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プレカットNo.1の偉容と先進  ポラテック滋賀工場・下

前回から続く)プレカット業界No.1・ポラテック(株)の滋賀工場(ロハスフィールド)を視察し終えた3人は事務所に戻った。話題の的は、当然のように未曾有の不況をどう乗り越えるかに向かった。北大路部長の言う「国際競争力をもち〝実力〞で使えるような」国産材製品とは、具体的にいかなるものなのか。鼎談はいよいよ核心に入る。

ロシアン・ショックは7年前から織り込み済み

遠藤教授
まず、丸太輸入量が急減した「ロシアン・ショック」をどうみるか。

北大路部長
私どもは資源ナショナリズム的色彩の強いプーチン政権の外交戦略を分析し、7年前にいずれ丸太輸出禁止策を打ち出すだろうと予測していた。それが今年1月1日から輸出関税を80%にアップし実質的な禁輸措置をとる政令が出されたので、「ほら来た」と思った。世界的な不況で関税引き上げは1年間延期されたが、基本的な構図は変わっていない。

遠藤
驚いた。凄い分析力だ。どうして見通せたのか。

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北大路康信・ポラテック(株)プレカット事業部取締役事業部長

北大路
プーチン首相は3年ほど前、中露国境のマンチュウリ(満洲里)やソイフェンホー(綏芬河)を視察した際、ロシア材が安価で中国へ輸出されている光景を目の当たりにして激怒したという。この話を聞いて、かつて南洋材輸入にかかわったときの経験を思い出した。産地国は、丸太輸出量がピークに達すると、必ず丸太禁輸措置をとり、国内に合板工場や製材工場を建設する。
プーチン政権も、それに倣ったことをやろうとした。だが、2008年現在、ロシア極東に工場はほとんどできていない。住友商事のロシア合弁会社・チェルネイレスの単板・製材工場以外は全滅に近い。それに原油が1バレル当たり147ドルから40ドル以下に下落して、新たに投資する余剰金がなくなってしまった。

遠藤
いずれはロシア国内で加工された製材品が日本に輸出されるようになるのではないか。

北大路
そういう仮説は立てにくい。そもそもロシア人はモノづくりが上手くない。自動車にしても家電にしても外資を導入して対応してきた。日本が要求する精密な製材品をどこまで自国内でつくれるか。私どももエニセイスクに技術指導に行ったが、できたのはせいぜい間柱まで。柱や梁には手が届かないのが実情だ。

戦略商品は材積の多い「野縁」、ルーマニアから輸入

遠藤
では、ロシア材なき後、日本国内のマーケットはどうなっていくのか。

北大路
面白い資料がある。ロシア丸太を加工した製材品の多くは野縁、胴縁、垂木などの小割材だった。この中で、野縁(関東サイズで30mm×40mm、関西では35mm×35mm)の使用材積に注目してほしい(表参照)。一般的な33坪2階建ての家で1.8m3も使っている。土台・大引で1.2m3だから、その1.5倍にもなる。

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遠藤
その野縁が、昨年は値上がりした。

北大路
そこで弊社は、東欧ルーマニアに新たな調達ルートをつくった。H・シュバイクホッファー社に「30mm×40mmの野縁をつくらないか」と言ったら、彼らが提案してきたのがこれだ(図1参照)。同社は、対日輸出用の量産工場を2つもっている。2工場で月10万m3の丸太を消費する。その工場の一部で図の左のような横はぎ集成材(ホワイトウッド)をつくりそこから間柱をとって日本へ輸出している。これを右のようにすれば2プライの野縁ができる。これが日本の野縁市場へ大量に入って来ている。ロシアアカマツを原料にした野縁の品質がいいことはわかっているが、野縁はそれほど荷重がかかるわけではない。一番嫌われるのは、曲がりと反り。2プライ野縁でもほとんど欠点はなく、釘持ちもいいので、着実にマーケットシェアを高めている。

ウッドショックを機に、梁をスギ集成材に代替する

中村課長
滋賀県産材も含めて国産材の供給力のアップが見込まれている一方、現在の経済危機は深刻だ。国産材製品をどこに売るべきか、「出口対策」が喫緊の政策課題になっている。

北大路
1992〜93年にかけて、第1次ウッドショックがあった。当時、北米でマダラフクロウ問題が起きて連邦有林が伐採規制に踏み切り、マレーシア・サバ州で丸太輸出禁止措置が発動され、カナダでは港湾ストライキが発生して木材価格が倍以上に高騰した。それを見透かしたかのように、93年から欧州材が日本市場へ入ってきてシェアを一挙に拡大した。
私は、その後の第2次ウッドショックを2006年と捉えている。これは、産地側の事情ではなく、BRICsや中近東の需要増が背景となった、需要側から起きたウッドショックだ。今は「100年に一度」といわれる大不況の真っ最中だが、まちがいなく第3次ウッドショックがやってくる。これも需要側の変化で起きるだろう。国産材は、それに備えた戦略を考えなければ生き残れない。

遠藤
具体的に、どういうことが考えられるのか。

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図2 2階床伏図

北大路
例えば、梁(平角)をスギ集成材に置き換えることだ。柱は4プライのスギ集成管柱に代わってきているが、梁はまだまだ。そこで弊社で、2階建ての小屋組伏図にスギのヤング係数(E)55の梁を入れてみたところ、NG(強度不足)は1本も出なかった。つまり、小屋組に関しては今すぐでもスギ集成梁に代替可能だ。また、2階の床についても、〝たわみ〞により樹種・梁成が決まる一部の材を除いて、スギ集成材で代替できることがわかった(図2参照)。

プレカット工場が使用樹種を提案、不況はウェルカム

中村
木造軸組工法に占めるプレカット材の割合は8割を超えており、プレカット工場が木材流通の中心となっていることは言うまでもない。そのプレカット最大手のポラテックから、スギの利用拡大策が語られることには、非常に心強いものがある。

北大路
これからのプレカット工場は、お客さんから図面を預かり、ここはスギ、ここはアカマツ、ここにはLVL、だからオーバークオリティ(過剰性能)にはならず、コストも削減できますと提案していくようになる。そうした提案ビジネスの中で、国産材のシェアを高めていくことが、現実的な需要拡大戦略になる。

遠藤
最後に、今回の大不況をどう乗り越えるか、企業姿勢を聞きたい。

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国際競争でも生き残れる国産材のあり方を考える
(左端は、中村喜一・滋賀県琵琶湖環境部森林政策課長)

北大路
今、景気が悪いのは、米国もそうだが、欧州がメチャメチャに悪い。中近東や北アフリカが需要激減で欧州材の行き場がない。したがって、日本市場を標的にして攻勢をかけてくるだろうから、国産材は厳しい状況を強いられる。決して甘く見てはいけない。弊社は、2004年にテクノフィールド(板東工場)をつくったときから、早晩、必ず消費税が導入されて不況になる。そのとき、どうやったら戦えるかを想定し、さまざまなコストカット対策を打ってきた。その不況が少し早くやってきただけ。だから、弊社にとっては、今回の不況はウェルカムだ。事実、工場は稼働ペースを上げ、利益も出ている。

(『林政ニュース』第360号(2009(平成21)年3月11日発行)より)


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