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大学4年生だった私が、四国歩き遍路に挑戦した理由【お遍路道中膝栗毛:まえがき】
「キャリホーくん、お遍路行ってみたら?」
馴染みの美容師さんにそう言われたのは、もう10年以上も前のことです。
当時21歳、大学4年生の私。
卒業・就職を目前に控え、「社会人になる前の今だからこそできることって何だろう?」と考えていました。
就職前の最後の春休みは、今後の人生の中でかなり貴重な自由時間。
(今も自由時間といえば自由時間なのですが、無職であることへの焦りが伴うので、やはり当時の気持ちとはちょっと違います)
ダラダラ過ごすのもイヤだし、かといって、周りと同じような旅行やバイトだけで終わるのもなんだか物足りない。
「何かユニークで、古風で、ちょっとぶっ飛んだことをしたい」
そんな気持ちを抱えていた私に、美容師さんの「お遍路」提案はブッ刺さりました。
「そうだ お遍路、行こう」
そう思いました。
私は昔から歩くのが好きで、これまでにも「京都の下宿先から神戸の実家まで、19時間かけて歩いて帰省する」といった謎の試みを実践したことがありました。
だから、「四国を歩いて一周する」というハードそうなチャレンジも、割とすんなり「やってみたい」と思えたのです。
出発前に抱えていた不安要素
とはいえ、もちろん不安がなかったわけではありません。
特に大きかったのは「野宿経験なし」「スマホなし」の2つの不安です。
1.野宿経験なしの不安
お遍路を歩きで回る場合、基本的に野宿が避けられません。
なぜなら、必ずしも毎日、宿があるエリアまで歩ききれるとは限らないからです。
特に高知県は、お寺とお寺の間がとんでもなく遠く、最長で84.8km(フルマラソン2回分!)をひたすら歩き続けなければならない区間もあります。
しかも、当時の私はキャンプ経験すらありませんでした。
寝袋も持っていなかったため、出発2日前になってバイト先の女性社員さんから借りる始末。
今思えば、「ボロボロになって返ってくるかもしれないのに、よく貸してくれたなぁ・・・」と感謝しかありません。
2.スマホなしの不安
さらに私は当時、スマホを持っていませんでした。
「時代の流れに逆らおう!」という、中学時代の友人との謎の誓いにもとづき、高校卒業までは携帯を持たず、大学ではガラケーを愛用。
つまり、道に迷ってもGoogleマップで検索できません。
人通りの少ない道で迷ったら、ひたすら勘を頼りに進むしかないわけです。
(ちなみに、成人式の同窓会で知ったのですが、「一緒に時代の流れに逆らおう」と誓い合った友人は、高校入学と同時にスマホデビューしていたそうです。おい!!)
とはいえ、迷いや不安よりも「やっぱり行ってみたい」という気持ちのほうが勝りました。
「このタイミングを逃したら、きっと一生後悔する」
そんな直感が、私の背中をドンっと押したのです。
「え!? ほんまに行ったんや!?」と驚く美容師さんのリアクションも見たかったし、本当にヤバくなったらヒッチハイクでも何でもして帰ってくればいい。
そう開き直って、私は香川県行きの高速バスを予約しました。
26日間・1,200kmの歩き旅の道中、どんなにヤバくても日記を書き続けた
結果、26日間で無事、四国を歩いて一周することができました。
1日の最長歩行距離は73.33km(歩数にすると96,354歩)。
道中、いろんなハプニングがありました。
膝の皿が外れかけたのでガムテープで固定する
耳たぶが凍傷でぐちゃぐちゃになる
履いていたランニングシューズの底に穴が開く
宿泊予定の小屋が取り壊しになっており、ほら穴で野宿する
ホームレスの方からカロリーメイトを恵んでもらう
帰宅したときには、すれ違う人々から奇異の目を向けられる始末。
無事に帰ってきたとはいえ、決して無傷ではなかったわけです。
あれほどストイックな(というかアホな)旅は、大学4年生のあのタイミングでなければ、絶対にできなかったと思います。
時間的にも、体力的にも、精神的にも。
そんな過酷なお遍路旅の中で、私は毎晩欠かさず日記を書いていました。
このマガジン『お遍路道中膝栗毛』は、その日記を元にしたリアルなお遍路記録です。
旅の途中で経験したことを、ときに丁寧に、ときに乱暴に書き残しています。
他人の日記を盗み見る気持ちで、ぜひポチポチと読み進めてみてください。
お遍路が教えてくれた3つのこと
この旅を通して、私は3つの大切なことを学びました。
やりたいことは「とりあえずやってみる」が吉
周囲の人たちの優しさによって生かされている
日記を書くのは大切
これらの学びは、本編の中でも四国4県の県境を越えるタイミングで「越境コラム」として詳しく触れようと思います。
このマガジンを読んでくださっているあなたが、もし何かに挑戦しようか迷っているのなら。
「まぁとりあえず、一歩踏み出してみるか」
そう思えるきっかけにしていただけたら、とても嬉しいです。