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授業探検隊特別編[問いに答えるのではなく、自分で問いを立てることが入試?思考力特待入試の最前線に潜入してみた件]

試験において自らが問いを立てる?

途中に説明を入れさせていただくのだが今回は 一つ大きな勘違いがあった。その結果潜入取材のようになった。勘違いといえば、受験の世界における勘違いとしてよくあることだが、”学校は生徒を落とそうという前提で受験をしているものだ"と思い込んでいる保護者様や生徒様がいらっしゃることがある。きっと難しい過去問題に挑戦していることからくる勘違いなのだろう。私学を中心に取材をさせていただくと、学校の職員の先生が広報担当であるかどうかに関わらず、”うちの学校に合った生徒を出願してもらいたい"、そして"学校に合った生徒に入学してもらいたい"と思っていることがわかる。たとえば就職活動の場合、企業が就職活動している学生向けに企業説明会をする。受験の場合は学校が受験生親子向けに学校説明会をする、さらに入試の過去問題を出版する、場合によっては窓口で過去問題を無償配布してくれる学校もある。入試問題は、このような問題を解く能力のある生徒を欲していますよ、という学校からのメッセージだ。国語の問題においては出題される文章に学校の特色が現れている。社会の問題も同様だ。そして算数や数学、理科の問題においてもメッセージ性が込められている場合が多々ある。ではその問題を紙(出題文)で表現できない場合はどうだろうか。テーマが提示されて自分で問いを立てるような入試があった場合はどうだろうか。試験において受験者の生徒自身が問いを考える形式の受験がある。

「試験において自らが問いを立てる」

この文章は破綻しているだろうか。そんなことはない。それがこれからの教育のスタンダードになるからだ。これまでの授業探検隊では特定の科目を指定して探検をしているわけではないが、自らが問いを立てるタイプの授業、探究型と言われるタイプの授業が学校の特色をもっとも発揮しやすいことは探検を重ねて判明している。しかしそれを中学受験の入試に本格的に取り入れている学校はまだ少ないだろう。今回は以前授業探検にご招待いただいた田中先生の情報提供により、田中先生の学校にて2022年度実施された思考力特待入試の今年度最後の開催会に参加させていただいた。秋から冬にかけて入試のポイント解説を親子向けに実施する学校は多い。今回もお話を頂いてから当日まで、親子向けの説明会で入試のポイントが用紙として配布されるのであろうと思っていた。早朝の最寄り駅にて取材同行者と待ち合わせていると、駅に電車が停車するたびに10組ほどの親子連れが下りてきた。親子連れが向かう方向は私たちと同じだ。校舎に着くと入口には親子連れの長蛇の列ができていた。今回は 一つ大きな勘違いがあった。受付後、会場に保護者は入れないのだ。今回の思考力特待入試体験会は、生徒だけの”思考力特待入試模擬試験の体験”ということだった。もちろん内容は本番の問題とは異なるものだ。これは生徒にとっても絶好のチャンスであり、保護者にとっても学校との相性を図る機会であり、そして試験を作成する先生側にとっても本番の日までに修正を加える絶好の実証実験の機会となったことだろう。

体験会の会場となったのは、学校内の象徴的なフロアであるドルフィンだ。実際にプロジェクト科の授業探検をさせていただいたことがあり、生徒が入学した後に探究の基地となる場所だ。このドルフィンでは毎週プロジェクト科の探究活動が行われている。その様子は別記事でレポートしている。前回の授業探検の時は真夏だった。その時は半袖の生徒たち(受験生にとっては将来の先輩)の活気にあふれ、取材に来た筆者たちを囲む生徒たちがいて、生徒と先生で交わされる休憩時の雑談には花が咲いていた。今日はさすがに緊張感があふれている。思考力特待入試の体験会に参加した生徒は知人同士の参加もあるのかもしれないが基本的に初対面なのだろう。スクール形式ではなく、楕円形の9つほどのデスクに2名ずつの生徒が座っていた。


会場となったドルフィン(※画像は入試体験会当日ではなく以前授業探検した際のもの)


入試体験会開始

ワークブックが生徒に1冊ずつ用意されていよいよ体験会は始まった。このワークブックは開始時は使わない。ファシリテーターの先生が前に立ち、一枚の画像をプロジェクターで映し出す。
    「今日は世界を今までとは違う視点で見てみましょう。」
良く晴れた日に大きな樹木が中央に生えている一枚の田園風景が画面に映し出された。この風景にみなさんはどんな問いを立てますか?ファシリテーターからの漠然とした問いかけに、生徒はまだ思考の焦点を合わせづらそうだ。さらにファシリテーターが問いかける。
    「空の色はどのように変化しますか?」
何かに着目することで、漠然とした問いの解像度が鮮明になっていく。まだこれは体験会の序章だ。ディズニーランドのジャングルクルーズでいうと船に乗る前の状態といったところだろう。いよいよここからが本番。ファシリテーターの言葉を借りると、出会った問いを使って世界を探究する体験がスタートした。試験当日は120分の予定だという。この日はそれを90分(実質試験部分は75分)に圧縮して構成されていた。また今日はファシリテーターの先生がリードしたのだが、本番の入試においてその役目となるファシリテーターがいるかどうかは「決まってはいない」ということだ。本番ではこのジャングルクルーズに船頭さんがいない?そのようなことも不思議ではないなと思った。新しいタイプの入試は何があっても対応できる力が必要だからだ。ここからは当日パートごとに構成されていた内容に区切って順にお伝えしていく。

[パート1]動画を視聴して「普通」について考えてみる


入試体験会のテーマ

今日のテーマが画面に映し出される
       「普通」
これをテーマに問いを立てていくという。全員で、某放送局によって作成されたことがわかる映像を視聴する。日本民間放送連盟賞『最優秀』/ギャラクシー賞『優秀賞』を受賞した作品だった。ちなみに映像中にメモを取ることは可能だ。
各年代の方々が発達障害などを理由に社会生活で疎外感を目の当たりにし、陰ながら社会に適応しようと努力しているといった内容だ。何名もの出演者のエピソード映像が流れた最後に、力強く訴えかける男性のメッセージと以下のテロップが中央に出て映像は終わった。
       「見えない障害と生きる」
ファシリテーターのテーマ紹介では、”普通”と漢字表記されていた熟語がこの映像では”フツウ”とカナ表記になっていた。この5分ほどの映像視聴の後は、アウトプットの時間に移っていく。ここからはワークブックを活用する時間となる。まずは今日のテーマについて思うことを書き出す時間だ。映像を見てテーマについてもっと知りたいと思ったことを考えてみる。ワークブックの内容記録や撮影は控えたが、ワークブック内には表が用意されていて、問いが分解されているようだ。つまり、思考を手助けするために、はしごかけされた問いがあり、それを埋めていくことが、序盤の生徒が行うべき行動だ。今回用意されたワークブックは全13ページほどの構成だったこともお伝えしておく。試験本番ではワークブックの分量などに変更があるかもしれないが、いずれにしてもワークブックを作製するのは学校内の先生であり、外注はしていないそうである。つまり先生たちが本気でこの思考力特待入試に向き合っていることが各生徒の目の前にある13ページから伝わってくる。
ファシリテーターからこのフェーズのポイントが伝えられた。
    「 ここで大切なことは アウトプットすること 」
この思考力特待入試は、個人探究を基本とし、生徒同士の会話や議論はない。集中して各自がワークブックと向き合い、自分なりの問いを立てることが試験内容の中心になる。試験最後の成果物は受験生の言葉が書き込まれたワークブックであり、そのワークブックの出来具合が評価の対象となる。またワークブックを用いずに、生徒同士の会話や議論を中心に実行し評価される
入試も同校で開催されるというから面白い。アクティブラーニング入試という名称なので気になる方はそちらも調査してみることをお勧めする。


当日用意されたワークシートブック

[パート2]問いを作る

パート2のポイントは、”自分なりの問いに出逢う”事だ。これは筆者の感想ではなくファシリテーターの言葉だ。

問いを作る手順が生徒たちにヒントとして与えられた

 問いを多く作る
  ↓
 問いを組み合わせる
  ↓
 問いを一つに絞る
  ↓
 なぜ?を考える

そしてこのあとは会場であるドルフィンを目いっぱい使っていくことが説明された。筆者としては以前にこのドルフィンで行われたプロジェクト科の授業を思い出し、非常にワクワクする。それにしてもファシリテーターの先生は一人なのに、生徒の周囲には学校関係者の先生が複数配置されている。理由は3名の生徒につき1名の試験監督の立場の先生が評価の視点から生徒を見ているからだそうだ。念のためこの点もあくまでも体験会の様子であることを注記しておこう。

[パート3] 問いを探究する方法を考える

ここでのポイントは、どんな調べ方があるのかを考えるところにあるという。ファシリテーターの先生からはドルフィン(図書館)の使い方、ルール、書籍の位置などが説明される。ワークブック内にも、生徒が戸惑わないように説明が書かれている。この思考力特待入試体験会が始まって54分が経過したところで2人の生徒が席を立ってドルフィン内の本棚を探索し始めた。続いて他の生徒もドルフィン内に散っていく。いよいよドルフィンを活用した時間帯だ。この時間帯の生徒の動きは多種多様だ。多くの時間をワークブックと向き合っている生徒、何回も本棚とデスクを行き来している生徒、ワークブック自体を持ち歩いて本棚のところにいく生徒など様々な様子がうかがえる。このパートでは、自ら立てた問いを書き換えてもよいという。また、問いを探究する"方法"を考える時間帯であるため、実際に問いに対して答えを調査をするわけではない。問いを探究する"方法"とは図書館内の書籍で調査するのはもちろんだが、インターネットや外部の施設に出かけることも含めてたくさんあることが示された。


[パート4]問いを探究する仲間に伝える

約束された残り時間は30分、体験会開始からは60分が経過した。このパートは、進んだ問いづくりと探究する方法について、自分なりの言葉で伝える(言葉にして記載する)時間である。ここまでを振り返ると
 パート1と2:、映像インプットと自分の脳内からのアウトプット
 パート3:ドルフィンの環境を生かして調べながら考えを膨らませる
 パート4:文字にまとめる
という流れになっていた。
このパート4では国語力、思考力、まとめる力、表現力が求められそうだ。
試験時間の最後の山場である。生徒はペンを休ませることなく最後の力をワークブックに込めていた。42.195キロのマラソンでいうと残り10キロだ。一眼レフカメラを握る筆者も心の中で声援を送る。言葉をワークブックに込めきれたらそこがゴールテープ。マラソンと違うのは、きっと"スタート⇒10キロ地点⇒20キロ地点⇒30キロ地点⇒ゴール"それらすべてが評価の対象となるところだろう。評価の比重や実際に何がどのくらい評価になるのかはわからないが、作成する先生方の熱意と、生徒の集中力が確かに具現化されていた時間となった。パート4は9時55分(体験会開始から75分)のところで終わり、そのあとはファシリテーターの先生から、思考力特待入試のポイント解説と全体への振り返りが行われた。

[パート5]入試のポイント解説、準備しておくとよいこと

筆者の感想ではなく、ファシリテーターの先生の発言ベースでお伝えする。
 ◆自分なりに日々の生活(情報、ニュース、家族との会話)に疑問を持ち問いを立て、探究しようとしてみることが大切
 ◆学校のホームページ上に対策プリントがあるので見ておくとよい
 ※ちょうどサッカーのワールドカップが開催されている時期だったため、ワールドカップで”人権”が注目されている事例について考えてみようと示された

ここからは筆者の感想だ。
問いを立てて探究しようとする訓練を重ねることも大切だが、訓練に入る前に必要なことは、"日々の生活に問いを持つことにわくわくするかどうか"を自分に問うてみることだろう。保護者様から見てご自身のお子様がわくわくしていないならば、どうしたら日々の生活に問いを持つことにわくわくするかを考え、それを実現しやすい環境を用意することではないだろうか。わくわくできるかどうかは指示命令ではなく、環境に依存する。受験まで残り数か月という段階においてそれは困難かもしれないが、これを読んでいる読者様が受験までにまだ1年以上ある場合は、いつから始めてもプラスになることだろう。早く始めすぎるということはないからだ。

思考力特待入試体験会の時間配分表

体験会終了後に出口で生徒を見送るファシリテーターの先生に、気になったことをいくつか質問をしてみたが、その内容はまたお話する機会ができたら話そうと思う。最後に思考力特待入試体験会のパート1、2,3,4の内容と細かい時間配分表を掲載するので、体験会に参加できた方もできなかった方にとっても、対策する一助となれば幸いである。


思考力特待入試体験会の時間配分表

今回取材した学校についてより詳しく知りたい場合はこちらをクリック


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