揃えてキレイにお茶碗を持っている人などほぼいない。そこに何も疑問を抱かない人がほとんどだから、撮影にOKも出るんだろうし、つまり、もう、現代では気にする必要がないってことだ。自分で自分の所作だけ気をつけていればいいだけの話なのだ。

とまあ偉そうに言っているが、家での私はひどいもんである。人前ではなんとか取り繕っているが、家ではかなりお行儀が悪い。椅子の上であぐらをかく。箸で茶碗を叩いたりする。ネットをしながら、音楽を聴きながら、本を読みながら、だらだらと飲み食いをする。

キュウリの端っこはいまだにうまく切れないし、お茶碗を洗うお湯は出しっ放し、四角い部屋は見えるところだけ掃除する、洗濯物はもう畳まずにすべてハンガーにかけっぱなし方式を採用してる。うん、そうだな。私にもそろそろわかってきた。

私はできない子だ。

しかも人生の折り返しターンはとうに過ぎ、これまでの人生より、これからの人生の方がうんと短いお年頃だ。もう今から「不得意なジャンルを頑張って人並みにできるようにする」には時間がない。「できないものはできないと認めた上で、どうにか生きる」道しか残されていない。

これは「新しいものにチャレンジしない」という意味ではない。おそらく今後も世の中は多彩な「面白いもの」を生み出してくるだろうし、その時に気になったもの、興味のわくものは必ずある。せっかく目の前にあるんだったら、試さないという手はない。気軽にどんどん手を出すべきだ。

ただ向き不向きはどうしてもある。お、面白そう!と手をつけてみたところで「1ミリのパーツを1万個貼り付ける類の模型」が私にできるとは到底思えない。そこで「努力は必ず報われる」「頑張れば夢はかなう」という甘い毒薬に惑わされ、ストレスをためるくらいなら「もうどうにでもな〜れ」と放り投げてもいいんじゃない? と思うのだ。

作りかけ

そんなわけで、作り置きである。

世の中の人はすごい。週末に大量の買い物をし、これから1週間の献立を見通し、包丁で刻み、乾物を戻し、油で炒め、オーブンで焼き、肉や魚や野菜を大量の料理に作り上げる。それらを小分けし、タッパーやアイラップに詰め「作り置き」という芸術を作り上げるのである。

私だって、やれるもんならやりたい。いや、果敢にチャレンジしたことは何度でもある。だがムリなのだ。原因はいくつかある。


1・移り気である

今日食べたいと思って作ったものが、明日も食べたくなるかどうか、まったく自信がない。いや十中八九「今日はそんな気分じゃないんだなあ」となるだろう。時には「さっきまで食べたかったけど急に食べたくなくなった」なんてこともある。秋の空より移り気なのである。

2・先を見通した計画が立てられない

500グラムの肉を、月曜日に200使って餃子に、水曜日に200使って炒め物に、残り100はお弁当用に...とかいう計画がまっっっったく立てられない。せいぜいできるのは「半分に分けて冷凍」くらいなものだ。そもそも明日の自分も読めない女が、数日分の料理など作れる訳が無い。

3・気力がない

スーパーにいるときはいい。きゃあ、アレも安い、コレも安い、あコレ食べたかったー、久しぶりにアレも買っちゃおうっかな〜〜のフェスティバル&カーニバルだ。特に魚類は大好きであるためレパートリーも多く、祭りだ祭りだ〜と気持ちよく買ってしまう。ところが家に帰ると、なんということでしょう。まったくやる気がなくなるのである。

ああ、なんでさっき三枚おろしをしてもらわずに丸で持ち帰ったんだろう。アラが欲しいなら言えばくれるのに。

ああ、なんで小アジ30尾も買っちゃったんだろう。南蛮漬けなんてメンドクサイの極みなのに。

ああ、なんでサワラの卵を買っちゃったんだろう。血管の血抜きが面倒なのよねコレ。おまけに生姜を買い忘れてるし。

サワラ

そんなこんなの失敗を繰り返し、私にはいわゆる作り置きはムリだとわかった。だが毎回イチから作るのも気力がない。何かしらの準備はしておきたい。できれば食べる直前の気分で和洋中どれにでも応用がきく形が望ましい。

そんな私がするのは作り置きならぬ「作りかけ」である。

・青菜の作りかけ

なっぱ2

これはめちゃくちゃよく作る。青菜を洗って、適当な大きさに切る。それをポリ袋などに入れる。以上。

それだけ!? と思うかもしれないが、これがめちゃくちゃ便利なのである。さっと茹でるか炒めるだけで、野菜料理ができる。洗う必要がないからすぐ取りかかれる。フライパンを火にかけて1分で食べられる。その日の気分で味は変えられるから、移り気な私にもぴったりなのだ。

キャベツもひとくち大にちぎって同じように作っておくと便利。そのまま冷やしキャベツとして「ごま油と塩」でおつまみになるし、バター炒めでも、レンチンしてポン酢ぶっかけてもいい。

・ナスの作りかけ

なす

洗って、ヘタをとって、2%の塩水につけておく。以上。

そのままだと薄味の浅漬けに。鰹節と醤油をかけると色気がでる。下処理と下味がついているので、ザクザクと切って肉と炒めるだけで美味しい。基本的な塩味だけなので、和洋中どちらに転んでもイケる。

・キュウリやカブ、キャベツ、大根、ニンジンなどの作りかけ

塩水漬け

生で食べられる野菜なら、ほとんど塩水漬けにできる。基本は2%の塩水だけ。薄味なのでドレッシングをかけたり、醤油をかけたり、煮物や炒め物の材料にしたりと応用がきく。和洋中どの味にしてもいい。塩水だけでもいいが、ニンニクや生姜、昆布、唐辛子などを気分で足している。「キュウリ、クローブ、ニンニク」がお気に入り。

・トマトの作りかけ

トマト

本当はこの上に「トマトを洗ってポリ袋に入れるだけ」という作りかけがあるのだが、ここはさらに上級者の作りかけを紹介しよう。

トマトを適当に刻んで保存容器に入れる。以上。

このままでもいいし、軽く塩をしてもいい。醤油をかけてトマト醤油にするのも美味しい。サラダなどに使えるのはもちろん、肉や魚を焼いた時にたらりとかければ、いっぱしのソースがかかってるように見えるのだ。これはオススメ。ちょーオススメ。美味しいオイルをたらしたらもっと美味しい。

たけのこ

旬のタケノコも、下ゆでしたらこんな風な状態まで作りかけて置いておくことが多い。右の刻んだのはタケノコご飯になるかもしれないが、ならないかもしれない。ご飯にするにしても醤油味だけとは限らない。そんな移り気な私にぴったりの、作りかけである。だしで煮るのが面倒ならバター醤油で炒めるだけで美味しいしね。

たけのこバター

今回は野菜の「作りかけ」ばかりだったので、次回は肉や魚の作りかけを紹介したいと思います。

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じろまるいずみ
めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。