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関西エアビー体験 取材その3 大阪堺で和包丁研ぎ体験

体験名:Sharpen Japanese Knives in Osaka(大阪堺で和包丁研ぎ体験)
体験ホスト:Yujiさん(30代男性 インバウンドツアーガイド)
所属:株式会社ジェイノベーションズ
体験開始時期:2018年12月
これまで参加したゲスト数:約300人
体験内容:和包丁の発祥の地であり、プロの料理人用包丁のシェア90%以上を誇る大阪堺で、プロから学ぶ包丁研ぎ体験。堺刃物ミュージアムでは、包丁の種類と用途、製法と歴史を学ぶ。その後、老舗和包丁屋に行き職人の手ほどきを受け、砥石を使い包丁を研いで柄に入れる。ゲストは最後に自分で研いだ自分の名前入りの包丁を持って帰ることができる。


私自身、大変勉強になったツアーだった。ゲストの情熱にも圧倒された。Yujiさんの「ゲストの情熱で体験は変わる」という言葉も印象的だった。
この和包丁研ぎ体験に参加するゲストは、他の観光街歩き系の体験と比べ、目的意識がはっきりしている。「和包丁の聖地・大阪堺で和包丁を研ぐ」というシンプルな内容で、皆このツアーのために堺にやってくる。持ち帰る包丁の代金も含まれるため、他の一般的なツアーと比べて、ツアー代金は決して安くない。なのでこう言ってはあれだが、ツアーに参加する人ははっきり言ってよっぽどの「モノ好き」だ。今回参加した、アメリカ人・カナダ人カップルもご多分に漏れず、かなりの刃物好きで料理好きなことがすぐにわかった。当たり前のようにマイ包丁の話などで盛り上がっている。そこには、同じく「刃物・料理を愛する仲間」といった一種の連帯感のような空気も漂っていて、妙に心地がよい。

小粋なトークを弾ませながら、堺刃物ミュージアムへ入る。ここで、Yujiさんが刃物の種類や使い方を解説してくれるのだが、その説明の仕方がなんとも絶妙なのだ。押し付けすぎず、かといって淡白でもなく、専門用語を駆使して、的確に解説をしてくれる。もちろん、ところどころ笑いも入る。このガイドは和包丁に対する、深くて幅広い知識と情熱を持っていて、それを分かりやすくかいつまんで話してくれているのだろうなというのが、なんとなく伝わってくるのだ。きっとゲストも同じような印象を受けたと思う。ガイドの何気ない立ち振る舞いから、インテリ感すら滲み出てくるのはどういうことだろうか。ゲストの質問も活発で、このミュージアムのセッションはかなり熱を帯びた。

実はこの堺刃物ミュージアムは個人的に一度ツアーできたことがある。そのときはただ見て回っただけで、強く印象には残っていなかった。しかし、今回Yujiさんに案内してもらい、印象が180度変わった。ほとんど三徳包丁しか知らなかったが、 刺身包丁や出刃包丁の機能美に魅せられ、欲しくなった。ダマスカス包丁の文様の魅力。麺切包丁の潔さ。薄刃包丁で野菜を切って、ペティナイフで果物をむく。そんな普段使いができる人になりたいと思ってしまう。

ツアーのハイライトはもちろん、包丁屋での包丁研ぎ体験だ。老舗包丁屋の暖簾をくぐると、職人さんたちが暖かく出迎えてくれる。用意された作務衣と前掛けを身につけるとゲストの顔が引き締まる。研ぎ師の職人さんの解説をYujiさんが、補足を交えながら巧みに同時通訳してくれる。包丁の研ぎ方の解説の後は、デモンストレーション。用意してあるなまくら包丁をその場で研ぎ、新聞紙を縦に切るとあら不思議。研ぐ前には引っかかって切れなかった新聞紙が、吸い込まれるように「すーっ」と切れ、一同から歓声が上がる。

ゲストは事前注文した名前入りの包丁を受け取ると、荒砥石と中砥石の2種類の砥石を使って熱心に自分の包丁を研いでいく。その横で職人さんが一人一人丁寧にわかりやすく教えてくれる。一生懸命研いだ包丁で、それぞれが新聞紙を切って切れ味の良さを確認し、隣の部屋へ移動。

次の工程は刃を柄に入れる作業だ。店主の実父の御歳94歳、この道70年以上という国宝級の大大職人(おおおおしょくにん)が指導をしてくれる。和包丁の世界は、細かな工程ごとにスペシャリストがいる分業制なのだ。ゲストの目は真剣そのもの。部屋の中には、中子(刀身の付根)を熱する炎の音と木槌のカンカンという小気味良い音が静かに響き渡る。不思議なもので、こういうときは言葉はいらない。みな、わかるのだ。今やっている作業がいかに大事か、目の前に現存する技術がいかに尊いか。そこにはゲストがこれぞ「スペシャルな体験」と評する、「スペシャリスト」と共有する「スペシャルな時間」があった。

最後に包装されたマイ包丁を受け取り体験は終了となる。ゲストは一様にみな満足そうだ。驚いたのは、体験終了後に参加したゲストが、体験で得た知識を使いながら自分の包丁とは別に家族・友人へのプレゼント用としてディスプレイ内の包丁を真剣な眼差しで選んでいたことだ。今回の参加者も複数本購入していた。Yujiさんによれば、それは珍しいことではないという。砥石に関しては、全員が購入していた(私も買った笑)。大切な包丁を自分で手入れするのだ。

「私はこの素晴らしい包丁の製造工程と、作られるまでの物語を知った。これは素晴らしいこと。料理で使うたびに今日のことを思い出す」とカナダ人ゲストは話していた。みな「物語」を求めているのだ。


【Yujiさんへのインタビュー】 

「体験をはじめたきっかけ」
この包丁ツアーが一番はじめに作ったツアー。料理が好き。それと刃物が好きで、鍛冶屋をやりたかった。堺が包丁で有名なのは知っていた。それで、始めた。
本来は、鋼を打つところからやりたかったけど、それは時間がかかるので諦めた。
ツアーガイドとして、日本人だけでなく海外の方達にも和包丁の魅力を発信したいと考え、老舗包丁屋さんに相談して外国人向けに体験を受け入れてもらえるようになった。こうして「大阪堺で和包丁研ぎ体験」の体験ツアーができあがった。

「体験を始めた当初と今で内容を変えたところはあるか」
流れは既存のものから変えてない。説明の仕方を外国人用にわかりやすく調整したのみ。例えば、アメリカ人の料理が好きな人とかでも、バリ(※包丁の片面を研いだ時の「かえり」の部分で金属加工の専門用語。反対を向けて研いでバリをとって、包丁研ぎが完了する)を知っている人が少ないので、噛み砕いてわかりやすく説明をしている。

「体験を実施する際に気をつけていること」
みんな包丁を求めて参加している。料理が好き、日本の技術が好きという感じで、方向性が一緒。
そんな中、包丁がたくさん種類のある理由、その歴史など、さらに踏み込んで話すようにしている。
ゲストの期待していることを案内するのは当たり前。それをさらに凌駕して、何か他のこととリンクして、納得感がでるように話すように意識している。追求しだすときりがないけど、まだまだ調べ足りないことが多い。

「エアビー体験始めて自分の中でかわったこと」
体験を始めたときは、堺の包丁を知ってもらいたいという気持ちが少しはあった。だけど、だんだんやっていくうちに、堺の包丁に対するプライドのようなものが芽生えてきた。堺の包丁がすごいんやでと。日本の料理人の90%以上が堺の包丁をつかっている。堺はそんな包丁の発祥地。
今は各家庭にステンレスの家庭用包丁があって、簡易的な研ぎ機があるけど。職人たちは、研ぎ方や包丁の種類にもこだわって、使う食材にもこだわって、その結晶としての包丁文化が堺にはある。それを知っている身としては、そのことは誇りだし、もっと知ってほしいと思う。
職人同士は本来ライバル同士で、ぶつかるべき存在。だけど堺には、お互い切磋琢磨する風潮がある。包丁はまさに十人十色。いろんな種類がある。同じ三徳でもデザイン性や重さ、薄さが全然違う。見ていて面白いなと思う。

「料理好きのYujiさんだけど、プライベートでの包丁の使い方は変わった?」
今までは水分を拭かなあかんとかは考えてなかった。砥石もそんなにつかったことはなかった。今まで家で研いでいたのと、勉強してから研ぐのとでは明らかに変わった。研ぎにはこだわるようになった。頻度としては、月に2、3回は研いでいる。

「今までの印象に残るゲスト」
日本ではときに、包丁はプレゼントとして良くないという印象をもつことがある。「切れもの」なので、縁を切ってしまうとか。
逆に包丁屋では、包丁は「守るもの」、「生活に必要なもの」として捉えられている。「道を拓く」、「悪を切る」とかもある。
海外でもRelationshipを切るからよくないと考える人もいる。それでも結婚式用のプレゼントとかに包丁を買ったり、彼氏の誕生日にサプライズでこの包丁ツアーをプレゼントしてくれるゲストもいる。こちらは、今日のゲストはサプライズプレゼントで来ると事前に知っている。それでも、実際に彼氏と一緒に来て、驚いたりする反応を見ると、こういうのはいいなと思う。この「包丁体験」をプレゼントして、一つの思い出として、二人の記憶に残すために。わざわざそんな計画をしてくれるのは嬉しい。

「ゲストに助けられたこと」
街歩き系のツアーは、街を見せていくのは、ガイドの重要な役割。ツアーガイドは、ガイド自体が商品。自分がどうエンターテイナーになるかで決まってくるところがある。
この刃物ツアーは、みんな刃物が好きでくる。その人の熱が強ければ強いほど、いいツアーになる。そういう意味で、ゲストに助けられている。「ほんまに来たかったー」。それが職人さんにもきっと伝わる。悪い言い方をすれば、僕が楽をできるコンテンツ。商品が僕から刃物にうつるので。ゲストにはそういう意味で、案内人として、助けられているかもしれない。

「道頓堀の町歩きツアーと和包丁の工房ツアーの違い」(Yujiさんは道頓堀町歩きツアーのホストでもある)
町歩きツアーガイドは、購入してもらうのはツアーの時間だけ。工房系のツアーは、例えば「包丁」という商品も買ってもらったるするので、物を思い出として持ち帰ってもらえる。物があれば、家で見るとそのときのことを思い出すし、それを他の人に自慢できる。さらに、また日本に来た時に,別の人にプレゼントしようなんてふうに思ってもらいやすい。
それに比べ街歩き系のツアーは、他の人に「何か」をプレゼントできない。写真を見せるくらいになる。

「やっていてどちらがより楽しい?」
楽しいのは、包丁。原点であり、そもそもこれがやりたくてエアビー体験を作った。本来一番やりたかったのは、包丁を一から作っているところを見て歩くというもの。そして最後に自分で包丁を研いで持って帰る。しかし、それは職人さんも仕事でやっているから、なかなかそういうところに立ち入れなかったり、コネクションもそこまで強くなかったりで実現しなかった。


<参加ゲストのインタビュー> 〜(ゲストが急遽インタビューに参加)〜

「この体験に参加する前と後で、印象が変わったこと」
ゲスト
「エアビー体験がどういうものなのかよくわかった(More open to Airbnb experience)」
(ゲストは2組とも初めてのエアビー体験)

「体験の中で、何が特に良かったか。包丁を買えたこと、研ぎ方学んだこと、それとも現地スタッフとの繋がり?」
ゲスト
「それは、スペシャリストから教わることができたこと(Learning from an expart)
Yujiが教えてくれるというのは、大変興味深い。だけどそれは申し訳ないけどノーサンキューだったかな笑
70年以上の経験の持ち主,そんな本物の素晴らしい人から教わることができたのが、何よりスペシャルだった。Yujiはその特別なコネクションを持っていて、橋渡し役として見事に繋いでくれた。そうでなければ、どのようにコミュニケーションして良いかもわからなかっただろう。包丁をもらえるのは、おまけみたいなもの。」

「この体験を通じて、達成したいことはあるか」(ゲストもいたので英語で質問)
Yujiさん「ブラックスミスのように、一から包丁を作りたい」
ゲスト「Yes, それは俺たちもだぜ!!一緒にやろう。どれくらいかかるんだ。1、2日間か。」
Yujiさん「いやそれじゃきかない」
ゲスト「大阪に長く滞在しないと。取り掛かる前に、筋トレとかしないといけないんじゃない笑」
私「まずきっと、職人さんの家の床を毎朝拭くところからはじめないといけないよ」
ゲスト「笑。こうゆうことか。『あー、この先生、全然包丁の研ぎ方おしえてくれないよー。いつ準備が整うんだ』って言ったら、もう準備が整っている。『研いでみろ』。『あ。研げる!!』。なんと、毎朝床を吹いていたことで、包丁を研ぐ筋力が鍛えられていたのか。みたいなやつだな」 (注意:こちらは冗談で実際はそんなことはありません)
一同笑

Yujiさん「本当に、これは個人的な夢。作るとしたら、たぶんダマスカス包丁かな。できたらみんなに売るからよろしくね笑」
ゲスト「It’s cool」

「体験を通じて達成したいこと」(日本語で改めて質問)
※英語での質問は上記のように愉快なゲストの乱入でジョークが過熱して途中で終わってしまったので、改めて日本語で質問をした。

なかなかあんま考えてなかったかな。だけど、ほんまにもっとまじめなこと言えば、もっと日本の刃物を世界へ広めていければいいなと思っている。職人が少ないらしいので、海外の人が職人になりたいってこっちに来たら、続いていくのかなと。僕がこんなんいうのはおこがましいけど、いろんな人に知ってもらえたらなと思っている。そういう架け橋になれたら。
一つ思っているのは、海外で一つ包丁の支店とか出したら面白いかなと思っている。展示会とかもいいかもしれない。


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