【男性専門の心理カウンセラーに聞く】ジャニー喜多川の性的虐待と男性の性被害 性的トラウマの癒し方とは
イギリスの公共放送・BBCの報道をきっかけとして、「ジャニーズ事務所」創業者であるジャニー喜多川による、所属アイドルへの性的虐待問題が明らかとなった。そこで、日本で唯一の男性専門の心理カウンセラーである山口修喜さんに、性的虐待のサバイバーのリアルと、性的トラウマとの付き合い方について見解を伺った。(編集部・朴)
山口修喜(のぶき)さん
トラウマセラピスト。カナダ・BC州の公認心理カウンセラーとなり、現地の性的虐待を受けた男性専門の支援センターで働く。
2011年に帰国後、「オフィスPomu」を神戸で立ち上げ、多くの男性の性的虐待サバイバーの相談を受ける。
──カウンセリングはどのように行っていますか?
山口…コロナもあって、現在はほぼオンラインです。私が40代というのもあって、相談者は40代が一番多いです。高齢の方では、70代の方がいました。「墓場まで持っていくつもりだった。最後に山口さんと出会えてよかった」と語られていました。
以前に無料相談をしていた時には中学生が電話をしてきたこともありました。いじめで自慰行為を強いられた、であったり、母親と性行為をする自分はおかしいのか、という相談もありました。
──山口さんはカウンセラーの養成プログラムもされていますね。
山口…男性の性被害を聞くには、女性の性被害を聞けるようになっていないとダメです。
そして、性被害に取り組むなら虐待全般を、虐待全般に取り組むならトラウマを扱えるように育成します。「全く別もの」というよりは、より専門的なのです。
──ホームページで「男性の方が性被害を認識しにくい」と発言されていますが、なぜでしょうか?
山口…まさか男性が性被害に遭うなんて、と思っているから混乱してしまいます。体の構造的に男性は「挿入する」方だという感覚があります。また男性から被害を受けても、いわゆる「ホモられた」という受け止め方であったり、加害者が女性の場合は「お姉さんに教え込まれた」という風に思ってしまいます。
そして、性被害当事者はありとあらゆる生きづらさを訴えます。一番辛いのは、「死にたい」ということ。一般の人が想像できないくらいの不快さがあります。自分の中核の部分が他人に利用され、裏切られ、モノとして扱われた。人格が分裂してしまう人もいます。
──性被害サバイバーに必要な支援は何ですか?
山口…圧倒的な専門性です。ちょっと話を聞いて寄り添って、「大変でしたね」と言うだけなら必要ありません。逆に害になります。変に傾聴しすぎる方が、余計にフラッシュバックが起きます。
──どのような聞き方がいいのでしょうか?
山口…被害のことは聞かないようにします。まずはフラッシュバックを減らしていくための「リソースづくり」です。そのままトラウマ記憶と向き合うのは、何のギアも持たずに雪山に突っ込んでいくのと同じで、とても危険です。
まずはその人にとって支えになってきたもの、安らぐもの、心地いいものを聞き出していきます。愛情を注いでくれた家族や、信頼できる友人、よき理解者はいないかも引き出します。「自分って愛されてたんだ」「こんなにも頑張ってきたんだ」、と。それだけでフラッシュバックはおさまります。他にも、呼吸法や体の緩め方も教えます。
トラウマ記憶は、30分語って泣いたら解消するようなものではありません。それでは処理できず、もう一度体験しているような状態になります。その人の心地よさを育てて、被害にあった時のことを一瞬でも思い出せるようにしていきます。そうやって、トラウマのひとかけらを解消させていきます。
沈黙した日本社会の責任
──BBCが報道する以前は、ジャニー喜多川の性的虐待問題をどう見ていましたか?
山口…カナダにいたときに『週刊文春』の報道を知りましたが、都市伝説なのかと思っていました。勤務していた現地の治療センターの代表に話を聞くと、「事実かどうかは分からないけど、そういう問題は世界にあるよ」と言われました。
それから少しずつ信じるようになりましたが、日本に帰ってきてからはオフィスの立ち上げに必死で、気が回りませんでした。それから、男性の性被害について大学を回って講演をしていましたが、スライドの最初はいつもジャニー喜多川の写真でした。少年への性的虐待の例として批判していました。
事務所内での性的虐待の事実をわかっていた心理学者もいます。「日本子ども虐待防止学会」というのもあります。そうした専門家は、なぜ一言も言わないのでしょうか。彼らは何を防止していたのでしょうか。
しかし、私も100人を前にしての講演では話をしていましたが、自分のホームページや、YouTubeでは話していませんでした。ビビっていたんでしょうね。いまとなっては大後悔です。男性の性被害体験を聞いてきた専門家として、発言しなかった罪は重いと思います。
──性的虐待を受けたジャニーズのタレントたちは、グルーミング(未成年の子どもを手なずけ、子どもの性的虐待への抵抗・妨害を低下させること)されました。グルーミングの特徴とは、何でしょうか?
山口…グルーミングされる人は最初のステップで選ばれています。反抗しなさそうな人が選ばれ、少しずつお金を与えるなどして信頼関係を築いています。ジャニーズ事務所では、「芸能界デビュー」がご褒美でした。
そして「スペシャル感」を出します。学校の先生なら「あなたは優秀な生徒だ」や、「期待しているよ」などと声をかける。家庭で愛情をもらえていない生徒なら、それだけで喜んでしまいます。
しかし、そこからすぐには性加害には至りません。性的な話をしてみて反応を見たり、肩に触れてみるなどして、徐々に慣れさせます。
世間では「ジャニー喜多川は音楽業界に功績を残した」と言われていますが、彼はただ性加害のグルーミング帝国を築いただけです。
──性的虐待を告発したカウアン・オカモトさんは、2016年まで被害を受けていました。当時、ジャニー氏は85歳ですね。
山口…80代というのはあまり聞きませんが、70代のおじいさんが加害者というのは普通にあります。加害者では、学校や塾の先生といった、子ども関係の職業に就く人が多いです。全体の5%は、そういう性癖を持つ人がいると思います。
──性的虐待に沈黙してきた先輩アイドルに責任はないのでしょうか?
山口…タレントは被害者側です。阻止できる人は声を上げてくれても良かったとは思いますが、被害に遭ってしまうとグルーミングされてしまいます。何の責任もないと思います。被害にあった人はゼロ責任にしてあげたいです。
──ジャニー喜多川から性被害を受けた人からの告発が続いています。
山口…カウアン・オカモトさんが、メディアに被害体験を話しまくった結果、パニック障害になりました。二本木(顕理)さんもうつが再発して、精神科にまた通われています。
メディアの人が同じ話を何度もさせているのはセカンドレイプです。本来聞くべきは、被害者の話ではありません。記者は100人で事務所に取材に行くべきです。 (了)
※山口修喜さんの活動されている「Office Pomu」はこちらからアクセスしていただけます。
https://www.pomu.info/
(人民新聞 2023年8月5日号掲載)