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日本の”自分で始めた女たち”#7 「政治家になるって、自分がどこの誰で何者かが全部、丸裸だなと思った」多田ゆうこさん(2)

多田 ゆうこ さん(高松市議会議員)

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多田ゆうこさんプロフィール
香川・さぬき市生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビ番組のMC.各種イベントやセミナーでの司会、ナレーションなど、香川県を中心に幅広く活動。2007年に笑顔を軸としたビジネス研修、セミナー等を行う会社を立ち上げ、多田さん自らが「笑顔」の講師として、スマイルコミュニケーションによる人材育成に取り組んでいる。2023年4月、高松市議会議員選挙にて初当選し、現在、議員2年目。
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多田さん 今回の市議選で私を選んでくれた人は、何かを感じて選んでくれていらっしゃる。期待をしてくれていると思うんです。女性で新人だったら何か新しいことをするだろう、と。そういう人がどんどん増えていくと、たぶん変わる、と。今、市議会の4分の1が女性なんです。
 
中村 すごいですよね。香川県は女性比率が前回統一選より全国でいちばん伸びたってニュースに出てませんでした?
 
多田さん 県議会がすごいでしょ。香川県って保守的なようだけど、女性を議員に選んでいるんですよ。女性議員の比率が半分になったときに、多分政治は変わる。変わるというか、普通に戻る。

中村 そうなると本当に議会が世の中を表すようになるかもしれない。
多田さんは毎週月曜日に街頭に立っていらして、SNSでもスケジュールを出してらっしゃいますよね。それは何でするのかというと・・・?
 
多田さん 「笑顔の送受信」って名付けて活動してるんです。
市議会議員ってどんな人がいるか、普段、見ることもないし、ふれあう機会も少ないじゃないですか。決まったところに決まった人が立って挨拶していると、「あの人、議員なんだね」って。まずは存在を意識してもらう。

自分のためでもあるんです。名前を覚えてもらうとかじゃなくて、続けていると素敵な挨拶の輪が広がるんですよ。心が折れそうになって、もう無理かも!?と思ったりしたときも、街頭に立つと頑張ろうと思えてくるんです。以前はスル―していた人が、笑顔を返してくれるようになったり。それを見ると自分自身が元気づけられます。

通り過ぎる車の1台1台、中が見えるんです。向こうからも見えるけど、こっちからも見える。「この人はすごく急いでいるな」とか、「なんかいいことあったのかな」とか、みんな人生があるなと思う。一人ひとりの人生があるということを、そこで感じるんですよね。「市民」っていう文字じゃなくて、本当に一人ひとりの人。その人のその日の人生の一瞬に、出会うっていう感じです。
 

毎週月曜日(月曜日が祝日の日は火曜日)朝7時20分より、
高松市の屋島・春日町 片田交差点で笑顔の送受信をする多田さん。

中村 街頭はいつからされていましたか?
 
多田さん 選挙に出るって決めた2023年の11月7日から。「やります、私」って決意したことを伝えたら、「じゃあこの1週間後に立ちましょう」って。それからです。
 
「1年間、一緒にボランティアやってたら大体わかる」
 
中村 私が「多田さんが出馬するらしい」と聞いたのがその年の12月だったので、もうその頃には・・・
 
多田さん 政治の勉強会が始まったのは春ぐらいなんですけど、夏には市議選に出るのは誰がいいかという話になり、「多田さん、どうやろか」って言われたのが9月の終わりぐらい。「いやいや私は」って言うと、「適任やと思うわ」。そう言ったのはボランティアで一緒に活動してきた方だったので、「私の何が分かるんですか」って聞いたら、「いや、1年間、一緒にボランティアやってたら大体わかる」と。
 
中村 それはすごい。そばで見て感じておられたんですね。
 
多田さん そう思ってくれていたんだと嬉しかったし、こういうきっかけは、やりたくてもそうはないだろうし「ちょっと真剣に1カ月考えさせてください」と。すると1カ月猶予って言われたんです。ダメだったら次の人を探さないといけないから。
政治家になるってどういうことだろうか?から始まりました。
 
中村 政治家になるってどういうことなんでしょう。
 
多田さん 「役に立つ」っていうレベルがものすごく拡大してしまうこと?!
それと、自分がどこの誰で何者かっていうことが全部、丸裸だなと思ったんです。
どんな人生を歩んできて、どんな考えをもっているのか・・・みたいな。普通に民間にいたら言わなくていいことも言わないかんし、言わないと伝わらない。
何か事象が起こったときに賛成か反対かって、必ず意見を求められるでしょう。普通に暮らすならふんわりグラデーションでやっていけるじゃないですか。それができない。
説明責任が出てくるから、やることも、ものすごく強く心に思っていないとできんやろなって。「なんでこれこうしたの?」って聞かれたら「これはこうです、私はこう考えます」とちゃんと説明しないといけないですし。それが私にできるのかとすごく考えました。
 
中村 多田さん、インスタで戦争に対する思いを語っておられましたよね。どんな意見があっても、「私の立場はこうです」っていうのをはっきりするのが政治家なんだなと思って拝見していたんです。
 
多田さん 信念を持って説明しなければならない。そういう「立場」なんだなと思って。嫌われてもしょうがないですね。結構、離れる人もいますよね。
選挙に出るとき小川(淳也)さんに、「党の色を付けずに出た方がいいのでは?」との提案もありました。でも、「どこの誰か分からない人が出たら『あの人は何がしたいのか』、新人は余計に分からない。だから私は、党の色をつけて出ます。小川さんとのご縁がなかったら、こんな決断はしていないから」と言いました。立憲民主党で選挙に出る方がわかりやすい。そうじゃないと自分が何を思っているか、みんなに伝わりづらいですもんね。
 
中村 女の人が政治の世界で少ないのは、(女性は)主張しないのが良しとされているところもあるのかなと思って。軋轢を生まないで生きることがいいみたいな風潮があるじゃないですか。
 
政治家も、自分で始めた人も、自分の意見を説明している
 
多田さん 私わりと軋轢で来た方じゃないかと思うんやけど(笑)。
でも好きなこと、政治家じゃなくても何かをやっている人は、自分の意見を持ってやっているので、ちゃんと説明している。この(日本の自分で始めた女たち)インタビューの人だってみんなそうだ思うんですよ。
 
中村 そうですね。皆さん本当にいろいろ話していました。時には毒を持ちながらでも前に行かないとできないことがあると思う。でもそれを公であんまり言えないというか。
自分の意見はこうですとポジションを取ることに、女の人は慣れてないんじゃないかなと思うこともあるんです。軋轢を生まないっていうのをすごく求められてきたんじゃないかなと。
 
多田さん よく言われるのは「上手に生きたらラクよ」なんて。
 
中村 したたかに生きろみたいな。
 
多田さん そうそう。だけどできないし(笑)。
だからといって喧嘩を売るわけではなくて、あなたとは違うから同じ道は行けませんっていうのも違うし。
海外の人ってディベートするじゃないですか。それが普通。自分と相手の意見が違うのは当然で、むしろ意見を持ってない方がおかしいって。なぜそれがいいか話し合って最後はコンセンサスをとる。味方になってくれたりもする。
多様性の時代だからこそ、自分の意見をちゃんと言って、相手の気持ちも理解することは、すごく求められているんじゃないかなと思います。

(インタビュー当日の)数日前に「高松港を特定利用港湾に」というニュースがありましたが、これはもしかしたら有事、戦争のことを想定しているのかもしれない。けれども、香川は災害が少ないからここを防災拠点にしてやるんですよね、平和に進めるためのもんですよね、悪いことしないよねっていう感じで話して、確認していく。「本当は戦争のときのためじゃないの?」じゃなくて、「日本は災害が多いし、地震も多いし、その中でも香川県は四国の中では災害が少ない場所で、ここを拠点に助けに行くってことですよね」という感じで話をする。北風と太陽・・・です。

だけどそれはそれで問題もあるかなと思う。難しいですよね。こっちだっていつも自信満々なわけじゃないから、いろんな情報をとったり、いろんな人の立場を知ったら揺らぎますし、悩ましいですよ。
 
正解がない中では、自分の信じたことをやっていくしかない。

多田さんが市民と直接意見交換をする場、「シンクローカル」

中村 でも、揺らぐ中でも「自分はこうです」って言う。そんな多田さんを信じて、多田さんが自分たちの代表だと思ってる人たちもいて、その重さっていうのはすごくあるだろうと思います。
 
多田さん ありますね。最終的には自分が誠実にやっていった結果が4年後にジャッジされると思っています。

もうそれしかないから。自分が信じることをやっていくしか。正解なんて分かんないじゃないですか。やりたいことをめざして、こう行った方がいいか、いやこっちがいいかなんて探しながら、人に出会って話を聞くと「その手があったか」となったり。

でも説明は必須でしょう。なので市政報告と意見交換を毎月1回しているんです。こんなことがあってこう考えたと、来てくれた人には正直に言うんです。そこで話をして「なるほどそうか」と思うところは自分の考えを丸くして。
対面では正直に言うけど、SNSっていうのはなかなかね。一方向だから。相手の声が聞こえてこないので。対面で話をすると、私その目線や立場になってなかったなと気づいたりして、ありがたいんですよ。

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第3回に続きます。
(写真はすべて多田ゆうこさんFacebook、インスタグラム、多田さんからの提供写真)


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