【日本の胃袋を支える】卸売市場の大切な4つの機能
最近は産直が流行りですが、実は今でも卸売市場は国産青果物の8割を扱っています。
しかし、卸売市場は黒子のような存在なので、その凄さは全然知られていません。
今回は日本の青果流通の中心となっている卸売市場が持っている他では代替が難しい4つの機能について紹介します。
先にまとめを載せます。
よく知らないけど生活と深く関わっている卸売市場
ついこの間まで八百屋で働いていたのですが、そこで働き始める前は市場のことを全くわかっておらず、「なんとなく」市場は非効率だと考えていました(市場については今でも勉強中です。。)
市場の仕組みって外からは分かりにくいのです。
本などの文献も少ないし仕事で市場に関わる人も限られていますし、プライベートで触れる機会もありません。
当の私も学生時代、農業系の専攻でしたが市場の仕組みについて触れる機会はありませんでした。(もしくは綺麗さっぱり忘れました。)
でも、私たちが普段、当たり前に近くのお店で日本全国、世界各国から集まった野菜や果物を買えるというのは、よくよく考えればすごいことで、それを支えているのが卸売市場です。
現在でも、国産青果物の8割は卸売市場を経由しており、世間のイメージとは対照的に?卸売市場は私たちの食生活にはなくてはならない存在です。
そんな日本の食を支える卸売市場には4つの大切な機能があります。
これらの機能が備わっていることが、安定した食料供給という点でとても重要なのです。
(1)集荷分化機能
まず集荷分荷機能。国内外から必要なものを集めて、それを欲しい人たちの要望に合わせて効率的に分けて配る機能です。
多様な要望に応える品揃えを支える
市場から野菜や果物を買うのは誰でしょうか?
小売店、飲食店、一般の消費者も買うことがあります。
例えば、一口に小売店と言っても高級志向なお店から安さを売りにするお店、果物にはこだわりが強いお店、大きいお店、小さいお店など多種多様です。
書き連ねると無限に出てきそうですが、小売店同様、飲食店や一般消費者にもそれぞれの消費スタイルや志向があります。
そういった多種多様な需要に応えるためには、当然、多種多様な品揃えが必要です。
珍しい食材だと「都会にはないから、地方の直売所に行くかネットで探さなければ手に入らない」という印象があるかと思います。
しかし、卸売市場は300種類を超える品目を扱っていると言われており、総数では圧倒的な種類の青果が市場を介して流通しています。
都会で珍しい野菜や果物を見つけることは実は可能なのです。
私がいた青果店でもお客様からよく「ここには珍しいものがある」と言っていただけていました。
そのような商品の中には、産直の商品もありますが、市場で仕入れた商品もたくさんあります。
一例として、
ロマネスコ、壬生菜(みぶな)、マロンなアップル(りんご)、有機栽培の玉ねぎ
などは全て市場で手に入ります。
一方、大きなスーパーなどのナショナルチェーンは卸売市場以外にも自前の集配センターも使います。しかし、より多くの人が欲しがる商品を扱う中で、少数の人しか買わないような希少な商品を扱うのは難しいです。
そういった、よく利用されるスーパーなどに珍しい商品がないことが「珍しいものは都会にはない」という印象を与えているのかもしれません。
(もちろん、スーパーは必要なものがいつでもある、野菜や果物以外にも幅広い食料品や生活雑貨が揃うという利点もあるので、どちらが良いとか悪いとか単純に比べるものではありませんし、特に地方のスーパーの産直コーナーでは珍しい商品もたくさんあります。)
また、流通に不向きだったり、収量が安定しない、市場流通で使われる規格(見た目や大きさ等)などでは評価がされづらいなどの理由で市場流通しないものもやはり一定数は存在します。
とはいえ、それを踏まえても卸売市場の品目数は圧倒的ですし、300種類を超える品目が、それら個々の規格も加味するとその種類は5倍にはなると思います。
規格は通常、秀・優・良という品質(見た目)に対しての評価と、L・M・Sという大きさ又は重さに対しての評価が組み合わさって「秀L」「優S」のような表現をされます。
青果の種類によっては、Lより大きい2Lや、糖度センサーを使って一定の糖度をクリアしたかという基準、秀品でも赤秀・青秀・緑秀・黒秀などもっと細かい規格もあります。
(過去にスイカで「11L」というのを見たことがあります。どこまであんねん。)
さらに同じ品目でも産地によって値段や品質が違ったりするので、買い手からするとそのようなの違いも1つの基準になります。このように卸売市場で青果を選ぶ場合、その選択肢はかなり広がります。
そして、このような多様な規格があるからこそ、お店による特色を出せる、つまりお客様の多様なニーズに応えられるのです。
効率的な配送
多種多様な野菜や果物を効率的に集め、必要な人たちの元へ届けるというのが卸売市場の重要な役割です。
まず集めることに関して、そもそも市場は農家さんなどの出荷者が出荷しやすい場所にある市場と、消費者にとって近い市場の2つに分けることができます。
産地に近い市場があることで、出荷者は時間やお金をかけずに出荷ができますし、より多くの作物が一箇所に集まるので配送にかかる手間やコストも減らせます。
また、全量取引という原則があるので、出荷者は売り先の心配をせずに生産に集中することができ、より効率的な生産ができます。
小規模農家さんの場合は自らマーケティング活動を行なってより作物を高く評価してくれるところに売るというやり方もありますが、一方で、特定の品目の一大産地の場合は、作物の生産性や単価(秀品率)を上げ、できた大量の作物を市場や農協などの販売先を見つけてくれる場所に売るというやり方も効率的だと言えます。
(例外として出荷調整なども稀にあるので全てではありませんが)
届けることに関しては、先ほど書いた多様なニーズに対応した品揃えを確保する点とセットで、集めたものをできるだけ安価で届けられるという点があります。
このプロセスが非効率という声が最近はありますが、実はそんなことはなく、市場に複数のプレーヤーがいる場合、卸売業者の介在により取引総数が減少することは「取引総数最小化の原理」でも証明されています。
取引総数が減少するということは青果流通であれば、交渉・事務・輸送にかかる費用、そしてそれぞれにかかる人件費を削減できるということです。
私自身も青果店で農家さんと直接野菜や果物の取引をすることがありましたが、連絡を取ってから値段や買う量を決め、支払い情報や期日の確認をしたり、リスクに備えた対応を考えたり、それらの情報をまとめたりと、これが全ての品目で必要だったら手間もかかりますし、情報の管理も大変になります。
それでいて送料も含めた仕入値を考えると市場で仕入れるよりも確実に高くつきます。
(それでも直接取引を行うのは、農家さんの想いを伝えられたり、最高に美味しかったりと、農家さんと私たち双方にメリットがあるからです。)
不測時のプロの対応
多様な種類の品目を、効率的に集めて届けることができる卸売市場ですが、その環境変化がとても激しいのが農業です。
天候により出来不出来が左右される農業において豊作や不作は毎年起きます。
豊作時は、卸売市場の自己判断での倉庫保管、出荷に制限をかける出荷調整や、小売業者にセールを持ちかけ、通常より取引量を増やして安く販売するという方法もあります。
天候により影響が起きるのはもちろん供給だけではなく、需要も日によって大きく変わります。
一般消費者相手なら、どの産業でもそういったことはあるかと思われますが、卸売市場では、上記のような消費者の心の変化を予測した対応も求められます。
この辺りは消費者と直接やり取りをする小売業者もよく考えていることなので、小売業者は大量に買って安くしてもらったり、あえて買い控えをしたりと仕入れ業者と卸売業者が協力をすることで調整をしています。
(2)価格形成機能
価格形成機能とは、需要と供給を反映した公正な価格を形成する機能です。
卸売市場では日々の取引結果を公表し透明性の高い価格形成を行なっています。
取引は相対(あいたい)や競りで行われ、該当する商品に対しての買い手のつけた最も高い値段がその日の価格となることで、日によって変わる需給を反映した価格を迅速に決定することができます。
ちなみに相対取り引きとは、売り手(市場の担当者)と買い手(仕入れ業者)が直接やりとりをして値段を決める方法のことです。
安定した手数料
卸売業者は小売業者や仲卸業者などへの委託販売手数料が収入源となります。平成21年に固定だった手数料率(野菜は8.5%、果物は7.0%)が自由化され、各卸売市場により、自由に手数料を取ることができるようになりましたが、現状のところは、依然として固定化されていた頃と同じ販売手数料率を採用しているケースが多いです。
例えば、農家Aさんから出荷された野菜を卸売業者Bが小売業者や仲卸業者に販売し100万円の売上があったとすると、
100万円×8.5%=¥85,000
となり、¥85,000が委託販売手数料として卸売業者Bに入り、残りの¥915,000を農家Aさんが受け取ります。
市況によって青果自体の価格は左右されるものの、自由化後もここまで安定しているということは、手数料の安定が出荷者にとっても卸売業者にとっても、経営という意味ではそれなりにメリットがあるからだと思われます。
そしてそれは安定して青果が消費者の元へと流通するという意味でもあります。
(実際に、手数料が固定化された1958年以前は、十分な荷を確保するために委託手数料率を引き下げる卸売業者も存在し、それにより経営状況が悪化するケースもあったそうです。)
目利きの力
卸売市場は取引結果を毎日公表することで公正な価格をつけるようにしています。
そして、この価格形成の透明性の高さが他所での信頼にも繋がっているので、直売所やインターネットなどでも卸売市場での価格が基準として扱われるのです。
市況によって私たち一般消費者が野菜や果物の値段を「高い」と思うことはあっても、決してぼったくられていると感じないのは、自然と卸売市場で決まった価格に対して納得感を持っているからだと言えます。
そして、価格の形成には市場の担当者の目利き力が存分に発揮されます。
彼らは1つの種類の野菜や果物を毎日、数年から数十年にかけて見続けているので、毎日料理をする主婦の方も含めた一般消費者よりも高い価値判断能力を持っています。
単純に商品が良い悪いだけではなく、産地や等階級ごとの特徴、また同じ産地でも出始めや出盛りの時期での品質の違い、天候による価格への影響なども考慮した上で、公正な判断をすることができます。
また、一般消費者のように特定の品目が絶対に欲しいということではなく、あくまで「円滑な取引」をすることが卸売市場には求められるので、どの品目に対しても贔屓目なしで公平な判断ができるという特徴もあります。
情報開示による信ぴょう性の担保
もし、卸売市場で形成されるような信頼性の高い公正な価格の公開がないと、小売業者が独自で値決めをするか、一般消費者が店と都度、値決め交渉をする必要が出てきます。
これでは安心して買い物をすることができず、スムーズな取引にも支障が出るので結果としてそのコストが商品価格に反映されることもあるかもしれません。
私たちが普段、「この野菜はこれくらいの値段だよね」と納得して思うことができるのはこの情報開示があってこそです。
(3)代金決済機能
代金決済機能とは、売買取引された商品の代金を出荷者(生産者など)へ、一定期間で確実に支払う機能です。
この機能により出荷者は通常、3日ほどで販売代金を回収できます。
売った分のお金ができるだけタイムリーに入ってくるというのは出荷者にとっては安定した経営を行う上でとても大切なことです。
このことを理解しているナショナルチェーンなどの自社で物流センターを抱える小売企業でも代金決済期間は短縮化している傾向があるようです。
3日以内の現金化
青果は腐るものなので商品価値を保てる期間がとても短いです。ですので仮に決済期間を長くし売掛金を増やした場合、1ヶ月後に「やっぱり返品をします」というのはできません。
逆に言えば小売店は仕入れた3日後には引き落としが行われるので現金商売であることの重要性を強く感じます。
支払い能力の見極め
青果の場合、売買に参加するためには特定の条件をクリアする必要があります。
また、団体保証制度というものもあり、仲卸業者間で中小企業等協同組合法に基づく組合を作り、仮に競売に参加した仲卸業者が支払いを行えない場合は、その業者の所属している組合が卸売会社へ代金の支払いを保証する制度です。
これらの条件や制度があることで卸売市場内の秩序を保ち、出荷者にとって安心して出荷できる場所として機能することができます。
(4)情報受発信機能
取引に関する情報や卸売価格の即日公表をすることにより、出荷者から小売業者まで幅広い人にとって必要な情報を提供しています。
価格の公表など発信する情報の内容は先ほど紹介したので詳細は割愛しますが、この情報の透明性が卸売市場の公平で円滑な取引を支えており、トレーサビリティなどサプライチェーンの透明性に関する言葉が登場する以前から卸売市場はその重要性を認識していました。
最後に
以上のように卸売市場には4つの機能があります。
これらの機能があることで、公平で円滑な青果の流通が成り立っており、その結果として現在でも国産青果流通の大部分を市場流通が担っているのはデータでも明らかです。
日本の卸売市場の仕組みは海外ではほとんど例がなく「日本型」とも言われるようですが、それは日本が時代遅れということではなく、外国との農業のスタイルや食習慣などの文化の違いからくるものだと思っています。
そのあたりの海外と日本の青果流通の違いみたいなものについても今度まとめてみようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考:
・〝適者生存〟戦略をどう実行するか: 卸売市場の〝これから〟を考える
・市場流通2025年ビジョン―国民生活の向上と農水産業の発展のために