読書記録|司馬遼太郎『坂の上の雲』
読了日:2021年6月
私の初めての司馬作品はこの小説。
明治維新後の日本〜日露戦争終了までの明治真っ只中の日本を描く。
主人公は実在した人物たち3人で、松山藩の士族の家に生まれる陸軍第一騎兵旅団長・秋山好古と、その弟である海軍連合艦隊参謀・秋山真之、そして明治文学を代表する俳人として著名な正岡子規。真之と子規は幼馴染。
秋山兄弟は日露戦争で大活躍した人物で、この歴史小説を読んだことがある人と話すと、だいたい”兄派”か”弟派”かという話になる。因みに私は弟・真之派だ。
兄の秋山好古は日本陸軍の騎兵の創設に貢献した人物で、長身でいて顔立ちがまるで日本人らしくない。
一度画像を検索していただきたいが、若い時分も後年も「確かに日本人らしくない」と共感してくれると思う。
そんな風貌で馬にまたがる姿はとても勇ましい。
そんな秋山好古の戦術はなかなかおもしろく、戦ってる最中に酒を飲む(笑)
連合艦隊の司令長官である東郷平八郎は、その参謀を務める秋山真之に全福の信頼を置いていた。
その甲斐もあり、見事、敵艦隊を叩きのめすわけだが、それに至るまでの戦略・戦術が素晴らしい。針の穴に糸を通すようなことをやってのけるのが秋山真之だ。
東郷率いる連合艦隊と対戦するバルチック艦隊の司令長官、ロジェストヴェンスキーの錯乱ぶり…というか”東郷恐怖症”が酷すぎて、ハチャメチャ感にもはや愛着が生まれるほどだった(笑)
一方、陸軍の日露戦争でキーポイントになったのが、かの有名な旅順要塞および二〇三高地。
現地軍である第3軍司令官・乃木希典の評価は様々あるが、最期は明治天皇崩御の際に、後を追って妻と殉死する…
実際はどういう人物だったのだろう?と、この小説を読んで興味が湧いた。(作中ではあまり好意的には書かれていない)
乃木将軍と敵将ステッセルとの逸話もこの小説の中に出てくる。
他、児玉源太郎、山本権兵衛、大山巌、伊藤博文、小村寿太郎、桂太郎、そして山縣有朋など、日露戦争の主要人物が登場する。
正岡子規の友人としては夏目漱石も数ページだが登場する。
知ってる歴史上人物が小説に出てくるというのは実は大切で、それだけで読むのが少し楽しくなり読書意欲が湧くものだ。
司馬作品では、現代にも当てはまるような「ハッ!」とする一節が書かれていることが多い。
この作品の中でいくつか印象に残った、そんな「ハッ!」とする一節でも特に印象深かったのは下記。
「たとえば軍艦というものはいちど遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがら(牡蠣殻)がいっぱいくっついて船あしがうんとおちる。
人間も同じで、経験は必要じゃが、経験によってふえる智恵とおなじ分量だけのかきがらが頭につく。
智慧だけ採ってかきがらを捨てるということは人間にとって大切なことじゃが、老人になればなるほどこれができぬ。」
秋山真之が正岡子規にそう話した。
今の腐敗政治(と私は思う)が蔓延るお役人の頭の中には、 "かきがら" がびっしりくっ付いているんじゃないか、と思った。
また自分自身にとっても大切なことだなと感じた。
この作者である司馬遼太郎氏は元軍人だったというのは後に知るが、その経験があるからこそ書ける素晴らしい小説が他にも多くある。
その中でも、代表作とも言える『坂の上の雲』は押さえておいて間違いない。