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病院経営におけるパラドックスとは

本稿では、病院経営をパラドックスという視点から観察し、病院組織の特殊性の一例を述べていきます。


パラドックスとは

どのような組織もパラドックスを抱えて経営・運営していますが、病院組織は一般的な組織よりもその程度が強いのではないかと考えます。

パラドックスとは、「一見、不合理であったり矛盾したりしていながら、よく考えると一種の真理であるという事柄。また、それを言い表わしている表現法。逆説。」となります。

例えば、組織はイノベーション(変化)を必要としながらも、同時に安定性も保たなければならなりません。つまり変化や安定性は表面的には相反していますが、どちらも組織にとっては重要となります。それらのバランスを取り共存させることで、組織の長期的な成長が可能となるといえます。

一方でパラドックスに似た概念として、ジレンマがあります。

ジレンマは2つ以上の選択肢の間で選ばなければならない状況を指し、どちらを選んでも何らかの不利益や困難が生じる状態を意味します。ジレンマは選択が避けられず、どちらの選択肢にも負の側面があるため、ネガティブな状況を伴うのが一般的です。

例えば、相反する事象AとBがあった場合。組織がそれらをジレンマと捉えると、「AもしくはBのどちらにするか」という2者択一の発想に陥りがちです。一方でそれらをパラドックスと捉えると、「AとBを両立させるには」という新たな可能性を探る発想となりえます。つまり、パラドックスへの対応とは、AとBがうまく両立できるちょうど良いバランスを組織内で探っていくことになるのではないかと考えます。この「ちょうど良い」というのがどのあたりなのか、この認識を共有することがとても大切であり、難しいことであると思っています。

病院経営における代表的なパラドックス

①経済的価値と非経済的価値の両立

医療と経営の両立は病院における代表的なパラドックスの1つではないでしょうか。病院は、病院が収益を上げるための活動(経済的価値)と、患者の健康や命を守ること(非経済的価値)の相反する2つの価値観が常に存在しています。

例えば、高価な治療が必要な患者に対して、経済的には費用がかかりすぎて利益が出ないかもしれませんが、非経済的な価値としては、その患者の命を救うことが最も重要です。また、病院が収益を上げるために効率を重視しすぎると、患者一人ひとりに必要な時間やケアが十分に提供されない可能性があります。

この経済的価値と非経済的価値のパラドックスは、もちろん病院以外の企業でも当てはまる部分がありますが、病院は患者の生命を扱うため、そのパラドックスは簡単に一方に割り切ることが困難となっています。

②教育的背景が異なる専門職における協働

病院におけるサービスは、教育的背景が異なった専門職が協働することで、はじめてそのサービスが完結します。この点においては、松尾(2009)は、次の点から病院は葛藤が潜在する組織と指摘します。

第一に、病院は医師、看護師、コメディカルなど異なる資格や教育的背景をもった職種の集まりであり、互いに異なる下位集団を形成しているため集団間の対立や競合が生じやすい。
第二に上司部下のヒエラルキーの階層数が少なく上位者の権威は職種のブロックを超えて影響力を持ちにくい。つまりは組織トップにより管理的介入は実効性に乏しい。
第三に、個人や職場集団の自由裁量の余地が大きく、組織の規範や基準から逸脱する行動も増えやすい。
これらの点から、病院は「チーム医療のように職種間の共働が欠かせないといわれながら、それらの関係がたえず競合しあい、対立しあい、しかもさまざまな業務が一つにまとめなければならないという矛盾が伏在している」

『学習する病院組織:患者志向の構造化とリ-ダ-シップ』松尾 睦(2009)

このような病院組織の矛盾を伏在している状況はまさしくパラドックスであり、病院組織の特殊性といえます。組織成員がある程度同じベクトルで活動するという経営活動においては、これらが障害となることは明らかといえます。

まとめ

本稿では、病院組織について、パラドックスという視点から考えてみました。改めて、病院組織は一般の組織よりもその特殊性が高いといえるのではないかと思います。

今回取り上げたパラドックスに関しては、放っておくこともできますが、それでは経営に悪影響を及ぼすことになるでしょう。

パラドックスは避けられない概念ですので、これをマネジメントしていくという考え方が重要かと思います。そのためには二者択一の思考ではなく、「一見して矛盾する二つの側面の双方に取り組む、あるいはバランスを保つという考え方」をベースにマネジメントしていく姿勢が重要であり、病院組織には特にその姿勢が求めらえているといえるのではないでしょうか。


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