オトガタリ ~the HIATUS《THE AFTERGLOW TOUR 2012》~
マツモトハジメです。
今回は、僕の音楽人生を大きく変えたと言っても過言ではない、
the HIATUSの《THE AFTERGLOW TOUR 2012》を紹介します。
この作品は2011年にリリースされた《A World of Pandemonium》を引っさげての全国ホールツアーのファイナル、NHKホールでのライブを収録したDVDです。ヴォーカルの細美武士さん自身がバンドを組んで最初の集大成と感じ、さらに自身のメンタルの成長にもなったと語っており、我々にそこに辿り得た喜びと楽しさを共有しようと試みている意欲作といえます。
細美さんは、最近活動を再開したELLEGARDEN(以下、エルレ)のヴォーカル・ギターであり、今はthe HIATUSのフロントマンです。エルレはインディーズでありながら、熱狂的な人気を集め、アルバムのセールス・ライブの動員数でも同時代のロックバンドの中でトップクラスを誇り、00年代の日本のロックシーンを牽引したバンドです。
同じく同時代のロックシーンを牽引し、現在も圧倒的な人気を誇る、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン、後藤正文さんは「エルレには、今EXILEとかを聴いている人たちの首根っこも掴むようなエネルギーがあり、それは問答無用の良さである」とROCKIN’ON JAPAN誌での細美さんとの対談で語っているほどです。そんなエルレが2008年突然活動を休止。翌年から細美さんが中心となって新プロジェクト、the HIATUS(以下、ハイエイタス)がスタートしました。
《THE AFTERGLOW TOUR 2012》は少し特殊な経緯を得て制作されています。まず2011年に三枚目のアルバム《A World of Pandemonium》(以下、A World~)がリリースされました。このアルバムについてROCKIN’ON JAPAN編集長、山崎洋一郎さんは「日本の音楽シーンにおいて突出した先鋭性を持つ画期的な作品」と評し、「この音楽がどう受け取られるかで日本の音楽の未来が決まるといっても過言ではない」と言わしめました。
また、これは私個人の感想ですが、この音楽の素晴らしいところはロックミュージックに主体を置きながらも、実際は様々なルーツの音楽を包容している点でしょう。エレクトロ、ボサノヴァ、アイリッシュなど毛色が違う音楽をロックの元に集結させ、何とも形容しがたい新しい音楽、もはや「ジャンル・ハイエイタス」としか表現できない音楽を作り出したと感じました。
翌年この《A World~》を引っさげて、ハイエイタスとして初めてのホールツアーが決定。アルバム制作には殆ど使われていなかった管弦楽器を加えることになり、なんとそのリハーサルの様子をDVDに収めた作品《The Afterglow ~ A World of Pandemonium~》がリリースされます。
山崎洋一郎さんはこのDVDの解説で「世界でも、もちろん日本でも例がない作品。この作品は(ツアーの)リハーサルではなく、新たな作品の創作過程のドキュメントである」と述べています。
そして、このDVDのリリースから2ヵ月後ツアーが開始。そのツアーの最終日にNHKホールで行われたライブを収録した、《THE AFTERGLOW TOUR 2012》が完成したのです。
細美さんは、NHKホールでのライブ中「神を見た」と語っています。これは本人曰く比喩的な表現ではなく実際に見たらしいです。つまり、(本人は認めていませんが)幻覚の様なものでしょう。細美さんは「バンドを組んでから4年、一つの旅の区切り、最初の一周がこれ(THE AFTERGLOW TOUR 2012)で完結した」と述べており、「自分が作った作品の純度と、大切な仲間がいるってこと以外、(俺にとって)あんまり意味がないような気がする」という結論を得ているようです。
ツアーを撮影していた写真家の橋本塁さんはライブの様子を「高揚感と先鋭的ミュージックに人と人との熱量が融合した一大芸術ショウ」と表現しています。そして細美さんはDVDに収められているライブの最中、神を見ています。当然、それは映像に写っていませんが、我々はDVDを通して、細美さんがツアー中に成長できた喜びと、メンバーと観客と唯一無二のその日限りの音楽空間を共有できる楽しみを、パフォーマンスで煌びやかに昇華している姿を観ることができます。
私は実際このツアーの大阪公演を観て感動し、今回のDVDで、細美さんが神を視た“神”を“感動”いう形で視ることができたと思います。細美さんが得たもの、我々に伝えたいものは、音楽を通して圧倒的な美しさとなって一つの形になっているのでしょう。
気になった方は、ぜひ一度ご覧ください。では。
●マツモトハジメ●