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日本の"自分で始めた女たち"#6 原田諭起子さん 世界一流のクリエイターたちが原田さんと仕事をしたいと思う理由

原田 諭紀子さん(アクセサリーデザイナー・プロデューサー)
第3回(全4回シリーズ)

(第2回はこちら

中村 原田さんっていつも新しいことを考えている。その発想はどこから来ますか?
 
原田さん 例えば売り場にアンティークを出していて、お客様に「ほしい」と言われて「いや、私物なんです」って言っているうちに、「そんなに欲しいんだったら作りましょうか?」となる。ニーズに合わせてお作りする。
「こんなニーズがある」と頭の中にインプットすると、材料を作れる人に「こういうものをつくるとどうかな」と具体的に話せるんですよね。
 
中村 材料を作る人にとって原田さんは、新しいお客様や新しい価値の話を持ってきてくれる人。だから一緒に仕事したいというのはありますよね。
 
原田さん その方たちが納得するような話しか持って行かないので、信用してくれている。バイヤーさんも知らない情報って面白がってくれるじゃないですか。「これは私しか知らないんですよ」という話ができるという自信はあります。

日本にまだある素晴らしいものを受け継いでいく仕事

中村 具体的にはどんなものをプロデュースされるんですか?
 
原田さん 指輪を出そうと思っています。今までは強度の問題もあって作っていなかったんです、手っていちばんモノが当たるから。今回、安心してお願いできる工房が見つかったんです。
最初は珊瑚と翡翠と真珠で出します。珊瑚で「これを彫って」とお願いしている30代の人がいて。先日は珊瑚の指輪の土台を作ってくれる職人さんを甲府に訪ねました。
高級ラインを作って、ふさわしい場所で発表したいんです。自分の運を全部使っても4月にやりたい。自分のプロデューサーのデビューだから。


原田さんが注文した桃珊瑚の花。なんと1つが1cm以下という小ささ。「高知の職人さんの高度な技術によって、1mm以下の花びらも欠けなく美しく彫られています」。

原田さん 対等にものができる人同士をどう組み合わせてやるか。対等を見極めることがいちばん大事で、平等なチャンスなんですよ。
今まで「この人からものを買いたい」と思うようないい材料を見てきたし、使ってきた。その積み重ねが職人さんにも信用してもらえたのだと思います。甲府の方も、今回初めてご自身の実家を(製作先として)紹介してくださった。でもその間に十年ぐらいあるんです。その十年で私を見ていてくださっていたというのが嬉しかった。
 
中村 それは嬉しいでしょうね・・・
 
原田さん 手抜きなくいいものを作ってきたことに信頼をいただけたことはすごく嬉しかったし、続けていく必要があると思いました。受け継ぐことも私の仕事だと思うんですね。ご相談も来ているので、ちゃんと仕事として受けないと中途半端なことになってしまう。
いまは世界中とつながる媒体があるから、ポッと出の人でもうまくいくんです。その瞬間で仕事する人はいるかもしれないけど、持続するかは疑問です。ものを実直に作る人たちは見ていますから。
民谷螺鈿さんも「自分が何をしたいか考えてここまで来るのに10年かかった」とおっしゃっている。めちゃめちゃセンスある人でもそうなんです。その人たちが素晴らしいのは、積み上げることの大事さをよく知っていることです。
 
中村 その姿と作るものを見ているから分かることもあったんでしょうね。
 
原田さん そう、だから「ここにこんな人たちがいて、いいもの作れるんですよ」と分かってもらうことが大事だと思います。私はその人たちに恥ずかしくないようなものを作ろうと思うし、後世に残るものをメゾン・エ・オブジェにも出す。これを繰り返す。すると信用してもらえる。どんなこともそうだと思うんですよね。


2019年11月に京都・丹後の「民谷螺鈿」を訪問した時の原田さん。貝殻の内側のきらめきを布に織り込む独自の「引き箔」で世界でも類を見ない民谷螺鈿さんの生地をMatsuyoiではコサージュにしている。

「ここで一番いいものを出さないと」
材料に関してはいつもそう思っている


中村
 自分が背伸びしながらクオリティに見合うようにやっていこうとする時期もありますよね。原田さんはそんな場合、どういうふうに背伸びしているんですか?
 
原田さん トライアル&エラーでしょう。材料に関しては、最初から、安いもの・妥協したものを使わないこと。ブランドさんの中には、最初に価格帯を決めて、この形で何十個、何百個・・・と計算するところもあると思うけど、うちのやり方は全然違う。
材料の価格は天井知らずだけど、その中でも、自分が出そうと思った金額の中で一番いいものを探してきた。それをずっと繰り返してきました。
例えばかんざしをつくるとき、1000円で売るものを作って1000円が入るとします。次の材料を買うためにその1000円全部を使ってきたんですよ。いいことかどうかは別としても、そういうやり方をしてきた。Matsuyoiの名前で出す以上は、ちゃんとしたものを作りたいという思いがありましたし、いまもずっと思っています。
材料って一番大事じゃないですか。ここで一番いいものを出さないと、と思いますね。一流の人はいい材料を使っていることを写真からでも見抜きますから。
もののオーラってあるんですよ。言葉では言えないんですけど、最初に見た時に忘れられないんです。いいものを見ている人は、同じものの見方が絶対にあると思っています。
 
中村 そんな材料を「ああ、これは欲しいけどお金が足りない」ってこともありますよね?
 
原田さん このあいだ面白いことがあって。材料を買いに行って翡翠のいちばんいいやつを取ってきて、「あとでお金が出来たら買うんで・・・」と言ったら、「“原田さんボックス”作っときますよ」って。「原田さんは絶対にいつか買いに来るから。これキープね」って、原田と名前を書いてボックスに入れていた(笑)。これも信用関係。長くやっているんで、みんな私を知ってくれている。私のデザインにも評価いただいているんですよね。

素材が何になるかは分からない。
そんな世界でやり続けてきたこと


原田さん 原材料屋さんは素材が何になるかは分からないんですよね。だから私は必ず「こんなものができましたよ」と連絡するんですよ。すると「こうなったんですね!」と驚きになって、「いいですね」って共感してくれる。それがまた次につながる。
作り続けることが大事だし、材料を扱う人たちも、その材料がどこでどんなふうに使われたかを見ることで、自分たちは次に何をつくるかを考えるきっかけになるし・・・。
 
中村 原田さんは作品の写真を撮って、送ったりされていたんですね。
 
原田さん だって喜ばせたいじゃないですか。そこなんですよ。お客様にも業者さんにも、結局皆さんに喜んでいただきたい。
私の会社は、皆さんに頭を下げて材料を買わせてもらっているところから始まっているんです。だからいまいろんな人が私を訪ねて来てくれるのは、本当に有難いと思うんです。いきなり恵まれた環境にいたらこんなことしないと思う。どうしたら業者さんも喜ぶかって考えて、お金だけじゃないなにかをもらってほしいなと思ったんですよね。翡翠屋さんとか・・・。そこはずっと勾玉ばかり作り続けておられたんですよ。
 
中村 卑弥呼や(笑)
 
原田さん あんなマスカットみたいなきれいな石、指輪にしたらかわいいじゃないですか。
もともとは糸魚川出身の方に「この翡翠、きれいにできませんかね?」って百貨店で声をかけられて紹介してもらったんです。出会いって最初はクモのように細い糸だと思うんですよ。でも最終的に太くするのは自分ですよ。
 
中村 なるほどね・・・それは勇気が出る言葉ですね
 
原田さん 本当に「1回で切られてもええやん」って思うんですよ。まず行って話をして「こんなものを作ってるんです」と自分を見せる。私が業者だったとすると、そんなことする人を悪く思わないと思うんですね。縁をつなぐのはその人の力量。
最初の入り口ではなくて、次の入り口からつながることも多い。だから最初でめげないことです。あきらめずにちょくちょく顔を出したりすることで最終的につながっていく。最初で全部諦めてしまうとえらいことになる。こんなクオリティ高い人たちとどんなことができるのか?を考えることが大事だと思うんだよね。
 


製作中の原田さん。数々の美しいものを生み出してきた手。


 中村 販路開拓の仕事をして驚いたのは、同じ商品でもバイヤーさんによっていいと思うかどうかが全然違う。ぴったりくるバイヤーさんに会うのがとても大事だなと思ったんです。
 
原田さん バイヤーさんとは相性があるから、いかにいいバイヤーさんと会うかが大事ですよね。前に中村さんが「作り手さんはバイヤーさんに会いにお店に行けばいいのに」って言ったじゃん。あれ、本当にそうだと思う。作り手は職人で、作るほうにエネルギーを使いたいから行かないのも分かるんですけど。
 
中村 私は「何でやらないんだろう」と思ってしまう。行ってしゃべればわかるし、めっちゃ面白いのに。
 
原田さん 「最近百貨店では客層が変わってきたな」とか。いまみんな上のお客様を目指すけど、その人たちが何を求めているかは分かっていない。売り場に行って、お客様と話してみないと分からないと思う。
以前、東京商工会議所の女性の食事会に行ったんだけど、その時に単価の高い仕事が東京に集中していると感じました。地方とすごく差がある。日本の中でもいろんなところを見ると、別格に違うところはある。だから行かない人には「なぜ行かないのかな」と思うんですよ。
 
(記事内の写真はすべて原田さん提供)
 
→最終回(2月28日公開)に続きます



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