6/16 ニュースなスペイン語 Inmatriculación:登記
人口約300人ほどの小さな町(pueblo)の、しかし、非常に大きな問題を紹介しよう。
トパレス(Topares)――。アンダルシア州のアルメリア(Almería)にある小さな町。市役所(Ayuntamiento)がある以外、特に何もないという。
このトパレスの住民たちは、2週間に1回、バスに揺られて約15キロ離れた、ムルシア州のモラレッホ(Moralejo)まで、ミサに参加する(oír la misa)ためにおもむく。
トパレスに教会がないわけではない。しかし、この町の住民たちは、教会が2014年に行った登記の内容に納得いかず、ずっと教会ともめているのである。
教会が住民たちが所有権を主張している、いくつかの施設を、勝手に登記してしまい、住民たちの所有権の無効を主張している。これが、すべての混乱の根源だ。
どういうことか?
今から、約150年前に、トパレスに「心の友の会(Hermandad de las Ánimas)」という組織が誕生した。住民が会費を出し合い、相互に助け合う(ayuda mutua)システムのようだ。日本でいうところの、町内会・互助会のようなものらしい。
心の友の会は1950年代、寄合所「コラリージョ(Coralillo)」を作った。Coralilloは「小さなサンゴ礁」という意味(辞書を引くと「coralillo」には「サンゴヘビ」という、何やら物騒な名前が出てくるが、その意味ではないだろう)。まさしく、小魚たちである住民たちが集う憩いの場となった。しかも、「小さな」というのが、何か、つましさを感じる。
コラリージョでは、ゲーム大会(ocio)や演劇(teatro)などをやっていたそうだ。
お金がある人はお金を出し、お金がない人は働いたのよ(El que tenía dinero daba dinero y el que no, hacía trabajo)。
ある女性は手記にこう書いた。
そんな憩いの場が、突然、町の教会の所有物として登記されてしまった。
一方的な登記は寄合所トラリージョにとどまらない。
ソニアの理容室(Peluqueía de Sonia)――。ソニアは金曜日と土曜日しか店を開かず、町の女性たちの髪を結ってきた。そんな女主人のもとにある日、教会から文書がいきなり届き、次のように宣告された。
理容室の鍵を提出するように。この施設は教会のものである(Tenía que entregar las llaves porque era de la Iglesia)。
教会の不可解な登記はまだある。
心の友の会のメンバーは次のように憤る。
この町のお墓は、ある住民の方の土地を元に、私らが作ったんです。住民と心の会が墓地を管理してきたんです。骨入れなんか、全部、私らが作ったんですから(El cementerio lo construyó el pueblo a raíz de un solar que dio un vecino. Los pedáneos y la Hermandad de Las Ánimas han sido quién han cuidado el cementerio. Todos los nichos los ha construido el pueblo)
そんな、住民の思いの詰まった墓地を、教会が登記してしまったのだ。にっちもさっちもいかなくなった心の友の会はついに、ローマ教皇(El Papa)にまで訴え出た。
私たちはローマ教皇にお手紙を書くつもりです。いま、この町で起こっていることについて仲裁に入ってもらえないか。私たちがここの教会で抱えている問題に手を差し伸べてくれるのではないかなと思ってね(Escribimos una carta al Papa para que interceda sobre el caso que tenemos aquí, para ver si nos pudiese echar una mano para solucionar nuestro problema con el Obispado)
無理と分かっていても(「pudiese」は実現性が低い、もしくは、無いと分かっていながらお願いするときに出てくる動詞だ)、ローマ教皇に手紙を書かないではいられない。
教会のこうした一方的な登記は、実は、他の地区でも確認されていて、住民との間でいざこざが起こっている。
個人が登記を行う場合、所有権を証明する(acreditar)書類が必要だが、教会の登記ではそうした書類は要らず、公務人(funcionario)の承認(certificado)があれば済む。
つまり、教会が所有権を主張し、公務人がこれを認めれば、教会の所有が確定する。言ったモン勝ち、という様相が否めない。
こうした一方的な登記問題は、実は、他の地区でも多数起こっている。だから、根が深い。この点は、あと、少なくとも1回、記事を書く必要がありそうだ。
写真はトパレスの住民たち。手には「我々は先祖が犠牲と努力を払って造ったものが欲しいのだ(Queremos lo que con sacrificio y esfuerzo construyeron nuestros mayores)」と書かれた横断幕が掲げられている。
出典
https://www.rtve.es/noticias/20220615/topares-pueblo-lucha-contra-inmatriculaciones-iglesia/2384038.shtml