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私が神社巡りをはじめた理由①発達障害と狼の聖地

私が個人的にライフワークとしている古代史の探求は、不思議な縁でつながった神社巡りからはじまりました。そのきっかけの話を書いていきます。

そもそもの始まりは、私の障害に関係しています。私は発達障害(ASD/PDD)の当事者であり、15年以上前から発達障害者のための交流場として発達障害SNSを運営していました。(追記:2023年7月閉鎖)

実はこの発達障害SNSを作った当初から「発達障害」という言葉はできればあまり使いたくないという思いがありました。

この障害が現実に「障害」となるのは他人や社会との関係性次第です。発達上の特性を持っていても、社会とうまく折り合いをつけて、特に大きな問題がなく自立し生活できている人ならそれは障害ではなくなります。世界一の成功者と言えるイーロン・マスク氏は自身がASDであることを公表していますが、誰も彼のことを障害者とは呼ばないし、その必要もないですよね。
逆に、軽度であっても、それが社会に馴染めない要因となっているなら障害です。

私が理想とする社会は、発達障害者全員が、特性を持っていても困ることのない社会……つまり発達障害という言葉が存在しない社会です。
しかし現状では、発達障害者を定型発達者向けに用意された枠に無理やり押し込める方向での支援しかないというのが実情で、日本は特にそうです。
ごく一部の企業などでは発達障害者の特性の優れた部分を活用しようという動きもあるにはあるものの、当事者がそういったところとうまくマッチングする機会は砂漠でダイヤモンドを探すくらい困難で、当事者にとって理想の社会にはまだまだ程遠いものがあります。

発達障害に代わる言葉

社会が変わることを、変わるかどうかもわからないまま、ただ指をくわえて待っているわけにいかないので、当事者自身ができることはないかと色々と考えてきました。発達障害SNSを運営していてまず気付いたことは、当事者の多くは自尊心と自己評価が著しく低いということです。

これは幼少期からの生育環境が強く影響しています。ラベリング効果という心理学のことばがあります。「あなたは○○だね」と何度も繰り返し聞かされれば聞かされるほど、どんどんその○○になっていく、といった効果です。

「お前はダメなやつだ」などの言葉を幼少期から親や教師などから浴び続けると、本当はできることとできないことの差があるだけなのに「自分は何一つうまくできない子供なんだ」という、一種の洗脳を受けた状態になってしまいます。これは私自身のことでもあります。自尊心をことごとく踏みにじられた私は不眠や幻覚に悩まされるようになり、13歳から5年間も引きこもり、自力でこの洗脳から脱却するためにさらに10年以上の月日を要しました。今現在でも本当に脱却したと言えるかわかりません。私を評価する人が現れると、心の奥底でウソだ、自分は評価されるような人間じゃないという自己否定が顔を出し、全て投げ出して逃げたくなる時があります。実際にそうして成功するチャンスをふいにした事があります。自分自身でこの内面の問題に気がついたのはまだほんの数年前です。気がついたから解決するというものでもなく、私は一生この問題と付き合っていくことになるでしょう。

ラベリング効果の影響は言葉だけに限らず、たとえばある犯罪を犯した者が、薄汚れて罵詈雑言の飛び交う刑務所に収監されると、その環境がラベリング効果を及ぼし、自身の「犯罪者ラベル」をより強固にし、犯罪者的気質からますます抜け出せなくなります。

つまり発達障害者にとっての大きな問題は実は障害そのものではなく、こうして親教師からピントの外れた叱責や暴力を受け続けることによってある意味で虐待を受けたのと同様、自己肯定感を持てなくなったり、人間不信になったり、うつなどの二次障害を発症してしまう事です。日本の場合、発達障害者の半数以上が該当するのではないでしょうか。この障害の社会的認知がまだ無いに等しかった頃に幼少期を過ごした今の30代以上の人は特にそうだと思います。そして発達障害という言葉そのものも、ラベリング効果によって「障害者らしさ」をますます強固にする心理的作用があります。

「社会が変われば障害ではなくなるような障害なら、最初から自ら障害と呼ぶ必要はないんじゃないか?」
「失った自尊心を自分たちで取り戻すような活動をするためには、発達障害に代わる、もっとポジティブな言葉に置き換えてみたら良いんじゃないか?」

そんなことをぼんやり考えていたある日、wolf tone という音楽用語を知りました。

wolf tone
ヴォルフトーン(独: Wolfton )、またはウルフトーン(英: wolf tone )とは演奏音と楽器の胴体の共振周波数が一致した時に発生する、原音の周波数を増幅/拡大した、持続し共鳴する人工的な倍音である。周期的な唸りを伴う事が多く、それが動物の狼の吠え声に例えられた事からこう呼ばれる。 類似の名称を持つ現象としてwolf intervalがあるが、これは古典音律において、純正音程から大きく外れているために、同時に鳴らすと強いうなりを伴う音程の事を指す。

wikipedia

wolf toneは演奏者が鳴らしたい本来の音から外れるため、鳴らないように修正されるのが通常です。しかしこの倍音という成分を単体で見てみると、また違った一面が見えてきます。

倍音
古来合唱などで、本来聞こえるはずのない高い声がしばしば聞かれる現象が知られており、「天使の声」などと呼ばれて神秘的に語られていた。これらは倍音を聴取していたものだと現在では考えられている。

グラスハープなどが奏でる、心に直接響いてくるような神秘的な音色の正体も倍音です。

他の音に馴染まないので通常は強制的に修正されるが、それ単体として見てみると光るものがあるという点が、発達障害の凸凹特性を表現するのにぴったりだと感じました。この発想を得たのが今から9年前、2014年の春頃の話です。

私は暴言と暴力のトラウマでかなりの社交不安があります。いまだにただの買い物でさえ常に不安と恐怖を感じます。けれどもwolf toneの気付きを得てからは、まずは自分自身から変えていきたいと気持ちが前向きになっていきました。それ以来、積極的に外へ出て、不安と戦いながら人とも関わるように努力しています。

「wolf toneの聖地」への旅

気持ちが前向きになった私は、2014年のゴールデンウィーク前、どこかに旅行に行こうと思いたちました。ただ人混みや騒がしい場所が苦手で、一般的な観光名所にも全くと言っていいほど興味がありません。混雑するゴールデンウィークならなおのことです。出かけるにしても基本的にはあまり人気がないところに行きます。せっかくの連休にそれだけではつまらないので、なにか旅行のテーマがあると面白くなるかなと考え、なんとなくwolf toneの聖地を勝手に認定してそこに行く旅というテーマを思いつきました。聖地と言っても神や信仰などといった話ではなく、要はアニメやドラマでよくある「○○の聖地」のように軽いノリの、ちょっとした遊び心で思いついただけの旅のテーマでした。

wolfは狼なので、狼に関係する神社が日本のどこかにあるかもしれない。もしあれば、そこを聖地にしよう。というような言葉遊びをしつつ色々と調べました。そうして私が住む愛知県から無理なく行ける距離内で見つけたのが、奈良県の大神神社でした。

大神は普通に読むと「おおかみ」と読めますが、大神神社の場合は「おおみわ」と読みます。世間知らずな私は、この時はまだ大神神社のことはもちろん、神社や日本神話や神道についての一般的な知識さえも持っていませんでした。大神神社についてネットで調べてみると、日本最古の神社だとか、なんだか色々とすごそうな事が書いてあります。そこで、狼(おおかみ)つながりということで、大神神社を勝手にwolf toneの聖地にしようと決め、ゴールデンウィークの旅の計画を練ることにしました。

しかし、予定日が近づけば近づくほど、そして大神神社について調べれば調べるほど、今度は行こうという気持ちが萎んでいきました。ここは遊び気分で軽々しく行って良い場所ではないという気持ちが芽生え、それが日増しに強くなっていったのです。結局、自分の直感に従って、ゴールデンウィークに大神神社に行くのは断念しました。とは言え、一度決めた「wolf toneの聖地への旅」の思いは捨てがたく。「大神神社に代わるいい場所はどこかないかな~……」というようなことをSNSでつぶやいていたら、神社に詳しい人が「愛知県一宮市にも大神神社があるよ」と教えてくれました。

調べてみると、たしかに一宮市にも大神神社がありました。Googleマップでその位置関係を見て、なんとなく、奈良の本家大神神社と直線で結んでみました。この直線を見ていると、さらに一宮市の大神神社から今度は鏡写しに南東方向に直線を引いてみたくなりました。この時なぜこんな風に線を引こうと思ったのか、自分でもわかりません。なんとなくそうしたかったから…としか表現できません。今から思えば、何か目には見えない不思議な力が私を導いたのかもしれないという気もします。

その線の先に何があるかまったくわからないけれど、そこを旅の目的地にしよう。

直感的にそう思いました。線を地図上で辿って最初に気になった場所が、石巻山という、愛知県東三河にある山でした。


名前も聞いたことのない山でしたが、この名前に何か惹かれるものを感じ、この石巻山をwolf toneの聖地と勝手に決め、今度こそここを旅の目的地にしました。ここならゴールデンウィークでも人はそれほど来なさそうで、静かで良いかなとも思ったからです。

この旅が、人生を変えるほど重要な旅になるとは思ってもいませんでした。②に続く。


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