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TS-820(S改)のレストア (その3)

局部発振器の修理

 TS-820はそれまでのダブルスーパーヘテロダイン(コリンズ方式)から、シングルスーパーヘテロダインに周波数構成を変更しました。多数の周波数帯をシングルスーパーで実現するためには局部発振器をかなり工夫しなければなりません。この無線機ではPLL(位相比較ロックループ)回路を採用しています。具体的には、3つの発振器を用意します。1) VCO(電圧可変発振器)f1。 2)プリミックス用の水晶発振器 f2。 3)アナログVFO(可変周波数発振器)f3。 さらにキャリア用の水晶発振器 fcを使って、f1-f2+fc=f3となるようなPLLを構成します。したがって、局部発振器の修理と一口に言っても、どこに原因があるかを見つけるだけで大仕事になってしまうのです。

フロントパネルを外した状態

 まずはフロントパネルを外します。そして怪しいところを順番に見ていくわけです。VFOに使われている2SC460(B)も交換したいので、上下のネジを外してユニットごと取り出します。中に使われているバリコンは綺麗な状態でした。念のためにアルコールで接触部を拭いておきます。VFOはバリコンの接触不良と半導体の劣化くらいしか不安要素がないので、そのまま組み戻します。そして、PLL回路の中枢部を見ていきます。これはシールドボックスに収められていますので、本体から外して各部の電圧や波形を観察します。

PLL基板

 先ほど、f1-f2+fc=f3という式を出しました。計算上そうなってくれればいいのですが、具体的には足し算・引き算は周波数混合回路によって、等号を成立させるためには位相周波数比較器と積分回路によって実現します。まず気になったのは周波数混合回路に使われているタンタル電解コンデンサの劣化です。外して容量を測ってみたところ変な値を示しませんでしたが、念のために新品に交換しておきます。次に積分回路に使われているタンタル電解コンデンサの劣化を疑いました。こちらも問題なさそうでしたが新品に交換しておきます。この状態で積分回路の出力電圧を測ってみると、想定される出力が出てきていません。そうすると、位相周波数比較器の集積回路が疑わしいのでこれを交換することになります。ただ、古い集積回路はなかなか手に入らないので、ここが問題であるかどうかを確認するために、部品取りになっている別の無線機から外してきて付け替えることにしました。

位相周波数比較器 MC4044P

 ピンがたくさんある集積回路の半田を除去して取り外すのは神経を使いますが、なんとか交換に成功して動作させてみると無事に正常動作するようになりました。文字で書くとこれだけの話ですが、この集積回路に到達するまでレストアを始めてから2週間以上かかっています。その後、この集積回路を販売している部品店を見つけたので新品に交換しておきました。(続く)

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