6/26 ニュースなスペイン語 Provida:プロライフ運動
「pro」は「前向き」とか「賛成の」、「vida」は、ここでは、「生きること、生きていること」とか「命」という意味。つまり、「provida」は「生命尊重派」を表す。英語の「prolife」の訳語である。
ちなみに、providaに対立するのが、「pro-elección」だ。こちらは「選択尊重派」ということになる。英語の「prochoice」の訳語。
昨日取り上げた「尊厳死(eutanasia)」や5月12日の記事で紹介した「中絶(aborto)」の議論をするとき、必ず、このふたつの主張は激しくぶつかり合う。両者は互いに分かり合うことはない。
マドリード市のとある一角に「ダートルクリニック(Clínica Dátor)」がある。
ここはスペインで初めて人工中絶の施術が認可された(acreditada)医療機関である。しかし、その外観は思いの外、ひっそりとしている。
見つからない程目立たいというわけではないが、知らない人には何をするところかが分からない場所。
このひっそり感と対照的に、ダートルクリニックの向かいには、ショッキングピンクでラッピングされた一角がある(写真)。
「中絶だけが選択肢ではありません(El aborto no es la única opción)」
と大小様々なフォントで至るところに書いてある。そして、側面には、大きな赤ちゃんの写真と
「僕の笑顔を見ないつもり?(¿Te vas a perder mi sobrisa ?)」
というセリフが読める。
ここは生命尊重派の拠点のひとつで、「命の避難所(refugio privida)」と名付けられている施設だ。毎週土曜日、生命尊重派の活動家たちは、中絶された胎児のために「祈り(rezo)」を捧げる。彼らは自らのことを「救援隊(rescatador)」と呼ぶ。
救援隊たちは、ダートルクリニックを訪れる女性たちに話しかけ、パンフレットを渡したりして、再考を促す。プラスチックでできた胎児(feto de plástico)の模型も渡したりもしているらしい。
しかし、実は、こうした行為は法律で禁じられている。もっと正確に言うと、つい、2ヶ月前の4月13日に、異例のスピード(約11ヶ月)で、刑法(Código Penal)に新172条なるものが付け加えられた:
自主的な人工中絶の権利の行使を妨げるために、妊婦の自由意志を貶めるような、不快かつ暴言的な行為を通じて、女性たちを攻撃する者は、禁錮3ヶ月〜1年、ないし、奉仕活動31日〜80日に処す(El que para obstaculizar el ejercicio del derecho a la interrupción voluntaria del embarazo acosare a una mujer mediante actos molestos, ofensivos, intimidatorios o coactivos que menoscaben su libertad, será castigado con la pena de prisión de tres meses a un año o de trabajos en beneficio de la comunidad de treinta y uno a ochenta días)
命は大切に――。
生命尊重派の主張はストレートかつ至極当然だ。しかし、正論は時に人を苦しめる。
私がまるで人殺しみたいに感じました。地獄に落ちるとか、私の子供を殺してるなんても言われました。ひとい。こんなことが法律で許されているんでしょうか(Me han hecho sentir como una asesina, me han dicho que iba a ir al infierno, que estaba matando a mi hijo (el niño venía mal), horrible, no sé si esto es legal)――。
ある女性はこのように話した。
2018年に実施されたアンケートで、73.3%の人がこうした人生尊重派の活動を「不快(molesto)」もしくは「大変不快(muy molesto)」だと答えている。
人生尊重派の主張は、繰り返そう、全く間違っていない。中絶からひとりでも多くの赤ちゃんを救いたいという純粋な気持ちは分かる。しかし、その無垢な正論が、大きな決断を下した女性たちを苦しめていることも事実だ。
写真は生命尊重派の拠点のひとつ。