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最強でんでんレビュー クソ広告界のAAAタイトルの実力はいかに
一部ネット上で話題のスマホゲーム「最強でんでん」が、6月8日にリリースされました。
この記事では、色々な意味で話題になった最強でんでんを実際にプレイし、ゲームの特徴や優れたポイントを解説します。
クソ広告界のAAAタイトルが日本上陸
2022年5月ごろ、あるゲームの広告がYouTube・Twitter上に大量に配信された。
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— 最強でんでん【公式】🐌✨ (@MARVELOUS_SNAIL) June 7, 2022
「2022最新ジャンル」などの文言や、ゲーム画面が一切表示されないことからも、よくある「クソ広告」に見える動画広告を大量に展開したのが「最強でんでん」だ。なお、実際のゲームに広告のようなレース要素は一切なく、同じ画像データを使用している以外には、広告とゲームの内容に関連性はない。
「クソ広告」の定義は人によって様々だろうが、「嘘」であることはクソ度を高める要因だろう。
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TwitterやYouTubeは、クソ広告あるある要素を取り入れた様々なバリエーションの最強でんでんに埋め尽くされた。もちろん、最強でんでんにはアクション要素はないし、変身アイドルも出てこないし、オートチェス要素もない。
最強でんでんがほかのクソ広告と違ったのは、圧倒的な物量だ。通常、この種の広告はインストール率や売り上げなどの広告効果を測定しながら、費用対効果に見合うものが選択されていく。ゲーム自体が優れていれば広告効果も高まりやすいため、広告は増加することになる。著名なクソ広告タイトルはほとんどがヒットタイトルで、優れた販売実績を持っている。リリース前にこれほどの物量が投下されるのは異例のことだ。
さらに最強でんでんは交通広告やビジョン広告など、多くの媒体に出稿。クソ広告ウォッチ界隈は一時騒然となった。最強でんでんはまさに「クソ広告界のAAAタイトル」とも言うべき存在だ。なお、交通広告に「クスっと笑えて、ポロっと泣ける」というキャッチコピーが入っているが、ゲームに泣ける要素は一切ない。
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— 最強でんでん【公式】🐌✨ (@MARVELOUS_SNAIL) June 13, 2022
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挙句、リリース時には利用規約の不備により「個人情報が抜かれる」と炎上(実際には問題になるような個人情報は取得されていない)。このように色々な意味で話題沸騰のタイトルが最強でんでんだ。筆者も早速プレイしてみたため、リリースから約10日経過した段階での評価を行ってみたい。
そもそも放置系RPGって何?
最強でんでんは「放置系RPG」に属するタイトルだ。
放置系RPGの代表的なタイトルには「放置少女」「魔剣伝説」などがあり、国産タイトルには放置少女とほぼ同じシステムを用いた「乃木坂的フラクタル」(アイドルグループ「乃木坂46」の公式ゲーム)がある。
放置系RPGは熱心なゲーマーには縁遠いジャンルで、放置少女や魔剣伝説の存在を知らなかったという方も居るかもしれないが、どちらも年間数十億円の売り上げを誇るタイトルで、特に放置少女は深田恭子や橋本環奈などの著名タレントを起用したテレビCMを展開するなど、幅広い層への浸透を狙った大ヒットタイトルだ。
細かなシステムはタイトルによって異なるが、共通する最大の特徴は「放置」によってキャラクターの育成を行うことで、従来のスマホRPGによくある「スタミナ」を消費してバトルを行い、経験値や資源などを稼ぐプレイが放置(何もしないこと)に置き換わっている。
プレイヤーはクエストを指定する。そうするとキャラクターは勝手にクエストでバトルを行う。あとはバトル時間に比例して報酬が獲得できるので、しばらくしてからログインして報酬を回収すればよい。ただし、報酬を蓄積できる時間には24時間などの上限があるため、1日1回程度はログインしなければならない。
ゲームを進行させるには、ボスに手動で挑戦する必要がある。ボスに挑戦するためのボタンを押すとボスとの戦闘が始まり、戦闘に勝利すればゲームが進行して上位のクエストを行えるようになる。ボスとの戦闘と言っても、戦闘自体は見てるだけで何の操作もできない。また、敗北してもペナルティはない。
放置 → 報酬の獲得 → キャラクターやパーティの育成 → ボスの撃破
を繰りかえすのが放置系RPGの基本構造で、この構造に追加の報酬が貰えるミッションや、ガチャ、イベントなどが組み合わされる。やや露悪的な表現をすれば「ただ数字が上がってくだけのゲーム」だ。
もともと、携帯電話・スマートフォンのRPGは単純作業を繰り返して数字を上げる要素の強いジャンルだったが、単純作業を劇的に簡略化するシステムとしてバトルの「スキップ」機能が誕生した。このスキップ機能が根幹のタイトルがSoul ClashやHeroes Chargeで、国内ではプリンセスコネクト!Re:Diveが広く知られている。
放置系RPGはスキップすらなくし、究極的に簡略化したRPGのサブジャンルと言えるだろう。
最強でんでんはどういうゲームなのか
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最強でんでんも放置系RPGの特徴を踏襲しているが、「放置」はやや複雑になっている。放置は「探索」と呼ばれており、プレイヤーがキャラクター(でんでんむし)を派遣する国を指定すると、キャラクターは国の探索を行う。
探索時間に応じて報酬を獲得できるが、最強でんでんではさらに「情報ポイント」が加わる。プレイヤーは情報ポイントを消費することで、探索を有利にしたり、探索可能な範囲(エリア)を拡張することができる。各エリアを一定時間探索すると挑戦可能になるボスを全エリア撃破すればつぎの国を探索できるようになる。
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戦闘自体は極めてシンプルで、でんでんむしと敵がダメージを与え合うのを眺めるだけ。おおむね数字が大きければ勝つ。
キャラクターのパラメータは主に以下の3つ要素によって決まる。
・進化:主に報酬で獲得できる「細胞」や、ガチャや報酬で獲得できる「器官」を消費して、キャラクターの戦闘用パラメータや教養パラメータを永続的に上げたり、能力を獲得したりする
・装備:ガチャや報酬で獲得できる「装備」を装備する。複数の装備を合成して、上位の装備にすることもできる
・貴重品:ガチャや報酬で獲得できる「貴重品」を所有することで、教養パラメータが加算される。また、所有しているだけで得られるボーナス効果や、特定のスロットに装着することで得られるボーナスもある
教養パラメータは各ボスごとに定められている要求値を満たすことで追加攻撃を行うことができるなど、戦闘に大きな役割を果たすほか、進化する際の条件としても参照される。
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最強でんでんは「探索から得た報酬やガチャによって、戦闘用のパラメータや教養を高め、探索を進めたり、ボスを撃破するゲーム」と大まかにまとめることができるだろう。
達成意欲と射幸心の持続的な刺激
このような単純なゲームを面白く感じさせるため、最強でんでんは大小様々な工夫をゲーム内に散りばめている。多くの工夫に一貫して見られる意図が、プレイヤーの達成意欲と射幸心を刺激することだ。
最強でんでんでは、探索をはじめとするゲーム内の行為によって様々な報酬を獲得できるが、この報酬は資源やアイテムを直接渡されるのではなく、宝箱を経由して渡されることが多い。この「宝箱」は宝箱の欠片のようなもので、一定個数集めると開封して資源やアイテムを獲得できる。
このとき、獲得できる資源の量にはバラツキがあるし、ごく稀に希少度の高い強力なアイテム(ガチャの「大当たり」に該当するようなアイテム)が排出される。
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従来のスマホRPGや放置系RPGであれば単に少量の資源を渡していたであろう場面でも、宝箱の欠片を経由することによって宝箱の欠片を集める達成意欲と、開封時の射幸心を余分に煽ることができる。
達成意欲を刺激するシステムはこれだけではなく、ゲーム内のあらゆる行動に対して、行った回数に紐づいたアチーブメント報酬が設定されている。
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達成意欲の持続的な刺激は探索システムにも見られる。スマホRPGにおいてプレイヤーが離脱しやすいポイントに、キャラクターの成長が鈍化し敵に勝てなくなるタイミングがあるが、これは達成意欲が阻害されるためだ。ボスに勝てずゲームが進まない、つぎにキャラクターが強くなるには数日間狩りをし続けるか、ガチャを回すしかない…このような経験に覚えがある人も多いかもしれない。
最強でんでんでは、キャラクターが成長しなくなったとしても、探索によって得られる情報ポイントによってゲームが進行している感覚が生じるため、ボスに勝てない期間もプレイの意欲が失われにくい。情報ポイントから得られるスキルによって探索している国でのバトルを有利にできるため、実際にゲームを進行させることもできる。
コンセプトを支える工夫
最強でんでんが優れているのは、達成意欲と射幸心の刺激という設計意図に対して、多くの要素を従属させている点だ。
最強でんでんの世界観・ストーリーは「令和のネタゲー」などのキャッチコピーにも表れているように、ギャグ要素をふんだんに盛り込んだカジュアルな(不真面目な)もので、現実世界のパロディやトリビアが頻繁に登場する。このような世界観は細かなマイルストーンと相性が良い。
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細かなマイルストーンそれぞれに意義を持たせるには多くのアイテムやキャラクターが必要になるし、ストーリーも小まめに完結する方が望ましい。重厚長大なストーリーは小回りが利かないため、意義づけが大きな単位になってしまいやすい。
少し見るだけで興味を惹いたり、話題にできるような細かな要素を大量に用意するとき「くだらないゲームですよ」という体のカジュアルな世界観は有利に働くし、現実世界モチーフも量産化の強力な手法だ。
この対極にある放置系RPGが乃木坂的フラクタルで、実在のアイドルを起用しているため半端なクリエイティブや雑なパロディは絶対に許されない。そのため、マイルストーンを達成したときの報酬も無味乾燥な資源が多くなってしまう。アイドルの特典映像やインタビューなどは簡単に収録できるものではないため、ゲーム内でも頻繁には配布できない。
戦闘システムも、小まめなマイルストーンに適している。最強でんでんのダメージ計算式は極めてシンプルで「攻撃力 - 防御力 = ダメージ」これだけだ。
このような計算式は、例えば敵の防御力が950のとき、自分の攻撃力が1000から10%増加して1100になっただけでダメージが3倍(50 → 150)になるなど極端な挙動を示すため、用いられるタイトルは多くない。
一方最強でんでんは、バトル自体の面白さは全く期待されておらず、バトルは自分が強くなったことを確認するための儀式であるため、少しの数値の上昇で大きな結果の変化がある方が望ましい。
同様に教養パラメータによる追加攻撃も、教養が閾値を超えなければ何もせず、閾値を超えれば100%発揮されるシステムになっており、「変化を大きく見せる」ことは意図的な設計と思われる。
元来スマホRPGは達成意欲と射幸心が根幹にあるジャンルだ。多くのスマホRPGは、達成対象やガチャの「意義」のため、魅力的なストーリー・キャラクターや、ランキング機能・ギルドバトルなどの対人要素などを組み込んでいるが、ストーリー・キャラクターなどの魅力向上には大きなコストがかかり、コストをかけても成功するとは限らない。
最強でんでんはリッチ化を志向せず、代わりに細かなマイルストーンを丁寧に意義づけたり、ランダム性を随所に仕込むことによって、達成意欲と射幸心の喚起にチャレンジしたタイトルと言えるだろう。
カジュアルなコミュニケーションの形成
このほかにも最強でんでんにはユニークな工夫が様々盛り込まれている。もう1つの軸になっているのが、コミュニケーションの形成だ。
・コメント欄
アイテムやキャラクターなど大半のページにはコメント欄が付いており、コメントやレスを書き込むことができる。ゲームの攻略Wikiや企業系攻略サイトにはコメント欄が付いているものが多いが、同様の機能がゲーム内に実装されている。
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・ガチャ幸運度ランキング
ガチャの結果に応じて幸運度が算出され、ハイスコアが表示される。結果はロビーチャットで共有可能。また、幸運度の高いガチャや、高額の支払いが行われたときにロビーチャットに「おすそ分け」が流れ、先着順にアイテムを受け取ることができる。
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・運営との距離感
コメント欄・ロビーチャットのコミュニケーション機能や、カジュアルな世界観と合わせて、運営とプレイヤーの関係もカジュアルなものにする意図が伺える。
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・サーバーの分割
これは放置系RPGにはよくある仕組みだが、サーバーが数十個に分割されており各種ランキングは同じサーバー内のみで競われる。真剣に世界一位を目指すのではなく、ゲームの開始時期を揃えた身近な範囲での競争やコミュニケーションが意図されている。
まとめ
ここまで見てきたように最強でんでんはくだらないゲームを装いつつも、実態は細かな工夫を丁寧に張り巡らした、放置系RPGの模範とも言えるタイトルだ。この記事で紹介できなかった工夫はまだまだある。多種用意されている資源がどれも同じくらい不足する(価値がある)ように感じるなどゲーム内経済のバランスは良好だし、UIも軽快に仕上がっている。
放置系RPGを毛嫌いする人も多いかもしれないが、筆者はこのような単純なゲームは人間の欲求がシンプルに現れることが多く、分析対象として興味深いと考えている。いままでスマホRPGをプレイしたことがない人は、是非一度最強でんでんの世界に開発者の工夫や遊び心を探す旅に出かけてみてはいかがだろうか。
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