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目で見えない量、あつかいにくい場、とらえにくい現象をあつかうのが当面の研究対象

ありがとうございます

はじめに

 生命科学の分野のはじっこで、ある分子のようすをさぐる。想像してほしい。わたしたちのからだの奥で日々なにも指図せずともはたらきつづける生命にかかわるさまざまな分子、細胞、組織、器官や臓器。うしろにあげたものほど目に見えて医療機関や検診でそれらのぐあいを観察の機材ややり方を想像しやすい。

わたしがおもにあつかうのは最初にあげた分子。タンパク質やDNAなどが代表例。なかでも酵素を研究の相手にする。もちろん分子は日常の生活ではふつうは目にできない。それ相応の技術や手技でもって観察する。それを科学者はどうあつかい、分子をみつめるか。

きょうはそんな話。

からだのなかで

 日々何ごともないかのようにからだのなかではたらきつづける分子たち。酵素の分子はそのなかでも主要な役割をになう物質のひとつ。それを研究対象にしている。

酵素はいわばからだのなかでふつうならば起こりにくい化学反応をスムーズにすすめる触媒としてのはたらきをもつ。反応の障壁を低くする。おもにタンパク質(例外もあるが)でできている。その構造と機能の関係をさぐるのがしごと。

生体からとりだしてきて、つまみあげてながめられるものならそうしたい。そうできないほど小さく目で見えるわけではないのであつかいにくい。それなりにさまざまなくふうをしないとながめられない。ましてやその機能や構造を知ろうなんて、とお思いのことだろう。

どうやって観察するか

 何十年来それにはX(エックス)線がもちいられてきた。レントゲンの検査でおなじみ。ごく短い波長のX線を酵素タンパク質の分子の結晶にあてて、その回折像からもとの酵素の立体構造を解く手法。20世紀なかばにできるようになり長年つかわれつづけている。もちろんノーベル賞。

そののち一部についてはNMR(核磁気共鳴分析)がおなじ目的につかえるとわかる。こちらも医療でもおなじみのMRI(磁気共鳴画像法)とおなじ原理。最近ではクライオ電子顕微鏡法とよばれる手法で生体分子(比較的大きなもの)の構造を観察できように。

立体構造の予測

 半世紀あまり、さまざまな酵素をふくめたタンパク質の立体構造のデータが蓄積してきて、もとになるアミノ酸配列の特徴からどんな立体構造が生じるかの予測がAIとコンピュータの発達により可能になり、その予測の精度が上記の手法で解かれた立体構造と遜色ないレベルなろうとしている。

それが昨年のノーベル賞の対象になったAlphaFold。アミノ酸配列の一次構造データさえあればこの手法で条件がよければ数時間内で予測が可能になった。

もちろん例外も

 上でお話したのは特定の構造をとりがちなタンパク質についての話。じつは生体はそんなになまやさしいものでないらしい。AlphaFoldで予測がむずかしいというか、もはや特定の安定な構造をとらずに生体内ではたらくタンパク質の存在があきらかになった。天然変性タンパク質という。構造の一部だけがそんな性質をもつ場合は天然変性領域という。

これらがからだのなかでかなりの割合をしめており、組織や臓器によっては存在割合にちがいがあるとわかった。この天然変性タンパク質についてはまだまだ知られていないことが多い。機能するときだけある特定の構造をとるらしいとかさまざま情報が飛び交っている。

おわりに

 だんだんと話がこみいってきてしまった。なるべく専門用語をつかわずに説明しようとしたが、それでもこんなふうになってしまう。もはや生命科学の分野は、最先端の科学の進歩や技術とあいまって、学者のはしくれのわたしの想像を超えるまで発展しつつある。

その波のなかでもまれてアップアップしながらの状況。いまの学生さんたちはここまでのながれをわずかな時間で学んで理解し、取り扱いや操作法を身につけ、研究に利用する。なかなかたいへん。

もちろんもはや古典的ともいえる手法を加味したうえでの話。それなしではいずれも研究のかたちにできないし、それ抜きでは語れないものばかり。今後はどうなっていくのだろう。もうすこし先まで知りたいものだが。


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