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一杯の牛乳に、明日の希望を注ぐ

実家の食卓。母が無言で置いていく朝の牛乳。かつては当たり前すぎて気にも留めなかったその一杯が、今では妙に存在感を放っている。『牛乳から世界がかわる』を読み終えた今、その理由が少しわかった気がする。

「ゲップ」が地球を変える!? ─驚きの科学的発見

「パパ、牛さんのゲップって地球に悪いの?」。面会日、娘が投げかけた質問に戸惑った。本書によれば、牛のゲップに含まれるメタンガスは確かに温室効果ガスの一つ。でも、著者の小林国之氏は、それを単なる「悪者」として片付けない。むしろ、牛と人間の新しい共生の可能性を示唆している。科学的な解説でありながら、希望に満ちた視点が印象的だ。

バター不足の謎を追え!─経済の不思議を解く

片道90分の通勤電車。車内で読んでいた本書の「バター不足」の章で、思わず「なるほど!」と声を出しそうになった。牛乳が余っているのにバターが不足する。一見矛盾するこの現象を、著者は価格システムと流通構造から見事に解き明かす。サラリーマンの私にも、市場経済の複雑さがよく理解できた。

土の中の「小さな同僚たち」─リジェネラティブ革命

本書の白眉は、間違いなく「リジェネラティブ農業」の章だ。土壌微生物を「小さな同僚」と呼び、彼らと協力して作り上げる持続可能な農業の世界。読んでいると、まるで未来の農場が目の前に広がっているような錯覚を覚える。著者の15年に及ぶ取材経験が、説得力のある言葉となって響いてくる。

酪農家の本音、聞かせます─現場からの生の声

インタビュー編が秀逸だ。ベイリッチランドファームの若手経営者の言葉には、特に心を打たれた。「牛の目を見る。それだけです」という言葉の重み。AIやロボット技術が進む現代でも、変わらない酪農の本質がそこにある。私の仕事と重なって見えた。顧客の目を見て、本当に必要なものを考える。原点は同じなのかもしれない。

マンガで笑って学ぶ─「モー太郎」の軽快な案内

難解な専門用語や複雑な仕組みも、「モー太郎」というマンガのキャラクターが軽妙に解説してくれる。これが絶妙なさじ加減で、本書の真骨頂と言っていい。娘と一緒に読んでも楽しめそうだ。実際、来月の面会日には、この本を持っていこうと思っている。

未来を創る、一杯の牛乳

本書は単なる酪農の解説書ではない。日本の食と農の未来を、具体的なビジョンとともに示した希望の書だ。実家の食卓で、母の淹れる一杯の牛乳を前に、ふと考える。この当たり前の光景を、次の世代に残せるだろうか。本書は、その答えを探すための確かな道標となってくれる。

帰宅後、久しぶりに母と話をした。「あなたが子供の頃は、この辺りにも牧場があったんだよ」。知らなかった地域の歴史。週末、娘を連れて地元の酪農家を訪ねてみようと思う。「パパの故郷には、牛さんがいっぱいいたんだよ」。そんな会話から、新しい物語が始まるかもしれない。

いつもより早起きして、今朝は母と一緒に朝食を取った。「最近、牛乳の量が増えてない?」と母が笑う。確かに、お腹周りが気になり始めている今日この頃。でも不思議と、その牛乳を残す気にはなれない。この一杯には、誰かの希望が注がれているような気がするから。

人生で良い本に出会うことは、新しい視点を得ることに等しい。この本は間違いなく、そんな一冊だ。​​​​​​​​​​​​​​​​

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