成年年齢引下げが JFCの日本国籍取得に及ぼす影響についての意見書を発表しました
エミリーさんの事例
2021年5月、フィリピンのミンダナオ島ダバオに住む18歳のエミリーさん(仮名)から相談がありました。エミリーさんは日本人の父親とフィリピン人の母親から生まれたJFC(Japanese Filipino Children)です。彼女の希望は、父親から認知してもらい、日本国籍を取得することでした。
日本の国籍法において、日本国籍を取得するには、本人が成人になるまでに父親から認知を得て、国籍取得の申請を届け出る必要があります。しかし、民法の改正により、2022年4月1日に成人年齢が20歳から18歳に引き下られたため、日本国籍を持たないJFCが国籍を取得できる猶予も短くなってしまいました。
エミリーさんの場合、裁判などを経て、初めて相談を受けてから約1年後の2022年7月に認知が成立しました。しかし、エミリーさんは19歳になっていたため、従来なら十分に間に合う可能性があった日本国籍の取得は、法改正によって叶いませんでした。「父親から認知されたのは嬉しいが、日本国籍を取得することができない…」エミリーさんは落胆していました。
JFCネットワークでは、16-18歳のJFC本人からの相談を数多く受けています。日本国籍を取得するまでには、父親から認知を受けるにはほとんどの場合で裁判が必要となり、2-3年程度の期間を要するケースもあります。そのため、この2年間の猶予の短縮は、そのJFC達が日本国籍を取得する可能性を大きく狭めてしまっています。
今回の法改正が子どもたちの日本人であるというアイデンティティの損失、また国外にいるJFCにとっては来日の機会の損失につながる可能性があります。その事実の多くの方に知ってもらうため、私たちは声明文を発表しました。
意見書の発表とメディアでの配信
特定非営利活動法人JFCネットワークでは、2022年10月1日に「成年年齢引下げが JFCの日本国籍取得に及ぼす影響についての意見書」を公表しました。
2022 年4月1日、成年年齢の引下げ等を内容とする「民法の一部を改正する法律」(平成 30 年法律第 59 号)が施行され、成年年齢が 20 歳から18 歳に引き下げられました。
これに伴い、国籍法も一部改正され、認知された子が届出により国籍を取得することができる年齢及び国籍を喪失した子が再取得することができる年齢が20 歳未満から 18 歳未満(国籍法 3 条1項)に引き下げられました(国籍法3条1項、同17 条1項)。また、複数国籍者の国籍選択も原則として「22 歳に達するまで」から「20 歳に達するまで」に引き下げられました(国籍法 14 条1項)。
JFC ネットワークでは、日本人とフィリピン人の間に生まれた子ども(Japanese-Filipino Children: JFC)につき法的側面を中心に支援を行ってきているところ、今般の国籍法の改正は、JFC に大きな影響を及ぼしているため「意見書」としてまとめました。
共同通信から取材を受け、新聞にも取り上げられました。
北海道新聞「子どもの日本国籍取得に“壁” 18歳成人で、懸念の声」2022年10月22日
信濃毎日新聞「子どもの日本国籍取得に“壁” 18歳成人で、懸念の声」2022年10月22日
意見書
成年年齢引下げがJFC1の日本国籍取得に及ぼす影響についての意見書
2022年10月1日
特定非営利活動法人JFCネットワーク
1 成年年齢引下げに伴う国籍法の改正
2022年4月1日、成年年齢の引下げ等を内容とする「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号)が施行され、成年年齢が20歳から 18歳に引き下げられた。これに伴い、国籍法も一部改正され、認知された子が届出により国籍を取得することができる年齢及び国籍を喪失した子が再取得することができる年齢が 20歳未満から18歳未満(国籍法3条 1項)に引き下げられた(国籍法 3条 1項、同 17条1項)。また、複数国籍者の国籍選択も原則として「22歳に達するまで」から「20歳に達するまで」に引き下げられた(国籍法14条1項)。
2 国籍法改正が与える影響
JFCネットワークでは、日本人とフィリピン人の間に生まれた子ども(Japanese-FilipinoChildren:JFC)につき法的側面を中心に支援を行ってきているところ、今般の国籍法の改正は、以下のとおり、JFCに大きな影響がある。
1994年から2021年12月末までにJFCネットワークが支援して国籍法17条1項および国籍法3条1 項による日本国籍を取得したJFCの総数は 433人であるが、そのうち国籍取得時に18歳以上であったものは、131人(30.25%)%である。
また、JFCネットワークが裁判所における認知請求を支援した316件中、認知の判決や審判の確定時に18歳以上であったのは107件、33.9%であった。JFCネットワークにおけるケースの受理から認知する判決の確定までの所要年数は平均 3.4年と長いものであり、JFCが15歳の時にケースを受理してもそのおよそ半数は認知の取得が 18歳に間に合わないことになる。実際、認知の判決や審判の確定時に 18歳以上 20歳未満であったのは54件(17.1%)あり、法改正後はこれらの者は日本国籍を取得できないことになる。(JFCネットワーク「2021年度活動報告書」より)
このとおり、成年年齢に近くなってから認知を求めるケースが多い理由は、母親がその考え(母親は養育放棄をした日本人の父親とは拘わりたくないと考えているなど)や知識や情報の欠如(日本における法律上の親子関係の成立や国籍取得の要件、支援団体についての情報など)から子の認知について積極的に行動しない場合、子は、一定程度の年齢になるまで、自身の考えや行動で認知を求めることができないことにある。
このことに鑑みると、今般の国籍法改正により、少なからぬ JFCが認知後の届出による国籍取得の機会を失うことになる。また、日本国外に住む JFCにとっては、仮に法律上の親子関係が認められても、日本で保証人となる人物がいない場合は日本人の配偶者等の査証の取得が困難であることから、来日機会の喪失にも繋がる。
3 意見
(1)国籍法に関する成年年齢の引下げの見直し
成年年齢が 18歳に引き下げられても、飲酒・喫煙可能年齢や養親となれる年齢など、その年齢が引き下げられていないものもあることに鑑みれば、国籍法に関する成年年齢引下げも必然的に求められるものではなかった。また、国籍は「我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位」(平成20年6月4日最高裁大法廷判決)であるところ、今般の引き下げは、日本国籍者となりうる範囲を変更することを意味するから、その重大性にも鑑み、慎重な検討が行われるべきであった。それにもかかわらず、国籍法に関する成年年齢引下げは、国会審議の経過を見ても十分な検討なく行われたと言わざるを得ず、その妥当性には重大な疑問がある。さらに、認知による国籍取得については経過措置が設けられているものの、国籍取得の届出の年齢に関するもののみで、その前提となる認知は18歳までに成立していることが求められており、実務的にはほとんど意味がない。
(2)帰化要件の緩和等
また、日本国籍を喪失した者や認知により日本人の父親と法律上の親子関係が成立した子であって、年齢制限により届出による国籍取得が不可能になった者が日本国籍の取得をしようとすれば、帰化によるほかない。もっとも、帰化については、日本人の子であっても住所要件や日本語要件は課されることから、日本に居住していない場合の帰化は、極めて困難である。しかしながら、日本の国籍法が血統主義を採用し、その結果として、出生地や居住地、日本語能力を問わずして日本人の子であることに基づき出生による国籍取得を認めていることからすれば、日本人の子であることが法的に確定していながらなお日本国籍の取得を認めないというのは均衡を欠く。したがって、上記見直しがなされないのであれば、今般、成年年齢の引き下げにより、従前であれば国籍再取得や認知による国籍取得が可能であった日本人の子の一定割合がこれを不可能とされたことの救済措置として、住所要件や日本語要件など法律上、実務上の帰化要件の緩和を検討するべきである。また、帰化は自由裁量とされているが、少なくともこの場合の帰化については、従前は届出による国籍取得や再取得が可能であった者の救済措置であることに鑑み、自由裁量でなく、権利帰化、または裁量の範囲を限定することが相当である。以上に鑑み、JFCネットワークは、今般の国籍法に関する成人年齢の引き下げを見直し、及び、日本人の子である場合の帰化要件の緩和等の検討を求める。
以上
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