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日本の”自分で始めた女たち”#7 「コロナで、本当にやりたいことが分かった。ジバン・カンバン・カバンなしで政治の道へ」多田ゆうこさん(1)

多田 ゆうこ さん(高松市議会議員)

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多田ゆうこさんプロフィール
香川・さぬき市生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビ番組のMC.各種イベントやセミナーでの司会、ナレーションなど、香川県を中心に幅広く活動。2007年に笑顔を軸としたビジネス研修、セミナー等を行う会社を立ち上げ、多田さん自らが「笑顔」の講師として、スマイルコミュニケーションによる人材育成に取り組んでいる。2023年4月、高松市議会議員選挙にて初当選し、現在、議員2年目。
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私が知っている多田さんのこと
 
あるときは、真夏の真昼、炎天下の丸亀城で、多田さんに袷の着物を着てモデルになってもらったり。
またあるときは、商工会議所の販路開拓支援事業で、多田さんの「笑顔」を軸にした新商品の開発アドバイスやPRのお手伝いをさせていただいたり。
私が多田さんのことを思いだすのはいつもお仕事のシーン。輝くような、スキっと透明感のある笑顔の多田さんです。
高松の働く女性の会で出会ったのが14年前。話し相手の中にある光を見つけてコミュニケーションしてくれる多田さんを尊敬していました。お仕事では、プロ意識とユーモア、流されない芯に、人と向き合う仕事をずっとされて来た矜持と多田さんならではのバリューを感じていました。
そんな多田さんが選挙に出ると知ったとき、新しい挑戦に驚き「どうしてなんだろう」。当選後は「どうしているんだろう」と、遠くから気になっていました。
昨年12月、仕事でお電話した時、「多田先生!」と言ったら、「もう、その“先生”はやめて~」。お会いすると変わらない笑顔。私はたちまちいつもの調子に戻って多田さんを質問ぜめに。そして思ったのです。私にとっては多田さんが、初めて政治のことを聞ける相手なんだ。
政治というと主義主張や党といった「自分と同じか違うか」に目が向きがちですが、ひとりの政治家はもっと自分と近い感覚の、普通の存在なのかもしれない。そんな「三軒となりの政治家」感覚で、多田さんに政治家になるということについて聞いてみました。毎週1回、4回シリーズです。
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選挙に出るってどういうことですか?

中村 今日は、「政治家になるってどういうことですか?」をお聞きしたいです。
去年12月に会ってお話した時、多田さん、「私も55歳で新しい挑戦」と言ってニコッと笑ってらしたでしょ。何か話を聞いても「メモする」と書き留めていらした。私、そんな初々しさ自分にあるかな・・・いや無いわ、って思ったんです。多田さんの始めた話を聞いてみたいです。
もうひとつは政治家ということについて。政治家の女性が身近にいない。政治家のリアルを知りたいなと思いました。
 
多田さん いやぁ~、政治家っていう意識は全くないので、普通にこれまで通り多田さんでお願いします。
前の仕事では、事務所開きの進行役や選挙カーでの支援の呼びかけなどで、保守系支持者の方々とお仕事をする機会が多かったんです。だから選挙に出ると決めたときも「自民党から出るん?」と言われたりしていました。でも、以前から自民党政治に辟易としていましたので、「いや、それだと出る意味がないんだけど」と。
コロナをきっかけにいろんなことを考えたり、思ったりしたから…理不尽さだったり、社会から置いて行かれる人がいっぱいいることだったり。自分は、これまで社会に置いて行かれると感じたことがなくて。でもコロナ禍で、その側になったんです。初めて置いて行かれる感覚を味わいました。
 
中村 コロナの時、高松商工会議所の販路開拓支援事業で多田さんとお仕事でご一緒し、だいぶ大変そうだなと思っていました。その後、市議選に出られたので、本当にびっくりしました。

2023年4月23日、高松市議会議員として初当選。
(写真:多田ゆうこインスタグラム)

多田さん 私、ずいぶん前から国会中継を見るのが好きで。大人が必死に主張しているのが面白くて、結構ひどい発言もあるなぁと思って見ていました。とにかく正義感の強い子どもだったようで、当時は警察官とか、とにかく悪い人をやっつける人になりたいと思っていました。
コロナ禍で「頑張った人が報われないとおかしいんちゃうか」と思ったときに、政治と接点ができたんです。
 
中村 どうやって?
 
多田さん 私、人の役に立つことが仕事だと思っていて。でもコロナの影響で、当時、県外での仕事が主だったんですがそれがすべてなくなってしまって、今この瞬間、誰の役にも立ててないと思ったら、それがつらくて。そんなときに小川淳也さんの街頭演説を聴く機会があり、こんな誠実な政治家がおるんか!?って思ったんです。
自分の空いている時間を全部使ってサポートしたい。そう思ってすぐに始めたのが「じゅんじゅん会」のボランティアなんです。「じゅんじゅん会」は、小川さんの思いを順々に伝える有志の会。小川さんの応援をすることで、社会の役に立てているような気がして。そうして半年後、統一地方選挙の話が出て、それに向けての勉強会が始まったんです。その会に参加したこともきっかけのひとつです。
 
キャリアブレイクでわかった、自分がいちばん興味あること
 
多田さん 話が脱線しますけど、このあいだ、キャリアブレイクを研究している人に会ったの。キャリア「ブランク」じゃなくてキャリア「ブレイク」です。
日本では履歴書の中に何もしてない時期(ブランク)があると、評価が低いじゃないですか。親の介護だったり子育てだったりで、一度仕事を離れると、復職までの期間に「ブランクがある」と言われたりしますよね。「ブランク」という表現は、キャリアを中断しているネガティブなイメージを持たれてしまうと思うんです。でも「キャリアブレイク」は、キャリアに空白ができるんじゃなくて、ブレイク(小休止)のためのもで、とてもポジティブなイメージ。この仕事をしていていいのかなと思って、1回立ち止まって休養や療養したり、子育てや介護、また資格を取りに行くとか、キャリアがブレイクする時期がある。
中村さんもキャリアブレイクだったんちゃうかな。(会社をやめて大学院で)学びを深めて変わったじゃないですか。
 
中村 そうですね。夫の転勤がきっかけで。「会社辞めて違うことやれる」みたいな感じだった。
 
多田さん 振り返ってみると、私もコロナの時がキャリアブレイク。すごく大変で、いっぱい時間があって、『どうしよう』と、もがいた時期に、自分が一番興味関心のあること、やりたいことが分かったんです。
そこでいろんな仲間ができました。同じ感覚の人、政治にモノ申している人。みなさんすごく勉強している。「これ見たらいいよ」「こんな本もあるわ」みたいな感じでどっぷり浸かって。
統一地方選も私からやりますって言ったわけではなくて、とりあえず集まっている人で勉強会をしよう。そして、誰かボランティアの中から選挙に出しましょうっていう話だったんですよ。
政治に興味がある人で、社会を変えたいと思っている人はいっぱいいるんですよ。だけど実際に議員をやれるかといったら、子育て中だったり家族が反対したりで、自分にやる気があってもできない。
私の場合は、息子は独立して東京で暮らしているし、私も一人暮らし。両親もいない。自分の人生、好きなことすればいい。姉に相談したら「選挙に出るってどういうことが分かってるん?」。と、すごく心配されました。いろんな思いを話すうちに、「やりたいことがあるんだったらやったら」と最後は応援してくれました。
息子に至っては、「なに?今さら相談って、今まで好きなことしてたのに(笑)。好きなことしたらいいんちゃう?」って言われて。「そうやったね、ごめんごめん」(笑)
周りの身近な人は、私が元気に好きなことをやっているのが嬉しいんだなと思いました。
「どなたかやりませんか」って候補を探している中で、私が、特にいいとかっていうんじゃなくて、やりたくてもできない人がほとんどで・・・、「じゃあ多田さん」みたいな感じで。

多田さんが情報発信している「ゆうこはゆうで」のチラシ。
多田さんの質問と対する市長答弁や、市民のみなさんに知ってほしいと調べたことが書いてある。

多田さん (チラシを手渡して)真面目なこと書いてるんですけど、政治にあんまり興味のなかった人が「これ何なんやろ」って手に取ってくれたら。
 
中村 多田さん、いろいろやってらっしゃる。このチラシもですが、「ゆうこはゆうで、ゆうこはきくで」というキャッチフレーズにも、伝えようという意志を感じます。
 
多田さん ちょっと文字がちっちゃくて、いろいろ改善点もあるんですが。
秋号では、自分なりに市の財政を調べて。高松市はいろんな情報を出しているので、家計に例えたりしながら、身近に感じてもらえたらいいなぁと思いながら。まずは、知ることが大事だし。
 
政治×エンタメ=共感
 
多田さん このあいだ高松市内のとある施設の館長さんとお話をする機会があったんですが、「多田さん、市政に興味関心を持ってもらいたいんだったら“政治×エンタメ”で共感やで」と。なるほど~、と思いました。
私は政治に興味を持ったけど、政治に興味持てずにいる人もいっぱいいる。そう思った時、ここで「政治×エンタメ」という言葉、すごくときめきました。
普通に暮らしている人がどんどん参加したくなる議会になったらいいし、傍聴して声を上げたくなるとか、そういうふうにしたい。いま政治は政治家っていう専門家、自分たちとは別の世界の人がやるもののように思われている。
「議員さん!偉くなったね」なんて、言う人がいるけれど、役割が変わっただけで、私、前の仕事も「偉かった」と思うんですよ。どの仕事も役割があってやっている。偉いとか、偉くないとかでもなく、特別なことでもない。
 
中村 ゆうこさん全然偉そうな感じしないけど
 
多田さん でも、私も関心持ったから、今、こうして市政に関わっているんだけど、ちょっと前まではひどい市民だったなと思います。「やってくれたらええのに」と思ってたくせに、やってくれたら文句を言う・・・。
 
中村 わかるわかる(私もです)。何かやってくれたら「そんなんいらん」みたいな。
 
多田さん 提供する側は一生懸命考えた上でサービス等をするけれども、受ける側が本当に求めているものとは、違っていたり。お互いにちゃんと話をすればもっとよくなる。そのためには市民も変わっていかないかん。今の市政は、会話の噛み合ってない夫婦みたいになってると思うんです。
「おかしいやろ」って言う、でも文句を言うだけではダメで、「じゃあ何をして欲しいか」も言う。やっていることがずれないように聴く。こういう作業が必要なんだと思うんです。

私は屋島の景観をどうにかしたいと思っていて。あの場所は多くの人たちの思い出が詰まっている場所だと思うんですよね。廃屋を全部撤去するだけで眺めが最高なのに、と思うんですよ。
それが、議会の中に入っていろんなことを知っていくと、政策の決め方や、予算の付き方の仕組みが分かってくる。野党だから、どうしても数の力で物が言えない部分があったり、言ったとしても決まっていかないという感じもある。
投票率が4割からせめて6割ぐらいあったら、市民の意見が今よりも公平に反映されるなと思うことがあります。
だって、自民党がこれだけ(裏金問題)してても、20%の人は支持している。その20%は確実に選挙に行くんですよ。そうじゃない人を掘り起こすのが私の仕事だと思っています。
もちろん、誰も選ばないという意思表示の形もあるとも思いますが、選ばないという選択から、誰かは選ぶぞ!という人が増えるようにしたい。

2023年6月、6月定例会で一般質問に立つ多田さん。
(写真:多田ゆうこインスタグラム)

中村 政治家って最初はみんな初々しく何か志を持って始めたはずなのに、なんで利権や特権を守ってずるいことをしてしまうんだろうって、いつも思うんですよ。
 
多田さん 他の職業と違うのはやっぱり、いろんな権力も持ってしまうからじゃないですかねぇ。
私、以前の仕事でお世話になっていた方の多くが保守系だったからか、ある会社の社長さんに久しぶりに会ったときに「多田さん、人間関係全部なくなったやろ」って心配されたんですよね。でも、なんていうんかな。戦争したいと思っている人は誰もいなくて、貧しくなりたい人もいない。みんな豊かで幸せになりたいということは、保守であろうとなかろうと関係なく同じだと思うんですよ。
時代が進んできたらフラットになるんちゃうかな。何党とかじゃなくて「この案件だったらここでこうするべきよね」って、ご近所のみなさんが自分ごととして集まって話をして。それが政治に反映される・・・そうなればいいですよね。
 
中村 多田さんは、隣の家の政治家みたいな感じで・・・
 
多田さん それは、とてもうれしいです。いまね、私ちょっと異質物みたいな感じがしてるんですよ、自分で言うのは変だけど。何となく雰囲気に合ってない感じ、なんだか違ってる感じ?いいとか悪いとかじゃなくって、なんていうか、何か目の中にゴミが入ったみたいな感じ??
でもね、昔、神戸の学校に通っていたとき、最初はみんな神戸弁だったのが、卒業するときはみんな讃岐弁を操っとったんですけど(笑)。だから、異物感はあるけど、嫌悪感を持たれなかったら、違いを面白いと思ってくれるんじゃないかなぁって思うんです。馴染んできて気がつけば巻き込める、じゃないけど、こっちの土俵にちょっと乗ってもらえたら。
議会にニコニコしながら来る人っていないんですよね。笑ったら負け、みたいな雰囲気。例えば、「分からなかったら、ごめんなさい」と言って物事を進めていくのって、議会の外では普通じゃないですか。
 
中村 服もみんな戦闘服みたいで。女性は銀座マギーみたいな服を着ないといけないのかなというイメージがあります。
 
多田さん 私は、ほぼパンツスーツですね。昨年の6月議会のときはパンツスーツにスニーカーで、初めての一般質問したんです。その時は落ち着いてできたんです。それで12月議会のとき、なんか今回は緊張するなと思って6月と全く同じスタイルで臨もうと議場に入ったら、「スニーカーを履いてくるなんて、けしからん」って、めっちゃ怒られて、実は昨年の6月議会後、ちょっと問題になったらしいんです。知らなかった。言ってくれたら、スニーカーはやめておきますよ。
 
中村 なんで?議会の冒涜ってことですか?
 
多田さん そう、「品位に欠ける」です。スニーカーが駄目なん。
でもね私、見つけてしまったの。全日空の客室乗務員さんはスニーカー着用に変わってきているって記事を。それも普通になるよね。だから何年か後には「あんな変なこと言われたよね」ってなりそうな感じはありますよ。
で、これは、いいの?あれは、だめなん?金髪は?って聞いていたら、「もう屁理屈みたいに言わんとってください」「普通で考えてください」って言われた(笑)。もう普通がわからんから聞くよね。

第2回に続きます)


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