内定承諾率100%の特例子会社が実践する精神・発達障害者雇用のリスク・マネジメントを公開します
企業に欲しがられる障害と、避けられがちな障害がある。
その理由は「リスク」にあった。
前回までの記事では、そんなお話をしました。
では、多くの企業が「リスクが高い」と避けている精神・発達障害者が数多く活躍するJPTでは、リスクや業務成果についてどのように考えているのでしょうか?
引き続き、成川さんに聞いていきます。
(執筆:ミッションパートナー ちひろ)
▼【精神・発達障害者雇用のリスク】インタビュー全シリーズへのリンクはこちら▼
・精神・発達障害者は就職できない? その採用リスクを人事の目線で因数分解する。
・企業が障害者社員に期待するのは、成果ではなく法定雇用率なのか?
・内定承諾率100%の特例子会社が実践する精神・発達障害者雇用のリスク・マネジメントを公開します(本記事)
・『普通のことができない』の裏にある能力を開花させよ
「避けられる採用リスク」を見極める
ー精神・発達障害者のリスクとして、「定着率が低い」「人間関係のトラブルが起きやすい」といったリスクがあると仰っていましたね。
JPTでは、そのリスクについてどのように考えているのでしょうか?
(成川)
まず、リスク因子を細かく分けます。
定着率を上げたり、人間関係のトラブルを回避するための「本人の健康状態の見通し」「人柄」「成果に結びつく能力の有無の見極め」。
それぞれのリスク対策を考えてみると、これらのリスクは努力と工夫で避けられるリスク、どうしても避けられないリスクに分けられます。
以下、JPTで実践しているリスク対策を紹介します。
・(対策1)就労移行支援事業所からの募集
現在、JPTでは就労移行支援事業所に通所している人に限って応募を受け付けています。
半年~2年程度、就労移行支援事業所に通って訓練を継続できている人であれば職業準備性が高く、障害を受け入れ、特性との付き合い方を確立しているだろう、と思っています。
また、ある程度のスキルが身についているので、すぐに業務に馴染めますし、入社後半年間は事業所の支援員さんがサポートしてくれるので、本人も会社も安心です。
・(対策2)インターンの実施
JPTでは、採用面接の前に4週間のインターン期間を設けています。
短期的ではありますが、応募者の人柄やスキル、健康状態などを知ることができます。
また応募者にとっても、入社後のイメージができやすいので、安心感に繋がります。
インターンの担当者は、僕(代表)自身です。
ここは本当にこだわっているところで、インターン中にコミュニケーションを取る相手が、入社後も直属の上司になり、それが長期的に続くという安心感が、内定承諾率や定着率にもつながっていると思います。
JPTの内定承諾率は、100%なんですよ。
採用市場で、内定承諾率が100%というのはちょっと自慢していいと思います。
ーそれはすごいですね。確かに、新卒でも中途でも、ちょっとお試しで働けたらいいのになと思ったことはあります。実際に中の人と一緒に働いてみないと会社との相性ってわからないし。
・(対策3)職場の人間関係
ー入社後の人間関係についてはどうでしょうか? 人の好き嫌いって、どうしてもあると思いますが。
(成川)
JPTでは「固定化した人間関係をつくらない」という方向で仕事をします。
まず、チームで仕事をしない。
分業をしない分、スピードが出なかったり、フルスタックエンジニア(※2)であることを求められたりしますが、基本的に1人でプロジェクトの全行程を担当します。
そして、全員がフルリモートで仕事をしていること。
物理的に距離が離れているので、他の社員ともいい距離感を保てます。
仕事へのモチベーションが下がったり、悩みが発生するのって、圧倒的に人間関係にあるんです。
サラリーマンを10年間やっていて、自分の体験からもそう思っています。
実際、入社した社員からは「就労移行支援事業所で課題を解いているときと変わらない」という声も聞かれます。
ー固定化した人間関係をつくらない。目からウロコすぎます。そんな働き方があっていいんですね。
(※2 エンジニアが携わるべき開発などの業務を一人ですべて行うことができる人材のこと。JPT社員は職種がエンジニアである場合が多い。)
お金の心配はあまりしなくていい
ーでもそれでも、リスクを健常者並みに減らせるわけではないですよね。そうなると、法定雇用率以上の人数を雇おうとする場合は、コスト回収リスクや成果を期待できないなどの経済的な壁があるのではないでしょうか。
・(対策4)助成金&セーフティーネットの調整
(成川)
障害者雇用に関しては、企業が使える助成金がたくさんあります。(※1)
JPTでは、雇入れ時の処遇を健常者も含めたITエンジニアの相場に合わせています。
これに社会保険料をプラスすると、人件費としては結構な額になりますが、最初のうちは助成金が使えるので、未経験でもリスクは少なく、長期的な健康状態を見極める時間もあります。
多くの企業に知ってもらいたいのは、たとえ定着率が低くても、お金の心配はあまりしなくていいのではないかということです。
また、欠勤や休職期間のセーフティーネット保障をあえて薄くすることで、リスクを減らせます。
そうすれば、逆に精神・発達障害者への雇用機会を広げられるというメリットがあります。
(※1 厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」より)
避けられないリスクとの付き合い方
ー努力と工夫次第で、避けられるリスクもたくさんあるということがわかりました。逆に、どうしても避けられないリスクはどんなものですか?
(成川)
やはり、長期的な心身の健康状態ですね。
薬や本人の努力でコントロールしているつもりでも、思わぬ状況で体調を崩してしまうこともある。
本人が働きたくても、会社として働いてほしくても、働けなかったらどうしようもない。
無理をして悪化してしまっては、本末転倒です。
会社として心がけていることは、なるべく早い段階で相談してもらえる雰囲気や仕組みを作ることです。
時には休んだり辞めたりしないといけないこともあるかもしれない。
けれど、それが本人の健康にとってプラスになるなら、無理をするよりもずっと良いです。
ーありがとうございます。次回はいよいよ最終回。
これまで「リスク」ばかり伺ってきましたが、逆に精神・発達障害を持つからこその強みについて聞かせてください。
→次回「『普通のことができない』の裏にある能力を開花させよ」へ続く
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