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200㌔捨てた日
これは、ガチで筋金入りの「片づけられない女」(ADHD)であるわたし、じぇっきゃが、ある出来事から一念発起し、大枚をはたいて整理収納アドバイザー2名と共に部屋の片づけをした、というだけの赤裸々なお片づけ記録である。
無駄に(?)長いが、読んだ方の何かの足しになれば幸いである。
※内容は「文学フリマ札幌9」「ZINEPARK渋谷」「ZINEFES吉祥寺」などで頒布する本と同じです。
販売情報
「200㌔捨てた日」は、じぇっきゃが個人で発行する同人誌です。
A5判 38ページ 500円(イベント直販価格)
現在(9/10)予定しているイベント
・9/22 文学フリマ札幌9「華道部OGの会」
・10/12 ZINEPARK渋谷 「じぇっきゃ」@ミヤシタパーク
・11/2 ZINEフェス吉祥寺「じぇっきゃ」
・12/1 文学フリマ東京39 「華道部OGの会」@ビッグサイト
・2025/1/11 ZINEフェス東京 「じぇっきゃ」@浅草
委託販売
・10/5~5 ZINEを知る。あなたを知る。@東池袋
通販
・9/22~ じぇっきゃのショップ https://jetcat.booth.pm/
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8月14日 21時30分
夏の夜、ほんの少しだけ気温が下がったのか、セミが鳴き始めた。
額から落ちる汗をタオルでぬぐいながら、わたしは思った。
「いまならなんでもできる気がするな」
7月15日 片付けのできないママ
完全に行き詰っている。
昨日は3連休の最終日だったので、久しぶりに夫とこどもと3人で外食に出かけた。
いつもの、駅前の串カツ田中。まだ早い時間なので、席には人がまばらだ。もうすぐ始まるこどもの夏休みの予定などを話しながら、メガサイズのレモンサワーを飲む。
こどもはいま、小学2年生だ。わたしたち夫婦は共働きなので、長い夏休み、こどもは基本的に毎日学童に通うことになる。
学童といっても、通っている小学校に併設されているところなので、普段と変わらず登校してもらえばよい。これはとてもありがたいことだ。
さらに夏休みには、毎日「スペシャルプログラム」といって何かしらのイベントが開催される。
水鉄砲大会だとか、みんなで科学実験だとか、プラネタリウムを見に行ったり、お笑い芸人のライブを見たりなど、とても楽しそうだ。まあ、そのすべてに追加料金がかかるのだが…。毎日預かってくれるだけで大変ありがたいので、親としては一生懸命働いて料金を払うしかない。
とはいえ、小学校低学年という貴重な時期の長期休暇。親としては、楽しい夏休みにしてもらいたい、なんらかの思い出に残る経験をさせてあげたいと思うものである。
あと、絵日記の宿題のネタもつくらなければならないし。
7月末に、3人で愛知県に行くことだけは決めていた。名古屋市内に1泊し、翌日、こどもが行きたがっているジブリパークで遊んで帰るという予定だ。
ジブリパークの入場チケットも、宿泊するホテルも、わたしが調べてすでに予約してあった。これで、絵日記は1日ぶん書ける。
あとは、お盆の予定を決めなければならない。
わたしたち夫婦は、どちらも実家が遠方にある。わたしは北海道で、夫は宮城県。
今年はお盆休みが少し長めにとれそうだったので、3人で夫の実家に帰省しようと思っていた。新幹線の切符は1か月前から予約できるので、そろそろ日程を決めたい。
そんな話をしていたら、ふいにこどもが言った。
「ねえ、ママは、ふうまくんとパパどっちが好き?」
ふうまくん、というのは、わたしがずっと応援しているアイドル、菊池風磨くんのことである。特に隠しもせずライブ映像を見たりしているので、こどももよく知っている。
「それは、パパだよ」
母親としてはこう答えるしかない。実際、目の前でどちらかを選んでハグしろ、とか言われたら揺らぐ自信はおおいにあるが、結婚した相手である夫本人に聞こえるところでそれは言えない。
「パパは、美人なお姉さんとママどっちが好き?」
こどもは最近こういうことをよく聞いてくる。
「もし、ママが別の男の人と結婚していたら?」「もし、自分がしんだら?」など、もしもの世界のことを考えているらしい。こどもなりに、自分の周りの人間関係を把握し始めた、ということだろうか。
「まあ、それはママって言わないとママが怒るだろうね」と夫は答えた。
ちょっと言い方が引っかかるが、考えていることはわたしと同じか…と思っていると、
「じゃあ、片づけのできる美人と、いつものママなら?」
こどもがそう聞いた。夫は、
「片づけのできるママがいいな」と言った。
かなりショックだった。
わたしは片づけができない。
初めて自分の部屋をもった小学6年生の頃から、片づいた部屋に住んだことがなかった。いや、たぶんそれよりもっと前から、自分のスペースがきれいに整頓されていることはなかったはずだ。
当時のわたしの部屋は、6畳くらい。大きな本棚から本があふれだし、床には服が山積みになっていた。机はよくわからない小物で埋まっていて、勉強するスペースなんてなかった。
両親はふたりともきれい好きで、父からは「豚小屋みたいな部屋に住んでる」と言われたこともあるし、母は半ばあきらめていて、「生ものだけは捨てなさいよ」と言って、たまに一緒に片づけてくれていた。
高校2年生、家族で北海道から東北へ引っ越しをすることになったとき、わたしひとりだけギリギリになっても片づけがまったく終わらなくて、友達が助けに来てくれたことがあった。
友達は、わたしの部屋に入る前にマスクをつけ、手袋をした。その姿をみて、なんて汚い部屋なのだ、と自分が恥ずかしくなったのを覚えている。
上京して一人暮らしをしていた期間も、もちろん部屋は汚かった。だけど、夫と結婚し、こどもが生まれてしばらくは、自分だけのスペースがなかったこともあり、なんとか人に見せられる状態を保っていた。
しかし、数年前に一軒家に引っ越して、久しぶりに「自分の部屋」ができ、そしてなんやかんやで鬱になってしまってからは、自分でも今までで一番ひどいと思える状態の部屋になってしまっていた。
鬱状態になると、ストレス発散をしようとして、際限なくモノを買い続けてしまう人がいる、と聞いたことがある。わたしはたぶんそれだ。
本や化粧品、バッグ、手芸道具、文房具に、趣味で集めているリカちゃん人形。何ひとつ捨てられないまま、どんどんモノが増え続ける。
いちばんひどいのが服だった。ここ3年で一気に20キロ太って服のサイズがSからLにまで変わったこともあり、3サイズぶんの服が地層のように積まれている。当然タンスやクローゼットには入りきらず、あふれたまま。
夫はわたしと同じようにとてもたくさんモノを持っているタイプの人間だが、片づけは苦手ではない。
大量の本やおもちゃ、レコードを、無印良品のカラーボックスにきれいに詰め込んだ部屋で暮らしている。
リビングには家族で使うもの、もしくはこどものものだけを置く、というのが夫の決めたルールで、わたしがリビングにバッグやモノを置きっぱなしにしていると「私物を置くな」と怒り、いつも「頼むから俺の邪魔だけはしないでくれ」と言う。
わたしはそのたびに傷つき、怒り、そして「こんどこそ片づけよう」と思ってきたのだが、やっぱり難しく、今の状態になっているのであった。
このあたりは、健常な人には感覚がわからないところだろうと思う。
よし、片づけよう、と決意して部屋にいくのだけれど、まずどこから手を付けていいかわからない。
積んである服を崩してみて、捨てていいものを選んでも、結局あまり減らない。
部屋中に置いてある細かな文房具や、おもちゃや、本や、小物は、捨ててもいいと思えるものがない。ほしいと思うから買ったのだ。
そうやって部屋にあるものを眺めているうちに、疲れてきてしまう。とりあえず目についた明らかなごみを捨てて、終わり。結果的に、片づけはまったく進まず、時とともにモノが増え、どうしようもない状態になっていく。部屋のなかでメガネやバッグやヘアアイロンがなくなったりするくらいだ。
そんな状況はもちろん、一緒に暮らしているこどももわかっている。
夫はこどもに、「ママみたいにならないように片づけしようね」といって片づけを教えている。
それってどうなの、と思うときもあるが、事実なので反論できない。
それで、この日串カツ田中で、
「片づけのできる美人と、いつものママならどっちが好き?」という疑問が出たのだ。それで、答えは「片づけのできるママならいいな」だったのだ。
それを聞いてわたしはしばらく黙ってしまった。
7月16日 決意
「片づけのできないママ」とこどもに認識されてしまっていた。事実だし、わかっていたつもりだったけど、改めてそのことを考えると恥ずかしくて、つらくて、どうしようもない気持ちになる。
部屋を片づければいい、ただそれだけなのに、なんでできないのだろう。
わたしはADHDだ。通院して薬も飲んでいる。
「片づけないのを障害のせいにするな」と夫は言う。でも、障害のせいにでもしないと、自分が本当に、病気は関係なく、ただの怠惰でダメな人間だとわかってしまったら、また以前のように、死にたいと思う気持ちが止められなくなってしまう。それはいやだ。
夫は「俺が片づけを手伝うのは嫌なんでしょ?」と言う。
確かに嫌だ。もし夫に手伝ってもらったとしたら、わたしのものはすべて容赦なく捨てられてしまうだろう。あと、片づけている間たぶんずっと怒られる。
「お義母さんに手伝ってもらうとか?」
それも嫌だ。母は、どちらかというと夫に近い人間だ。わたしのモノへの愛着を理解してくれることはない。しかも、こんな人間に育って情けないとかいって泣いたりするかもしれない。そんな思いはさせたくないし、その姿も見たくない。
でも、ひとりでは無理だ。
「お部屋のお片づけ」のサービスをやっている会社がたくさんあることは知っていた。実は、以前住んでいたマンションで、こどもが生まれる前に一度来てもらったことがあるのだ。
子供用品が増えるにあたって、狭いマンションの収納を見直したくて、寝室の押入れの整理をお願いした。
大手の会社が安心だろうと、ダスキンを選び、女性2名に3時間来てもらった。
3時間で、2畳くらいある大きな押入れの中身をすべて出して整理整頓していったのだが、妊娠中であったわたしは、出てきたモノの「いる・いらない」を判別する途中で本当に疲れてしまい、後半の2時間ほど、ずっと隣の部屋でうろうろしていた。
そのせいで結局あまりモノを減らせず、作業に来てくれた方には「服が多すぎですね」と言われ、さらに途中から整理を手伝わなかったことでモノがどこにあるかわからなくなり、大変困った。せっかくのサービスをうまく使えなかったのだ。
大手家事代行会社のサービスはだいたいどこも同じくらいの価格で、時間も3時間や4時間とプランで決まっている。「整理収納アドバイザー」という資格をもっている方がきてくれることがほとんどで、キッチンや収納場所などの決まった箇所を使いやすいように整理整頓することを想定しており、「ガンガン捨てる」という感じではない。
一方、「捨てるお手伝い」となると、清掃会社になる。いわゆる「汚部屋」や、もう使わない家の清掃がメインで、捨てる・捨てないの判別をして収納することはほぼない。
当たり前のことだが、どのサービスを利用するにしても「捨てるかどうか決める」作業は自分でやらなければならない。きれいな部屋にしたいという目的に合っているのは家事代行業者のほうだと思うが、きれい好きに違いない「整理収納アドバイザー」の人たちは、こんな汚い部屋に住んでいるわたしを軽蔑するかもしれない、という考えがぬぐえなくて、予約する勇気が出ない。
お金を払ってサービスを使うのも無理なのか? わたしは一生、このまま汚い部屋で生きていくのかと思いながら、「片づけられない 片づけ」などという絶望的なワードでウェブを検索していると、あるサイトの文言が目に留まった。
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