国籍法3条3項の新設に反対する意見書を発表しました
トオルさん(仮名)の事例
以前、「国籍とはなんだろう」の記事でトオルさんの事例をご紹介しました。
彼は日本人の父から認知をされ、日本国籍を取得しました。しかし、父から認知は無効だと裁判を起こされ、彼はその人の子ではなくなりました。同時に日本人の子ではなくなったので、彼の日本国籍まで奪われました。その結果、日本の国からは「フィリピン国籍者」だとされ、オーバーステイとなってしまいました。
国籍法3条3項とは
前期の国会では、民法等改正問題については、いわゆる離婚後300日問題への対応等にスポットライトが当てられています。「民法等」という表題から明らかなとおり関連法の改正も含まれていて、その中に、国籍法3条3項の新設という改正が入っています。
今回の改正では「認知」について無効主張に一定の歯止めをかけて当事者(子)の身分の早期安定を図っている一方(改正案の民法786条)、日本人父等による認知に伴って国籍法3条に基づいて取得するor取得した日本国籍については、わざわざ国籍法3条に3項を設けて、認知の反対事実(日本人父等との血縁を否定する事実)が判明した場合には無期限に日本国籍を否定する(一度取得している場合でも遡及的に”剥奪”する)ことが明文化されようとしています。
(法案はこちら)
国籍法3条3項の問題点
主な問題点として、以下3点があげられます。
(1) 無国籍者の発生
(2) 非正規滞在外国人となり強制送還の危険が生じる
(3) 婚内子と比べて不平等
(1) 無国籍者の発生
いったん取得した日本国籍を遡って喪失させると、場合によってはその子どもが無国籍になってしまうことがあります。
たとえば、子の母が無国籍であったり、母が知れない場合、あるいは母の本国法が母の国籍を子に承継させない制度である場合には、日本国籍を失った子は無国籍となってしまう可能性があります。
または、子が認知により日本国籍を取得したことによって、母の本国法に基づき元の国籍を喪失していたり、二重国籍の成人した子が母の国籍を放棄し、日本の国籍法に従い日本国籍を選択した後に、認知無効とされ日本国籍を失えば、無国籍となってしまう可能性があります。
(2) 非正規滞在外国人となり強制送還の危険が生じる
日本国籍を喪失したことにより、非正規滞在外国人と扱われ、退去強制手続きを課せられる可能性があります。以前紹介したトオルさんも日本国籍を失った上、外国籍の不法滞在者となってしまいました。
(3) 婚内子と比べて不平等
子の母が外国籍で父が日本国籍の場合、両親の婚姻後に子が出生すると、子は出生と同時に日本国籍を取得します。父が仮にその子を自分の子どもではないと訴えたい場合には出生後3年以内であればその訴え(嫡出否認の訴)が可能です。3年の経過後は父との血縁関係がないことを理由に日本国籍を失うことはありません。
一方、婚外子の場合は、期間の制限なく無制限に認知が事実に反すると判明した場合、子どもは遡って日本国籍を喪失します。このように婚内子との比較の上でも不均衡が生じています。
国会やメディアでの配信
11月8日(火)の衆議院法務委員会では、立憲民主党推薦の参考人として、近藤博徳弁護士(当法人理事)が、意見陳述に立ちました。近藤弁護士は、トオルさんの事例も踏まえ、突然日本国籍がなくなることにより生活基盤が不安定になること、また無国籍になってしまうリスクを子どもの立場から意見陳述しました。
当日の様子は以下のサイトからも視聴することができます。
今回の法改正に関しては、UNHCRからも提言が出ています。
れいわ新選組からも民法の一部を改正する法律案に反対する声明が出ています。
共同通信から取材を受け、新聞記事にもなりました。
意見書と今後のJFCネットワークの活動
JFCネットワークでは、今回の法改正に反対する意見書を発表しました。
「日本国籍取得を目的とした偽装認知」と聞けば、いかにも悪質な例を想像するかもしれません。しかし、実際には認知が事実に反する事案には、さまざまなケースがあり、すべてを一緒くたにして日本国籍を喪失させることに正当性があるとは思えません。
大切な視点は、子どもは偽装認知をした当事者ではなく、偽装された側だと考えます。子どもには「偽装」行為に責任はないにもかかわらず、子どもがこうした不利益を受けることに正当な理由はないはずです。
国籍法3条3項の新設は国会で成立してしまいました。しかし、JFCネットワークでは今後も当事者からの相談に応じ、子どもの立場に立って、この法案へ反対するための配信を続けていきます。
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