NFTプロジェクト「metaani」の何がおもしろいのか? メタバース時代のクリエイターについて思うこと
いまのNFTの盛り上がりについては「バーチャルカルチャー」「NFT(デジタルアイテムに価値を付与することができるかもしれないシステム)」「二次創作とそのコミュニティの発展」の3つが重なる部分が個人的には好きです。
そう考えると、MISOSHITAさんとmekezzoさんがやっているNFTプロジェクト『metaani』がおもしろいよねっていう話をします。
ちなみに、今回の文章は村上隆とストリートカルチャーに関する考察がベースになっていたりするので、先にそっちを読むと理解しやすいかも。
『metaani』は、MISOSHITAさんとmekezzoさんがこだわってきた表現領域と時代性が重なる部分でもあり、NFTだメタバースだなんだという盛り上がりに対して彼らのアプローチはとてもカッコいいなと思います。
というのも、いまのNFTは「仮想通貨的な思想がクリエイターにどのような変化をもたらすのか?(あるいはそこからどんな新しい作品や現象が生まれるのか?)」というところがおもしろくて個人的に興味があります。
もう少し言うと、「それぞれのNFTの価値をどうやってあげるのかという新しい"ゲーム"が登場することで、何が生まれるのか?」という疑問。
その問い(ゲーム)に対してしっかりとアンサーを返してるのが『metaani』だと思ってます。
NFTは、クリエイターの活動初期( ≒ 価値が低いとき)にそのクリエイターのNFTを所持しておくと、そのクリエイターを応援し人気になればなるほど、NFTの価値もあがるという仕組み(ルール)です。
スニーカーやTCG、現代アートなど、価値の変動がその魅力のひとつであるジャンルがこれまでもいくつかあり、その新しいかたちという印象です。
そして、現代における価値の変動として、二次創作によるファンの応援は、大事な要素です。
クリエイターやコンテンツの影響力(価値)が二次創作によって大きく変動しうる現代の状況も含めて考えると、
クリエイターがひとりで頑張って価値をあげてもいいけど、ファンアートやTikTok、切り抜き動画等による二次創作の影響力と変化を見るにつけ、そっちの方が環境メタだし新しい何が生まれそうでおもろしろそうだなと思います。
海外でいえば、CryptoPunksの所有者たちが作品をSNSのアイコンにし始めたりとかBored Ape Yacht Clubが音楽的な動きを始めてるのもコミュニティのファン(NFTの所有者)が大きく関わっています。
NFTにおいて、二次創作的なユーザーによるコンテンツ制作とそのコミュニティ形成はひとつ重要な考え方になるんじゃないかと思います。
ここから『metaani』の具体的な話に移りますが、上記の私の理解と趣味嗜好を前提としつつ、
結論としては、『metaani』は、NFTの"ゲーム"のルールにちゃんと呼応していて、かつ、MISOSHITAさんとmekezzoさんがこだわってきた部分がバーチャル云々という時代性にもしっかりと重なっていて、それがカッコいいよという話です。
そこで重要になってくるのが「キャラクター」というキーワードだと考えています。
※ちなみに、わたしは『metaani』を所有していないので、第三者がただただ褒めるだけの文章です。
①キャラクター化する時代
そもそもMISOSHITAさんはVTuberです。
そして、VTuberとしてバーチャル空間で音楽ワールドを制作しています。
MISOSHITAさんは、バーチャルなクリエイターとして、ずっとちゃんと真摯にバーチャル空間に対するアンサーを出し続けているクリエイターのひとり。
そして、その音楽ワールドで特徴的なのが、その空間に存在する"変なキャラクターたち"。
「なんやこいつら...?」と思いつつも、MISOSHITAさんの世界観を作るうえで欠かせない存在です。
『metaani』のキャラクターデザインが、その"変なキャラクターたち"を彷彿とさせるような人型じゃないのがまじで素晴らしいなと思ってます。
例えば、この『metaani』たちが踊ってるイメージ映像的なやつって、『metaani』で目指すある種の到達点でもあると思いますが、MISOSHITAさんがこれまで作ってきた音楽ワールドとほぼ変わらんわけですよ。
ほぼ変わらんというとむちゃくちゃ語弊がありますが、ようはMISOSHITAさんがずっとこだわってきてその作品群の独自性になっていた部分が、メタバース・NFTという時代性を反映しつつ、しっかりと受け継がれていてむちゃくちゃカッコいい…!!ってことです。
コロナ禍を経て、トラヴィス・スコットがフォートナイトでバーチャルライブをやったりとか「音楽とバーチャル」の試みは数多くあれど、MISOSHITAさんは"常設的な音楽ワールド"や"ゲーム性のあるワールド"という新しい手法をちゃんと実践していたひとりでもあります。
シンプルに音楽体験の可能性を押し広げる試みだし、その積み重ねてきた知見を活かして、最近はNFT関連のワールド制作も手がけていたりとか、つよつよで要注目なバーチャルクリエイターです。
②二次創作的なコミュニティの構築
先ほど二次創作うんたらという話をしましたが、NFTは「クリエイターの活動をどうやって応援するのか?」という現代的なトピックに対するひとつの方法としても注目を集めています。
実際、『metaani』で遊んでいるユーザーによるSNSでの投稿も多く、二次創作的な広がりとコミュニティが生まれています。
『metaani』の所有者それぞれがアバターとしてバーチャル空間で交流したり、『metaani』でこういうこともできるよね?って使い方を提案してるのがいいですよね。
『metaani』所有者による商業利用はOKなので、グッズ制作・販売したりとかもしてます。
さらに、メタバースの理想像であるアバターでいろんなバーチャル空間を行き来するという現象および文脈作りが、ユーザー発の試みで実践されててむちゃくちゃよい。
ユーザー(NFTの所有者)を巻き込みながら、「ひとつのIPとしてどういう展開をするか?」は、NFTのおもしろい部分だと考えますが、『metaani』の施策はその流れにしっかりと対応してる印象です。
③「アートトイ」という文脈が生み出すモノ
ここからは「アートトイ」をキーワードとして、『metaani』のおもしろさを考察します。
個人的な感覚としては、ここ数年でじわじわとアートトイ(フィギュアとかも含む)に対する注目度、重要性が増しているような印象です。
ちゃんと調べたわけではないので正確なところは日本語で書かれた記事しか情報ソースはないのですが、中国あたりでまず流行ってるらしいです。
そして、もうひとつアートトイに触れる上で重要かもなあと思ってるのが、現代アーティストであるKAWSや村上隆の存在です。
村上隆はそれこそNFTプロジェクトでアバターの制作・販売を行なってますね。
かつて宗教や国家などをモチーフとして権威的だった“美術”において、民主主義や大量生産大量消費といった時代の変遷も踏まえて、大衆文化をそのモチーフに組み込んだ「ポップアート」。
そこから派生し、ブランドの概念が確立することで生まれた「シュミレーショニズム」をベースとして、日本における大衆文化である漫画やアニメの記号やイメージを現代アートに引用した村上隆。
そして、ストリートカルチャーを出自として持ちながらセレブなインフルエンサーに愛され、自身の作品にはおもちゃ的(トイ)なモチーフを取り入れているKAWS。
ちなみに、KAWSは、毎年発表される現代アートシーンで重要な存在ランキングこと「ART POWER100」でも、2021年版にて29位でランクインするなど、その重要性が高くなっているクリエイターのひとりです。
https://artreview.com/artist/kaws/?year=2021
そもそも現代アートシーンに「キャラクター」というモチーフを意図的に持ち込んだのが村上隆。初期の代表作はそれこそフィギュアを作品化したものであり、あるいはデビュー当時の展覧会名が『TAKASHI, TAMIYA』だったりと、おもちゃ的なモチーフがその活動初期からも見受けられる。
つまり、彫刻作品(立体作品)とおもちゃの境界線を曖昧にするような流れが、現代アートシーンでは生まれているような印象です。
そして、2020年前後においては、バーチャル空間での表現活動が広がり始めています。
村上隆とNFTカルチャーで注目度の高いスタジオ「RTFKT」によるコラボアバターは、アバターでありながら、バーチャル時代の立体作品(彫刻作品、アートトイ、フィギュア等)でもあると感じています。
もともとリアル世界における作品形式だった立体作品(彫刻作品、アートトイ、フィギュア等)がバーチャルな空間でも成立することを実践し、そしてNFTがデジタルアイテムの価値を保証するという可能性をも示す作品になっている。
それは、アートシーンにおける立体作品と、おもちゃ的なアートトイやフィギュアと、バーチャルなアバターという3つの境界線を曖昧にし、フラットにする行為です。
そして、『metaani』も、まさにアバターでありながら、アートトイでもあり、バーチャル時代の立体作品でもあり、その実践を2021年の春頃から行なっているNFTプロジェクトです(構想自体は2019年)。
だからこそ、『metaani』は、バーチャルカルチャーや現代アートシーンの変遷を象徴するようなNFTプロジェクトのひとつであると考えています(デジタルアーティスト・BeepleのNFT作品がChristie'sのオンラインセールで落札されたことによる現代アートとNFTの接近という流れも含めて)。
そして、それは、NFTの根本的な考え方である「デジタルアイテムの価値を保証できるのではないか?」「権威を廃して、分散的に世界を構築できるのではないか?」といった思想をも反映しています。
その上で、さらに、アートトイと「キャラクター」は不可分だと考えていて、それはつまりMISOSHITAさんのクリエイターとしての個人史が『metaani』の独自性にも繋がります。
アートトイやフィギュアは、キャラクター的なモノを楽しむための媒体でもあります。
そして、『metaani』は、バーチャルな「キャラクター」でもあるVTuber・MISOSHITAさんによるプロジェクトです。
もっというと、VTuberはある種のアバター時代の先駆けのひとつとも言えます。
そして、そのVTuberカルチャーの生みの親ともいえるKizuna aiさんともコラボして、その意匠をサンプリングするという完璧なムーブ…!
MISOSHITAというクリエイターがこれまで積み上げてきたことをしっかりと『metaani』という新しい作品にも反映し更新していて、やるべきことをちゃんとやっててほんとカッコいいなと。
村上隆がアニメや漫画というジャンルを活用して日本のキャラクター文化を海外に対してプレゼン済みの現代において、その日本独自のキャラクター文化の最前線でもあるVTuberカルチャーを出自として活動するMISOSHITAさん。
アートトイやアバター文化をはじめとしてキャラクター的なモノに注目が集まる中で、自身もキャラクター(VTuber)であるというMISOSHITAさんのポジション、その二重構造は、ほかのクリエイターにない独自性です。
また、BAYCとadidasのコラボでは、BAYCの猿が3Dキャラクター化していますが、なんとなくNFTプロジェクトと「キャラクター」はすごく重要な関係性になるような気がしています。
そろそろ結論になりますが、
バーチャル云々に期待することは、やっぱりバーチャルな空間だったり3Dな作品をつくるようなクリエイターが活躍できるような新しい遊び場が生まれることで、NFTがデジタルアイテムの価値を保証する云々と喧伝するのであれば、そういった作品が評価されてほしいと思うわけです。
例えば、3DCG系のクリエイターが作った作品がSNSで何千RTされて、個展を開催すればいろんな人がその立体作品を鑑賞しにくるような、そんな世界になったら人生楽しそうだなと思います。
個人的には、こういうカッコいいデザインや独特な世界観の造形を作れるクリエイターが人気を獲得し、「3DCGクリエイターの◯◯さんがadidasとコラボ!」みたいな感じで活躍する世界を見てみたいです。
『metaani』は、MISOSHITAさんというクリエイターが積み重ねてきた作家性・個人史が、時代性にあわせてさらにアップデートされた、いまのNFTやメタバースだなんだっていう時代を象徴するようなむちゃくちゃおもしろいプロジェクトだし、Blenderへの注目度も含めて、なんなら3Dやバーチャルなクリエイターたちが活躍する世界線に突入するためのきっかけ、ひとつの新しい選択肢になってほしいなと思ってます。
ちなみに、ここまで散々あたかもバーチャルとNFTはバチバチに関係あるみたいなテンションが書いてきましたが、根本的には無関係だと考えてます。
NFTがなくたって、みんなすでにVRChatやフォートナイトでデジタルなアイテムを購入してるし(=一般的には価値がある状態)、唯一性云々いうたって複製は可能じゃんみたいなことを考えると、デジタルアイテムとNFTには根本的には関係性がなく、ってことはバーチャルとも関係ないよねってなります。
ただし、大半の人たちがただの紙である"お金"に価値を感じていたり、「俺でも書けるわw」と揶揄されながらも現代アートに高値がついたりするように、そういう新しい共同幻想的な価値付けが生まれたことはおもしろいと考えてます(そして、それは現代においては"インフルエンサー"の存在が不可欠です)。
NFTを全人類が享受するようになるかどうかは正直わからんですが、2020年代におけるブランド論(共同幻想論)として考えると、アバターにNFTを付与するのは理にかなってるし、新しい何かが生まれそうで個人的には楽しみです。