日本の”自分で始めた女たち”#7 「市民の声を伝えて、市職員の仕事ぶりも伝える。それは地方議員の役目でもある」多田ゆうこさん(3)
多田 ゆうこ さん(高松市議会議員)
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多田ゆうこさんプロフィール
香川・さぬき市生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビ番組のMC.各種イベントやセミナーでの司会、ナレーションなど、香川県を中心に幅広く活動。2007年に笑顔を軸としたビジネス研修、セミナー等を行う会社を立ち上げ、多田さん自らが「笑顔」の講師として、スマイルコミュニケーションによる人材育成に取り組んでいる。2023年4月、高松市議会議員選挙にて初当選し、現在、議員2年目。
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中村 私たちあんまり政治の話ってしないじゃないですか。マナーでも、パーティーの席では政治の話はやめましょうと言われる。
でも以前、外国人のママ友と話して思ったのは、相手とある程度仲良くなろうと思ったら、政治の話もできないと友達になれないんですよ。
例えばそのときはオバマ政権だったんですけど、オバマや日本の政治についてこう思うとはっきり言って、私はちゃんと意見を持っている一個人だという部分を見せないと、対等な相手と思われないんですよね。
多田さん 自分は何を信じていて、自分の判断基準や、なぜこの人がいいと思うかを自分の言葉で言える。議員になると、ちゃんと説明できないといけないとか、自分が丸裸になるっていうことだけど、普通の人間関係をちゃんと築こうと思ったらやっぱりそれをやってるんだろうと思う。みんな、それができたら分かりやすい人になるから、解決策に早く行ける。
中村 解決策に早く行けるというのは、確かにありますよね。
多田さん そうなんですよ。私、前職は笑顔コミュニケーションの先生(笑)。表情が分かりにくいだけじゃなくて、なにかと分かりにくい人とは、ほどよい距離感をとるのが難しい。
相手が「こんなことがあってちょっとブルーなんや」となっていたら、「そうだよね」って受け止めて、トークしながら盛り上げようとか、ちょっと距離を置こうとか、こちらの対応を考えられるじゃないですか。でも無表情だと分からない。距離感もつかめないし、何をしゃべっていいかも分からない。
私は、相手から分かりやすい人でいたい。それは「怒ってる」と感情を押し付けるのでも、「聞く耳持ちません」と拒絶するのでもないんです。相手も分かりやすい方が関わりやすくなるだろうし、意見も言いやすくなるんじゃないか。私はその方がいいと思う。
嫌われないよう気を付けるより、分かりやすい人になる
多田さん 何かの会のとき、先輩議員に「1年生議員が気をつけないといけないことは何ですか」って聞いたんです。しばらく考えてその人が言ったのが「嫌われないようにすること」だったんですよ。それを聞いてもっと他に何かないの?と思ったんだけど・・・。ある意味、真実でしょうけれども。
みんな、それぞれが嫌われようと思って話をするわけじゃない。言った結果、ちょっと価値観が自分とは違うなって思われることはあるかもしれないけど。「嫌われないようにしないといけない」のはかえって分かりにくい人になって、「あなたは分からないから付き合えない」ってなるんじゃないかと思うんですよね。
中村 なんか信用できないとかになる
多田さん そう思います。「あの人みんなにいい顔してるけど」って。
でもね、自分の主張ばかりだったら、おそらく交わることはできないと思うし。みんな同じ人間だから、嫌なこと言われたら傷つくし、褒められたらウキウキするし、美味しいもん食べたらハッピーになるやん。だったらそこで分かり合える道を探せばいいのになって思う。政治の世界だから高度な、腹を探り合うようなコミュニケーションが要るとかではなくて。
中村 そんなイメージありますけど・・・(笑)
多田さん だけど、実際、中に入ったらそうなったよ、やっぱり。
中村 あれっ!?
多田さん 直球もいいんだけど、やっぱり引いたり押したりしながらコミュニケーションするとか。
例えば、一般質問した後で、市側の担当者と話す機会があって、「多田先生、キツイですわ、この言い回し。こう聞いてくれたらこういう答弁もできるんですけどね・・・」なんてやり取りをするうちに、なるほど向こうにも立場や事情があることや、彼らなりに毎回真剣に質問に答えようとしてくれていることが分かった。質問する以上、「こう言ったばかりに答えてもらえなかった」というのは良くないなとも思いました。
なにかヒントが欲しいなぁと思って、本屋さんに行くと、議会での答弁の仕方みたいな本が、あったんですよ。「調査研究します」っていうのは「いたしません」っていう言い替えだとか。そう言われたら、こっちは傷つかないし、ちゃんと顔も立ててもらったような感じになる。なるほど、裏はそうなんか、みたいに分かる本。
中村 本があるんだ!やはり高度なコミュニケーションがあるんですね。困ってる人、いっぱいいるんやろなぁ(笑)
「税金で食べさせてる」と言われてわかったこと
中村 政治家になると私人から公人になるじゃないですか。私はあなたを知らないけど、あなたは私のことを知っているという世界になりますよね。いいこともあるだろうけど、今までになかったネガティブなこともあるんじゃないかなと思うんですよ。そういうのも怖くて、私は政治家なんてなれないっていう人もいるんじゃないかなと思うんですけど。
多田さん イメージがひとり歩きするということですよね。私は以前、テレビや人前に出る仕事をしていたから、誤解されて違う人物像を作られることに対しては、あんまり気にならないっていうか、慣れたっていうか・・・。
それより一番傷つくのは「税金で食べさせてやっているのに」と言われることですね。その時、あっ、私がそういう言い方をされるということは、公的なところで働いている人はそれをずっと言われ続けてきたんだなって思ったんです。
中村 私はそれをいつも、公務員の家族として黙って聞いています。
多田さん (公務員が)頑張っているのは、本人の口からは言えんやん? 私は外から来た人間だから「めっちゃ頑張っとるやん、この職員さん」って思う。知らない人は「仕事してない」って言うかもしれないけど・・・それは、見えないから。
でも「こんなことまでするんだ!」ということを知ったのなら、それは私が伝えたらいい。市民の声も届けるんだから、市役所の声も届けなかったらフェアじゃないやん?
中村 そうか!その間をつなぐっていうのも議員さんの役目・・・
多田さん 議員は市役所の人とも一緒に仕事するんだから「こんなことしてるよ」「こんなふうに思ってやってるよ」ということも伝える。やっぱり誤解が生じるんですよ、間を取り持つ人がいなかったら。それも地方議員の仕事じゃないかと思ってるんです。
中村 話を聞いて思ったのは、政治って、アクロバティックなことをできる人がやるっていうより、シンプルにまっとうなことをやる人でも、わりと力になれるっていうことなんですかね?
多田さん 普通の感覚ってなに?ということだと思う。いろんな普通があるから、いろんな人が入ってこなかったら偏った“普通”で物事が進んでいく。だから私みたいな人も必要なんだろうなと。
年齢も幅広く、男女のバランス、職業やそれまでやってきたこと・・・人事に詳しい人、ITの人、いろんな人がいて、そこでITの人が子育ての話を聞いて、えっと思ったり。子育て真っ最中の人がITの人の話を聞いて、え?ってなるじゃない。そこがすごく大事。
中村 具体的に「えっ」と思ったことありました?
えっ、道路に空いた穴、自分たちで埋めてるんですか?
多田さん 市民のみなさんに一番近い存在の市議という立場だから、さまざまな課題を直接伺うことが本当に多くて。私もそこから勉強する。道の話、池の話、住まいのこと、住民トラブルもあるし、介護のことや防災のこと・・・それをきっかけに調べる。自分の専門じゃないから「え?」ってなるし、調べるのにすごく時間もかかります。
思ったのは、勉強は必要だけど、全部自分でやっていたら、相談してきた相手は(私のことを)ものすごく待たないといかんわけです。この話だったらこの人につなぐとか、そういうことも必要だなと。「みんなで考えたら何とかなりそう。こういうことを考えてる人がいるよ」とか。
例えば道に穴が開いたという話も、小さい穴だったら自分で埋められる。でも、自分では埋めたらダメだと思っている人もいる。
中村 私も自分で埋めたらイカンと思っていますよ?
多田さん 「市や町にお願いしたら何でもやってくれる」と思いがちなんだけど、隣の三木町は、住民に道具を貸し出して直してもらっていると聞いたことがあります。そうしたら住民同士が交流するでしょ。「道を直す」というと「えっ」となりますが、住民が力を合わせて道端の草抜きをするとか、溝掃除をするとか、町のことを自分事として協力してやるということと同じなんです。
そんな住民同士の交流を、私の住んでいるエリアでもしたいと思って。今月(4月21日)、地域にある障害者支援施設の「銀星の家」さんと、近所の人と、まずは顔合わせ的なイベントをしようと思っているんです。そのエリアには自治会がなくて、私、その近所のマンションに住んで26年経つんですけど、未だに「あら、こんな人がおったん?」ってあわてることも。
でも最近、地震がすごく多いでしょう。挨拶もしないようなコミュニティでは助け合いもできないなと不安に思うことがあって、銀星の家さんに相談したんですよね。そしたら銀星の家さんも地域の人との交流をしたいと思って、これまで毎年バザーイベントをしていたそうです。なのでちょっと範囲を広げて、施設と住人のマルシェみたいにしようよと、交流イベントの企画が生まれたわけです。
中村 楽しそう。
多田さん 最終的には防災につなげていきたいけど、最初は「何しよるんかな」って出てきて顔を合わせる。ちょっと会話してもらって、ご挨拶ができるような感じを作ってから、次の段階へ。
みんな人付き合いって面倒くさいと思ってるでしょ。ふんわりつながるほうがいいと思うんですよ。私も、鍵ひとつで済むし、ご近所さんと絡まないでいいからマンションを選んだんです。でも26年経ったら、家族構成も変わるし自分も年取るし、不安になるわけです。香川は災害が少ない県とはいえ、何かあったら・・・ねぇ。
他のマンションの理事会にも声をかけたら、やっぱり中には「不安だったんです」というおばあさんがいらっしゃったり、ご近所がつながるチャンスだなと思ったんです。近所がつながると多分、防災だけじゃなくって孤独死とか介護とか、福祉的なものもいっぱい改善されるんじゃないかと思ったりもするんですよ。夢はでっかく(笑)
中村 でもやることは隣の人と話をするだけ(笑)
多田さん そう(笑)、いまはそれすらないからね。自分で問題に取り組むと、この件はこんな背景があるからこうしたらいいんじゃないかっていうのがちょっとずつ分かってきて、やるべきことが見えてくる。
住んでいる人が幸せだと、外から来た人にも分かる
多田さん 観光もそう。高松は観光にも力を入れて、観光向けの施設を整備したりしている。それも大事なんだけど、ここに住んでいる人がよく行くご飯屋さんとか、みんなが使う施設じゃないと、観光客も面白くないと思うんです。だって自分が旅行した時に行きたいのは、観光客向けの施設ではなく、地元の人に人気の場所や、地元の人がおいしいと通うお店じゃない?そういうことを軸にしていかなかったら、張りぼてみたいな街になってしまうよね。
中村 それ、コロナのときに京都で思いました。コロナ前、観光客が押し寄せてインバウンド目当ての店もいっぱいできていたんだけど、コロナで観光客がいなくなったとき、どこが残っているのかを見ると、地元の人が来てるところだったんですよね。
多田さん 何があっても、地元の人に支えられていたら。地元の人が何回でも行きたいと思える場所を整備していかないと絶対にダメだと思う。地元ではバスが減便してどんどん住民の足がなくなっていく中で、よそから来た人をどうやって運ぶの?みたいな問題もありますし。
中村 すごく観光客が来ていいなって思う反面、何か街がそれに浮かれていそうなのを見たら大丈夫かなと思う自分もいます。
多田さん 一番大事なのは、ここにいる人が幸せだったら、ということ。
例えば、友人の家に遊びに行ったとき、「あんたたち夫婦、いま、めっちゃ喧嘩してたやろ」みたいなのって分かるじゃないですか、家に入った瞬間に感じる、あの感じ。
住んでいる人がすごく満足してハッピーだな、大事にされているなと思いながら暮らしている街は、多分外から来てもなんかいいなって感じるんじゃないかな。高松はいま、そらぞらしい感じになっているんじゃないかなって、ちょっと思います。
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第4回の最終回へ続きます。
本文中の写真はすべて、多田ゆうこインスタグラム、多田ゆうこ後援会Facebookより。
トップ写真は、多田さんにモデルになってもらって中村が2013年に作成した丸亀の観光パンフレット。8月の炎天下、私の母の50年前の着物を着てもらって撮影しました。