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浪人は死語?変わる大卒の価値◆「全入時代」チャンスか、危機か【時事ドットコム取材班】(2023年01月21日08時30分)
入学先にこだわらなければ、誰でも合格できるー。受験生が定員の数を下回る「大学全入時代」が訪れようとしている。競争緩和の影響で、浪人生の急激な減少に加え、「大卒の価値」の地殻変動も起きているという。受験生にとっては志望校合格へのチャンスが広がった形だが、かつて「戦争」とも例えられた大学受験の変化は、日本に何をもたらすのだろうか。(時事ドットコム編集部 太田宇律)
盛大な入塾式、今は昔
今から40年近くさかのぼる1984年春、名古屋市にある愛知県体育館で、大手予備校河合塾の「入塾式」が開催された。河合塾によると、この日は午前と午後の部に分け、中部エリアの浪人生およそ1万人が参加。会場には「燃えろ青春の1年」と記された垂れ幕も掲げられ、塾生への激励のほか、講師らによるバンド演奏なども披露された。
当時は毎年、東京国技館や大阪城ホールなど各地で盛大な入塾式が開かれていたが、90年代に入ると次第に縮小され、大規模なものは行われなくなっていった。バブル崩壊の影響もあるが、最大の理由は浪人生の減少だという。
文部科学省の「学校基本調査」によると、90年代にピークを迎えた浪人生の人数は、その後大きく減少。大学入学共通テスト(旧センター試験)の志願者データでは、94年度に19万2208人いた浪人生の志願者は、2023年度には7万1642人まで減り、過去最少を更新した。一方、現役生が志願者全体に占める割合は過去最高の85.2%に達している。
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こうした流れは、浪人生の指導を事業の柱としていた大手予備校の経営を圧迫した。代々木ゼミナール(東京都)は2015年、全国に27あった校舎を7拠点に縮小。最近でも、駿台予備学校(同)が22年3月に神奈川県内の藤沢校、あざみ野校を閉鎖しており、各予備校は浪人生から現役生へとターゲットの転換を迫られている。
変化は授業にも見て取れるようになり、ある大手予備校関係者は「大教室にすし詰めになった塾生に名物講師が語り掛ける『集団指導』のイメージは薄まり、マンツーマン指導やオンライン授業などが主流化しつつある」と話す。
浪人生の「減少スパイラル」
背景にあるのはもちろん少子化だが、浪人生の減少は少子化よりも速いペースで進んでいる。受験動向を分析している河合塾の主席研究員、近藤治さんに理由を尋ねると、「これは予備校河合塾としてはあまり見たくない数字なのですが・・・」と前置きしつつ、事情を解説してくれた。
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近藤さんによると、「浪人減」の主な要因は、少子化による18歳人口の減少と、大学の増加による定員増だ。日本の18歳人口は92年に約205万人に達したが、その後減少。2023年の入試に挑戦する18歳は約110万人まで減った。一方の大学は、1990年代以降、規制緩和による新設ラッシュが続き、92年度に523校だった大学の数は、02年度686校、12年度783校、22年度807校と、大きく増加している。
18歳人口が減って大学の定員が増えれば、志望校に合格しやすくなるため、浪人する人が減る。浪人生の減少は、翌年の現役受験生の「強力なライバル」が減ることにつながり、さらに翌年の浪人生が少なくなる。近藤さんは、こうした「浪人生の減少スパイラル」を背景に、早ければ23年度にも「大学全入時代」が到来すると予測。「浪人生が顧客である予備校にとっては『負の連鎖』かもしれないが、受験生にとってみれば、今はかつてなく志望校に受かりやすい『千載一遇のチャンス』と言える」と話す。
揺らぐ「就職は大卒有利」
日本社会では「大学進学は就職に有利」という考えが広まり、こうした共通認識が進学率を底上げすると同時に、大学の定員増も後押ししてきた。しかし、近藤さんはこうした価値観も揺らぎ始めたと感じている。
近藤さんが着目しているのは、現役生が大学進学を志望する割合の推移だ。18歳人口がピークだった92年当時は35.5%で、その後2000年代に掛けて50%台まで急上昇したが、2010年代は横ばいに。足下では60%前後で推移している。
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進学しやすくなったのに、現役生の志願率は頭打ちになっているように見える。いったい、なぜなのか。
「08年に起きたリーマンショックの影響で、当時70%あった大卒者の就職率は2年間で61%まで下落しました。その後は働き方が多様化し、学歴がなくても動画配信などで稼ぐことができるSNS時代が到来。こうした世の中の変化で『いい大学に入っていい企業に就職すれば安泰』とか『大卒でなければ裕福になれない』といった価値観が崩壊したことが、志願率の頭打ちという形で現われたのではないでしょうか」(近藤さん)(参考:「いい大学からいい会社」はもう古い?起業サークル活況、ベンチャーへの道【時事ドットコム取材班】)
終わりの見えない不況で、家庭の経済状況が悪化していることも、進学や受験浪人をためらわせる要因になっているという。近藤さんは「学費の問題を解決しなければ、現役生の志願率が今後も伸びていくとは考えにくい。むしろ下落に転じる可能性もある」と分析する。
「浪人」から「勇者」へ
「浪人という言葉には、入れる場所がどこにもない人というイメージがあるが、最近は複数の大学に合格していながら、第一志望にこだわり、あえてもう一度受験に臨む受験生も目立つ」とも説明した近藤さん。受験事情が急速に変化する中、「浪人」という表現自体が、現状とそぐわなくなってきている側面もあるといい、「個人的には『浪人』ではなく『勇者』と呼びたい」と話す。
高学歴のイメージも変わりつつあるようです。大学全入時代は、日本にとって良いことなのか、それとも悪いことなのか。近藤さんに尋ねました。後半で紹介します。
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