和風住宅の基礎知識|四季の行祭事や伝統を受け継ぐシンボルであり、日本人の精神性の礎となる床の間
床の間の意味を考える
現代では床の間を設ける住宅は少なくなっています。しかし、和風住宅の神髄を知り、その本来の姿に近づきたいと思うなら、床の間を設けるのがよいでしょう。床の間と一口にいっても、簡易的なものから本格的な意匠まで、さまざまなかたちがあります。
床の間は、貴族社会・武家社会では貴重品を飾り、また高貴な人の座る場でした。一方、仏教との結びつきでは、学び・敬い・祀るといった精神的な意味合いが深く、静かに自己を振り返る場でもあったようです。こうしたことから現代につながる床の間では、四季それぞれの行祭事・礼儀作法を具現化しながら、もてなしと求道の心を表現する場といっていいでしょう。
本格的な「真」の構えの上段床では、豪華で立派で「結構」な格式高い様式が重視されました。しかし、「行」「草」の数寄屋風書院や数寄屋では、いたずらに派手な演出を避けています。床の間は一種の精神的な空間であり、四季の行祭事と伝統を受け継ぐシンボルゾーンとして認識されているからです。
簡素な中に一軸の文字や絵、一点の飾り物、花一輪を浮かび上がらせることにより、心を落ち着かせ、清閑で厳粛な世界を生み出すのです。
本格的な「真」の構えの書院座敷。(降幡建築設計事務所)
千利休の影響、床飾りの変化
当初から床飾りの中心は絵画や法語の墨蹟(ぼくせき)の額や掛け軸でした。侘び茶の創始者である村田珠光(しゅこう)から武野紹鷗(じょうおう)までの時代は、絵画を第一の床飾りとしていました。
これを変えたのが千利休です。利休は「茶禅一味」の思想から求道の精神を大切に、それを法語の墨蹟を第一に変え、さらに侘び茶を追い求めていく中で、季節の花を第一の床飾りに位置づけました。季節に応じた「時の賞翫(しょうがん)」である草花こそ、主人のもてなしの心を表すのに最適と考えたのです。床壁に竹筒を吊るし、掛け軸ではなく花一輪を生けるようにした床の間もあります。
土壁・踏込床・下地窓の創設
床の間の誕生以来、床の間の壁は彩色画・墨絵・金泥(きんでい)紙・鳥の子といった貼り付け壁が正式のものでした。利休も、利休鼠色などと呼ばれる薄墨色の紙などの貼り付け壁を使っていましたが、晩年から土壁(荒壁)を使い、そこに額や軸を掛けるようになりました。
また、長押を廃止し、漆塗りの床框を磨丸太や档(あて)丸太・錆丸太・名栗(なぐり)・竹などに変えたり、踏込床・洞床・枡床・下地窓などを創設したのも利休だといわれています。
「草」の構えの茶室平三畳向切。(重川材木店)
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