5/10 ニュースなスペイン語 efecto arrastre:持越し効果
持越し効果(efecto arrastre)ー。本来は薬の作用が翌日にも残り、何らかの影響を及ぼすことを指す用語である。睡眠薬などを飲んだ翌日、体がふらついたり、眠気が抜けなったりする現象を指すようだ。スペイン語「arrastre」は「爪痕」という意味。「何かがずっと後を引いている」というニュアンスだ。
スペインは9日、6か月以上続いた非常事態宣言(estado de alarma)が解除された。同時に夜間外出禁止令(toque de queda)も無効となることから、スペインの各地で、大手を振って、夜出歩けることになった。
だから、例えば、マドリードでは人々、特に若い層の人たちが、新年を迎えるかの如く、「太陽の門(Puerta de Sol)」に集結した。ビールの缶を持っている人もあれば、マスクをしている人。してない人。抱き合うカップル。噴水に上半身裸で飛び込む輩たち。いろんな人々がいるが、ひとつ確実に言えるのは、ソーシャルディスタンスはゼロいうこと。
一夜明けて、マドリード市長(alcalde)のホセ・ルイス・マルティネス・アルメイダ(José Luis Martínez Almeida)は「大変残念(lamentable)だ」とのコメントを出した。また、「マドリード市で路上飲酒をすることが自由の象徴ではない(Hacer un botellón en la ciudad de Madrid no es libertad)」とも。副市長のベゴニャ・ビジャシス(Begoña Villacís)も「悪夢のようだ(pesadilla)」と述べた。
ここで冒頭の「持越し効果」に話を戻そう。
実は、上で述べたような「残念」で「悪夢」のようなどんちゃん騒ぎに参加できない人もいた。時間もあり、会いたい仲間もいるのに、である。マドリード在住の26歳のある女性は言う:
緊急事態が解除された日って、「あぁ、自由だ」「これで人々に会える」「いろんなことをやれる」とか言って、さぞかし、喜びに満ちた瞬間なはず、と思っていました(Siento que la desescalada tendría que ser un momento de alegría, de decir 'estoy liberada, voy a poder ver a la gente y hacer un montón de cosas)
ところが、実際には違っていた。この女性は続ける:
でもそうではなかった。だって、あまりにも急すぎて、みんなが心の準備ができているとは、到底、思えない(no lo está siendo porque ha sido algo muy repentino y no creo que estemos preparados)
ある心療内科には、同様の相談が多数寄せられているという。心療内科医、ルイス・ゴメス(Luis Gómez)の分析によると、約一年以上にわたって自由を制限され、心の安定を与えてくれていた友人との出会いも制限されたことで、不安と共に心の低調に関わる障害が増大している(tras más de un año de limitación de libertades y de perder "reforzadores que antes nos aportaban bienestar", como los encuentros con amigos. "Eso ha producido un aumento de las dificultades relacionadas con la ansiedad y el bajo estado de ánimo)らしい。
つまり、緊急事態宣言下の制限の効果によって、心にブレーキがかかる人が少なからずいるのである。既出のマドリードの女性は、この状況を「ストックホルム症候群(Síndrome de Estocolmo)」と同じとさえ述べる。
この症候群は、誘拐犯などの犯罪者と立てこもりなどを通じて一定期間接することで、被害者がその犯人に同情や感情移入することを言う。
人々の自由を奪った憎き犯人、非常事態宣言。しかし、いざ、解除してみるとそんな制限にすら、懐かしさや愛しさまで感じてしまうー。こういう心の動きを女性はストックホルム症候群に例えたのだ。
不便続きのリモートワークが明けて、いざ、出勤となると、パソコンやマイクやイヤホンに、何か後ろ髪を引かれる気持ちになる。これもストックホルム症候群の一種か。
誰にでも、ーもちろんに日本人にだってー、起こりうる、複雑で、悩ましい、ポストコロナ問題のひとつだ。
写真はEl País紙(5.10)より。太陽の門にあつまり、どんちゃん騒ぎを繰り広げる人たち。