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「正義の暴走」が招く悲劇 - 離婚、SNS炎上、そして人類500万年の叡智

実家の押し入れを片付けていると、様々な思い出が蘇ってきます。人生の岐路で、私は何を「正しい」と信じ、どんな選択をしてきたのだろう?

ハンノ・ザウアー著『MORAL 善悪と道徳の人類史』は、そんな私の漠然とした違和感に、500万年の人類史というスケールで答えてくれる衝撃の書です。

「正しさ」という幻想の正体

「非ワクチン主義者は『非合理』でなく『非道徳的』」という著者の指摘に、私は電車の中で思わず背筋が伸びました。数年前、ワクチン接種をめぐる意見の違いが、私の結婚生活を終わらせる一因となったからです。当時は妻を「非合理的だ」と責めましたが、本書を読んで初めて気づきました。私たちは「正しさ」という異なる価値観の前で、互いを理解することを放棄していたのだと。

モラルの進化と「現代の毛づくろい」

著者は「陰口は進化版の毛づくろい」と指摘します。これは私の職場でも日々目にする光景です。先日も同僚が不適切な冗談を言ったことで、社内で集中砲火を浴び、…になりました。霊長類の毛づくろいが持つ「群れの絆を強める」という本来の機能が、現代では「誰かを排除する」ための武器に変質しているのです。

デジタル時代の新たな部族主義

電車での90分の通勤時間。車両内の乗客の多くがスマートフォンを覗き込み、同じような表情で同じような投稿に「いいね」をつけています。本書が指摘する「フェイクニュースは『知的伝達回路』の損傷」という警告は、まさに現代の私たちの姿を言い当てているのではないでしょうか。

「お金と幸福は比例しないという嘘」の真実

平均以下の年収。離婚後、実家暮らしを始めた私にとって、この章は特に考えさせられました。著者は「お金と幸福は比例しない」という一般的な言説を、緻密なデータで覆します。しかし同時に、その「幸福」が持続可能なものなのかという、より本質的な問いを投げかけてくれるのです。

未来への希望 - 4年生の娘に伝えたいこと

月に1〜2度の面会日。娘が「学校で『正義』について習った」と話してくれました。本書から学んだ「モラルに代わる『事実』という通貨」の考え方を、どう伝えればいいのか。単純な「正しい・間違い」では割り切れない現実を、どう説明すればいいのか。本書は、そんな親としての課題にも示唆を与えてくれます。

読者への問いかけ

あなたは最近、どんな「正義」に従い、どんな「正義」に疑問を感じましたか? 本書は、そんな日常の小さな違和感から、人類の壮大な歴史まで、深い洞察で橋を架けてくれます。

おわりに

私は明日も、90分の通勤電車の中で、この本から学んだ視点で周囲を観察するでしょう。そして気づくはずです。私たちは皆、500万年の歴史が作り上げた「モラル」という巨大な実験の中で生きているのだと。

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