発達障がいと「普通」の境界線 — ano『普遍』に見る社会との葛藤
anoの曲『普遍』は、社会が押し付ける「普通」に対する強烈な違和感と反発を歌っています。この歌詞を読み解くと、発達障がい当事者が抱える葛藤や、世間が定義する「普通」に対する挑戦が見えてきます。
あたしは普通じゃないからとか
いかにも健全な感性
この歌詞の冒頭は、周囲からの「普通じゃない」というレッテル貼りに対する皮肉で始まります。「いかにも健全な感性」というフレーズは、「普通」であることを求められる社会に対する反発が見え隠れしています。この言葉に込められた違和感は、発達障がいを持つ人々がしばしば感じる「普通」の枠組みに対する不安や疎外感と重なります。
「人と違うのが普通で ズレてるから光るのに」
「その個性を大事に」
とか笑える 神かよ
この部分では、よく耳にする「個性を大事にしよう」という建前が皮肉たっぷりに表現されています。社会は「個性が大事」と言いながらも、実際には「普通」から外れると異質視される矛盾に満ちています。発達障がいを持つ人々が、表面的には個性を尊重するような言葉に傷つけられながらも、内心ではそれを嘲笑している様子が浮かび上がります。この「個性を大事に」といった言葉は、発達障がい当事者にとっては時に負担となり、押し付けられた理想像に過ぎないことを示しています。
ムカつく
ちゃんとしてるのにいつもおかしくて
それでもこれしかなかった
ここでの「ムカつく」という感情は、発達障がい当事者が日常的に感じるフラストレーションに直結しているように思えます。「ちゃんとしてるのにいつもおかしい」というフレーズは、本人が一生懸命「普通」に合わせようとしても、社会からズレてしまうという現実を痛感していることを表しています。どれだけ努力しても、「普通」には届かない。その絶望感が「ムカつく」という言葉に集約されています。
誰かが言う変なんて
せいぜいたかが普通の変だ
怒ってる 別に普通
この部分では、「変」とされることが実は「普通」の一部に過ぎないことが指摘されています。「変」だと見なされることへの怒りは、発達障がいの当事者に限らず、多くの人々が感じる感情でしょう。anoは、ここで「変」と「普通」の曖昧な境界を鋭く指摘し、結局「普通」とは社会が勝手に決めた一つの枠に過ぎないことを強調しています。
地獄再生可能な負のエネルギー
このフレーズは、社会が作り上げた「普通」という枠組みが持つ抑圧的な力を示しています。発達障がいの当事者にとって、世間の期待や常識に沿うことは時に「地獄」のように感じられるかもしれません。そしてその「負のエネルギー」が社会によって再生され続けていく様子がここでは皮肉的に描かれています。
たまらなく愛しいから
そばで笑っててね
この先に何があってもずっと
守ってあげる
この部分は、自己否定に苛まれながらも、誰かを守りたい、愛したいという強い思いが込められています。発達障がいを持つ人々も、他者とのつながりや愛情を求めているという普遍的な感情が描かれています。「普通」ではないことに苦しみながらも、愛し、愛されることへの希望が感じられます。
まとめ
anoの『普遍』は、「普通」に縛られることの無意味さと、その枠組みに苦しむ人々の感情を鋭く描き出しています。発達障がいを持つ人々が、社会の「普通」という圧力に対して感じる違和感や苦悩が、歌詞の中で生々しく表現されています。社会が決めた「普通」とは何なのか、その境界を再考させられる一曲です。
誰もが抱える葛藤を鮮明に浮かび上がらせ、リスナーに「自分らしさとは何か」を問いかけます。
2022.10.12 リリース
作詞 尾崎世界観(クリープハイプ)
作曲 尾崎世界観(クリープハイプ)
編曲 TAKU INOUE