6/22 ニュースなスペイン語 Valle de los Caídos:戦没者の谷
何かと物議の絶えない場所のひとつ。
マドリード州のサン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル市(San Lorenzo de El Escorial)にあり、スペイン内戦(Guerra Civil)の犠牲者たちを慰霊するための、国営の施設である。
ここには、内戦時に数万人とも言われる犠牲者を出した戦犯でもある、独裁者フランシスコ・フランコ(Francisco Franco)らも祀られていることや、この施設の建設に政治犯が携わっていたことなどから、この施設を巡っては、様々な議論が常にある。
この度、マドリード州の高等裁判所(Tribunal Superior)が、この慰霊施設に関して、ある判決を出した。なかなか、根の深い問題なので、今回は、判決の内容とこれまでの経緯の概要をまとめるだけにとどめておく。
政府の諮問機関、国家財産管理委員会(Patrimonio Nacional)は昨年4月12日、戦没者の谷に埋葬されている遺骨の掘り起こし(exhumación)と身元の確認作業(identificación)を始めるよう、エル・エスコリアル市の市役所に要請した(solicitó)。これは、反フランコ派の遺族の意向でもあった(reclamadas)。死してまで、愛すべき家族や親類を、フランコと同じ墓には置いておけないー。こんな気持ちなのかもしれない。
昨年10月、ついに作業の第1段階(primera fase)が行われ、約80人分の遺骨が掘り起こされた。
しかし、この遺骨掘り起こしに猛烈に反対し、即時中断(suspención)を求めた勢力がある。独裁者フランコ派の団体「Reconciliación y Verdad histórica」だ。
ところで、この団体に限らず、スペインの団体の名称は、公私を問わず、時に、日本語にしづらい。少なくとも、日本では、団体の名前としては、あまり、馴染まない。
この団体の名前も直訳すれば「和解と歴史の真実」となるが、会の名前としては、かなり、収まりが悪い。
団体の意図を汲めば、「歴史の真実を知って、和解を目指す会」となるか…。これとて、随分、説明的で、理屈っぽい。日本語なら「和解の会」とか「歴史の真実を知る会」とか・・・かな。
さて、名称はともかく、親フランコ派にしてみれば、将軍(General(親フランコにとっての、フランコの敬称))共々、かつての英雄たちの遺骨を掘り起こして身元の鑑定をする行為はもとより、場合によっては、別の埋葬施設への分祀もありうるのだから、面白いはずがない。
同会曰く、
死者と遺族への敬愛の念に対する基本的な権利、そして、永遠の聖なる御霊を敬う必要性(derecho fundamental a la intimidad de los fallecidos y de sus familias y la necesidad de respetar el sagrado reposo eterno )
を冒涜する(vulnerables)恐れがあるとして、遺骨の掘り起こしと身元の鑑定作業の中断(suspención)を求めていた。
そして、昨年11月18日、マドリード州裁判所(Juzgado de Madrid)は、「最終判決が出る前に、掘り起こし作業をすることで生じる損害は明白(son evidentes los daños que se podrían causar si se procede a efectuar actuaciones antes de que se pronuncie la sentencia definitiva)」との判断を示し、「和解と歴史の真実の会」の訴えを認め、掘り起こし作業の中断を命じていた。
と、ここまでが過去の経緯(の概略)。
そして、昨日21日、マドリード州の高等裁判所が、同州の裁判所の緊急中断措置(medida cautelar)を解除し、再び、遺骨の掘り起こし作業の開始を認めたのである。しかし、この先、「和解と歴史の真実の会」が最高裁判所(Tribunal Supremo)に上告する可能性(se puede recurrir)があるので、判決が二転三転することがあるかもしれない。この問題もスペインの闇のひとつなので、いずれ本腰で取り組む必要がある。
写真は戦没者の谷の十字架(Cruz)。高さは何と152.4m!実は今年の3月に「世界で最も高い十字架(cruz más grande del mundo)」として、 ギネス(Guinness World Records)から認定されている。十字架の元には、3万3833人の戦没者が眠っているが、その半分が、身元が判明していない。